山田の人生のマイルストーン
山田が牙を剥くぞ!撤収だ!
「……これ、はどういうことよ、山田」
花子の声は、怒りというよりも、底知れぬ恐怖に裏打ちされたかすかな震えを帯びていた。
報告書に記されていたのは、彼がこの学校の生徒として籍を置くよりはるか以前からの記録――いや、もっと根本的な、彼の人間性を形作った「呪い」の履歴だった。
「中学生の頃、貴方の父親は学歴社会の構造的バグに押し潰され、プライドも尊厳もすり潰されて狂っていった。……違う?」
山田は微動だにしない。ただ、スクエアフレームの眼鏡の奥で、冷徹な瞳が花子を捉えたまま動くことはなかった。
「……ほう。そこまで読み解いたか」
「あなたがこの学校に執着し、生徒のふりをして居座り続けている理由も、これで全部繋がったわ。世界が狂っている? だから、あなたがそのシステムごと書き換えてやるって?」
花子は一歩、机へと歩み寄る。
「経営難にあえぐこの私立高校の経営陣に目を付け、裏から巨額の『テナント料』を流し込んで首根っこを押さえた。それが、あなたが最初に描いたマイルストーンだったのね……! 学校を乗っ取り、自分だけの実験場にするための!」
それは教育者としての倫理の対極にある、あまりにも冷酷な資本と構造のハックだった。
高校生という仮面をかぶった男は、最初からこの学校の「本当のオーナー」だったのだ。
山田はゆっくりと口角を吊り上げ、嘲笑うかのように息を吐き出した。
「当たり前だろ。あんな狂った学歴社会の歯車に組み込まれて、親父のように無様にすり潰されていく人生なんて、エラー以外の何物でもない。なら、俺がその上位互換のシステムを作ってやる。この学校はそのための最初のテストケースに過ぎない」
「ふざけないで……! あなたは、私たちを、この学校のすべてを、自分の復讐と野望のための踏み台だって言うの!?」
「復讐? 買いかぶりすぎるな、花子先生。そんな感情的な代物で、俺がここまで精密な設計図を描けると思うか?」
山田は立ち上がり、花子の逃げ場を塞ぐように、その一歩を踏み出した。
圧倒的な知性の圧力が、空気の温度を奪っていく。
「俺が求めているのは感情の救済じゃない。この歪み切った世界の構造を完全に最適化し、俺のロジックの支配下に置くことだ。――そして、その計算式のなかで、お前だけが唯一、俺の予想を狂わせる『最高のエラー』としてここにいる」
「私……が……?」
「そうだ。お前が俺を疑い、恐れ、それでもこの学校から離れられずにいるその執着すらもな――すべては、俺が描いた無限大の設計図のなかで完璧にコンパイルされている」
背筋を這い上がる戦慄。
自分が彼を追い詰めているつもりが、気づけば再び、彼の掌の上の、最も深い迷宮へと引きずり込まれている。
逃げることはできない。
この男が世界を書き換えるその瞬間まで、自分は彼のコードの一部として――共犯者として、永遠にこのシステムの中に縛り付けられるのだから。
明日の分も書いてから寝ます




