表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
6/18

先生!恋愛成就はどうすれば?

「ちょっといいかしら」

「どうしたの、藤咲さん」

「委員会のことで話があるからついてきて」


 そういうなり、藤咲は拒否権はないとでもいうように俺の腕をとって歩き出す。

 腕を絡めるとかそういう扇情的な感じではなくて、まるで背負投をする寸前、みたいなポーズで俺の腕を担いで俺を教室から連行する。


 てかホントに力加減が下手なのな、マジでイタいんですけど!?


 しばらくそのまま歩き人気のないところまで来たというのに、一向に腕が開放される気配がないので俺は叫ぶ。


「おい、いい加減放してくれ。腕が砕けそうなんだ」

「それもそうね。ここまできたら逃げらんないだろうし」

「なに、俺は殺されるのか?」


 藤咲は何も答えずに階段を上がっていく。俺達がやってきたのは特別棟の三階で、小さな部活とか同好会などがしようする階層だ。


「なぁ、委員会とか嘘なんだろ。一体何のようなワケ?」

「この前、ゆくゆくは部活を作りたいって言ったでしょ?だから今回は部室をどこにするかの下見よ。ちょうど蓮も美弥も昼練やら他の友達とご飯やらでいないから声をかけてみたの」


「おぉ、藤咲って空気読むことできたのな」


「あんたたちから学んだことよ。蓮って子は前の作戦会議の時に、おちゃらけてるように見えて意外に繊細に振る舞いを変えて場の空気を保ってたでしょ。あれってたぶん、主人公側になるにはああいう面倒だけど人間関係で荒波をたてないようにすることが重要だから、勝手に身についたスキルなんだと思ったのよね。だから私もそのルールに則ってみたの」

「意外に賢いのか?」

「あったりまえでしょ!今更気づいたって、テスト勉強教えてあげたりしないから。もう遅いから!あー、でもぉ?ダブルデートの時にご飯とか奢ってくれたら、考え直してもいいけどぉ?」

「奢らねーよ。俺学年トップだし」

「ほんっとーにつまんない主人公だこと!」


 褒め言葉なのか、貶し言葉なのか、どちらなんだろうか。

 俺が回答に困っていると、藤咲は急に感嘆の声を上げたかと思うと近くの教室へと駆け出した。扉にある窓越しに中を覗き見ては、不審者のように全体を眺めている。


「これっ、扉って空いてたりしない——って、開いちゃったわ!私ったらさすがのヒロイン力ね」

「流石にバレたらまずいだろ」

「怒られるだけで自由が手に入るなら安いものよ」


 そんな俺の静止の声も聞かず、藤咲は教室の中へとかけていく。こういう既存概念というか通念意識みたいなものに縛られない自由さは、やはり憧れる。けれどまだ抵抗感みたいなものが、俺を責め立てるのも事実。


 教室の中は、後方に使われていたのであろう机や椅子がつまれているだけで俺達の自教室と対して代わりはないように見える。


「ねぇ見て!きれいな花ね、桜かしら?でも最近だとこのくらいには散ってるんだったかしら?」

「あれはハナミズキだな。通有門側に植えられてて、告白の名所なんだよ」

「告白の名所!これまたラブコメっぽい木じゃない!」

「なんでも花言葉が縁起がいいんだってさ。永遠だとか、恋だとか、そういう意味らしい」

「奇跡じゃない!茜さす部室で、後ろでは永遠を謳っているはずのハナミズキがひらりと舞うの。そこで永遠なんて無いと知りながらも、居心地の良いこの時間が永遠に続くことを願う。あっはー!ラブでコメディな匂いがするわ、この部室からは!」


 興奮した犬見たく部室を走り回る藤咲。

 俺としては正直どうでもいいため、できるかぎり冷静になって考える。


「てか、部活動の要件とか知ってるのか?」


「部員が四名以上いることと学校に泥を塗らないような活動であることが条件らしいわね。だからメンバーをどうするかよね」

「それって、俺も入ってるのか?」

 俺の言葉に、藤咲は目を丸くする。


「そんなわけないじゃない。あなたは一人になりたいんでしょ?ま、さみしくなって私に頭を垂れるなら入れてやらないこともないわ」


「そっか。それはよかった」


 俺は藤咲の物わかりの良さに安堵する。俺は今回の依頼できちんと嫌われ、うんざりな人間関係とは無縁な生活を送るんだ。そう決意を新たにしていると、藤咲の方から何かを引きずる音が聞こえる。


「なにやってんだ?」

「え?うーん、今から部活のパイロット版をやろうかと」


 パイロット?いわゆる試運転ということだろうか。わざわざ小難しい言葉を使うのがバカで意地っ張りな藤咲っぽい。


 俺は藤咲に顎で促され、すでに椅子を出して座っている藤咲のとなりにある椅子に座る。長い机の向こう側には、一つだけ椅子が藤咲によって用意されている。

 イメージとしてはたぶん部員が俺等側に座り、向かい側に訪問者が来るような、よくあるラブコメの部活をイメージしているんだろう。


「それじゃあダブルデートだけど、それに向けてはまずは何をすべきかしらね」

「まずは遊助たちからの了承じゃないか?遊助からの相談って言っても最初は悩み相談とか、ただ話を聞いてただけみたいなところだったからな。急なデートに遊助はびっくりするだろ」

「あとそれで言うと、やりたいことと、確認したいことが二つあるのよね。まずはより相手の人間性とか背景の理解。もう一つはあなたがどうしたいか、ね。ここが一番重要」


「俺が、どうしたいか?」


「そうよ。つまりあなたは今回の恋愛を失敗させて嫌われるのか、成功させたとしてもどこかで嫌われるように仕向けるのか、そのどっちにするのかという話。それによって私の動きも変わるでしょうしね」


 なんというか、ラブコメ系が絡むときだけIQが高くなる感じが非常に慣れない。普段であれば勉学や部活動につかれた学生たちが気分転換に阿呆になって話すのが恋愛の話なはずなのに、こいつはガチでラブコメを攻略しようとしてきている。


「そうだな」

 だからこそ、俺も本気で考える。自分の進路を進学か就職にするのか、それくらいの熱量で、考えてみる。


 しばらく無言で考える間も、ずっと藤咲は静かに俺に視線を注ぎ続けている。


 本当に言っても良いんだろうか。これはきっと、イメージ通りの源元光からは逸脱している。


 けど、本気で変わることを目指していて、方向は逆でも同じく今に不満を抱えるバディーである藤咲なら受け止めてくれるかもしれない。

 俺は自分の奥底でドロドロと熱く蟠っている部分を、恐る恐る吐き出す。嗚咽にも似た息遣いで。


「俺は、失敗させてでも嫌われたい、かな」

「そう。わかったわ」


 藤咲は、決して顔色ひとつ変えずに静かに頷いた。同情で微笑むわけでも、侮蔑で目を細めることもなく、ただ俺の決意を穏やかに受け入れてくれた。それが、どれだけ嬉しいことか。


 藤咲の言葉には嘘がない。だからこそ、そんな藤咲には誠実でなければならないと、俺は思うことができる。


「理由としては、別に遊助に何か因縁があるとかじゃなくて、逃げ道をなくしたいんだ。もし、成功を目指して動いてもそれはどこかで俺の株が上がるように、周りが誤解して勝手に納得してしまう可能性がある。でも確実に恋愛相談が失敗したって結果になったなら俺の株が上がるようなことは、なくなるように思うんだ」

「まぁ、実際『頼れば何でも解決できる、優秀でスマートな人間が源元光』っていうイメージだものね。であれば失敗を見せておくってのはいい手だとは思うわ」


 ただ。と藤咲はやや声のトーンを落として続ける。


「大丈夫?あなたには、ハードルが高くないかしら。意図して人を不幸にしようだなんて、その心意気は認めるにしても、自分で自分が嫌いにならないかしら」

「俺の心配までしてくれるのか」

「当たり前でしょ。あなたは私を誤解してる。私がメインヒロインになろうとしているということは逆説的に、いまはまだ私は完全で完璧に、自分都合で青春を振り回すような厚顔無恥にはなりきれていないということなの。だから私のわがままのせいで、あなたがすべてを失って、その上で精神すら駄目になりそうなら、私だって躊躇するわ」


「優しいのな、藤咲は」

「あなたほどではないけどね」


 俺が優しい?

 藤咲は儚げに笑ったかと思うと、表情を切り替える。


「じゃあとりあえずはその方向で。ただ、本当に良心が痛んだりしたらちゃんということ。今は私とあなたはバディなんだから、そういう隠し事は無しよ」

「わかった。約束するよ」

「次は二人の人柄だけど、まず何かまだ言ってない情報とかあるかしら」


「えーと」

 俺は頬を掻く。

 あるにはあるのだが、さっきの自分の発言の手前言い出しづらい。

「なによ、隠し事はなしっていったわよね?ほら、優しい優しい光くん、いってごらんなさいな」


「えーと、その。遊助が好いてる神田渚っていうマネージャー、実は俺に告白してたんだよ。一年の終業式の日」


「前言撤回、あんたはドがつくほどのクズよ。一体どんな神経したら自分のことが好きな女子と望みもない男子生徒をくっつけようってポーズを取れるのよ、サイコパスよやってること」

「俺も重々承知だよ!てか、そういう気味悪さのせいで自分とか今の環境がいやになってんだろうが!」


 絶賛、昨日も「今ひまかな?」みたいなラインが来たばかりなのだ。こればっかりは蓮たちにも言っていない。というか、蓮たちだからこそ言い出せないまである。

 けどまぁ、俺の経験則からしてこういう告白したみたいな話って本人が結局友人に流したりして、回ってくるものではあるんだけど。


「それじゃあ恋愛相談を失敗させるってのは簡単そうだけど、問題は私がどうやって好感度を上げるかなのよね」


 俺はそれを聞いてハッとする。俺はさっきまで自分のことしか考えておらず、藤咲の好感度を上げるにはという観点から考えてなどいなかった。


 藤咲自身も俺から情報が開示される事に自分の抱く目標がどんどんと遠のいていくのを感じていただろうに、途中で横槍を入れないあたり、コイツの人柄の良さを感じる。

 ホント、駄目なのは言動だけなんだよな藤咲は。


「まぁ慰めるとかか?それだと弱いか」

「そうねぇ。もしくはポジティブに失敗させる、かしら」

「遊助に非常に協力的に接したうえで、負けさせるということか」

「そうね。でもそれだけだとやっぱりどれだけあなたが好感度を下げたとて、無理があるわね」


 うーんと頭を捻る藤咲。


「別に、ダブルートだけが好感度を上げるチャンスではないだろ」

「というと?」

「例えばクラス委員としての仕事とかな」


 目を丸くする藤咲に、俺は続ける。


「ある意味で、初期段階でマイナスイメージがあるっていうのはアドバンテージにもできる。何か良いこととかをするとプラスが本来の値よりも多めに計算されたりとかな」

「なるほど、ヤンキーがちょっとだけ優しくなるとめっちゃいいやつに見えるみたいなね!」


 まぁ大体はそんな感じだと思う。

 そんな風に考えていると、藤咲が気づいたと言った様子で俺を見る。


「でもそれって光も一緒じゃない?急に光が悪い子としたら、これまでのプラスのイメージのおかげで一気に嫌われたりしないかしら」

「俺もそれを考えたが、俺はこれまでの時間が共有されてるせいで急な方向転換はしずらいんだよ。考えても見ろ、昨日まで委員長とかを積極的にやってた良い子ちゃんが、急に先生にタメ口を使いだしたり、授業を妨害し始めたりしたらそれはマイナスと言うよりかは心配が勝つだろ」


 俺の説明に納得したように頷く藤咲。良くも悪くも、源元光として過ごした日々のせいで、周囲の人間は「今の本当の俺」を見てくれないのだ。


「なら、目下の課題としては遊助、渚との接近かしらねぇ。あとは今からでも好感度を稼がないといけないわね。まぁ、と言っても委員会の集まりなんて私参加したこと無いし、何ができるかはわからないけどね。どちらにせよ、転校したばっかの注目度が高い内にやっとかないと」


 至って真面目で怜悧な結論でそう締めくくると、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る。

 またあの監獄のような教室に戻って、嘘をつき続けないといけないのか。


 そう思うと、途端にこの部屋には郷愁のようなものを覚え始める。


「それじゃ行きましょうか。って、大丈夫?」

「何がだ」

「いや、なんでもないわ。ただ光、時には休むことも大事だからね。それだけは忘れないことよ」

「俺から好感度を稼いでどうするんだよ」


「あら、私はふつうにしてるだけだけど?」

 藤咲は人差し指を口にやって、ニヒルに微笑んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ