願った先は、変わらない
あの夏祭りから数日後。
華やかで充実していた俺の高校生活は、変化を迎えていた。
「それでさ、俺と遊助が先生に怒られちゃったんだよ」
「そりゃそうでしょ。で、どうせ渚あたりが尻拭いさせられるんでしょ」
「あはは、ほんとお母さんみたいだよね、渚ちゃんは」
いつもの会話。
蓮が話題を出すと、そこに美弥がちくりと棘のある返事をして、その痛みを治癒するように侑夢がポジティブな相槌を打つ。
そんな、いつもの会話。
たった一つ違うことを挙げるなら、その会話はあくまでも俺が盗み聞きしているものであると言うことだ。
俺は窓際の、一番奥の席で頬杖をつきながら窓の外を眺めている。特に何かを探しているわけでもない。
俺があくびを噛み殺していると、扉が開かれる音がした。それは教室後方の扉で、侑夢たちが集まっている側の扉の音。
「あ、ハナハナ。なんか先生によびだされてたけど、どうしたんだ」
「私、部室候補の教室に私物とか置いて自分の領土だって主張してたんだけど、使用許可出してないだろ!って怒られたのよ」
「あれ、あなた何か部活入ってたっけ?」
「いいえ、何にも入ってないわね!私と言う器は今ある部活動に収まるところじゃないのよ!」
「あー、もういいわ。頭が痛くなってくる」
美弥は呆れたようにかぶりを振ってこめかみを抑える。
それから藤咲もその集団の輪に入って、談笑を始める。
俺はそれを見届けてから、改めて周囲を見渡した。
今日も教室にはいつも通りの日常が繰り返されている。俺があの日に濡れたことも、怒声をあげたことも、初めての友達ができたことも、そんな事どうでもいいと笑うように、いつも通りの世界は今日も平和だ。
俺は席を立って、教室を出た。放課後の廊下には部活に急く者、委員活動に従事する者、ぐだぐだと会話しながら帰路に着く者、そして、一人で優雅に歩く俺。
そんな色とりどりの青春が溢れている。
藤咲は俺に言った。
あなたがここの主人公?
思い出すだけでも笑えてしまう出会いだけど、その主人公だって結局はこの程度の存在ということだ。いてもいなくても、社会は回るし青春は続く。「今」に盲目的だった俺は、そんなことすら忘れていた。
俺は十数分ほどの遠回りをしてから中庭にたどり着く。放課後に学校を歩き回るのは、どこか自分が青春を見守る亡霊になったようで、面白い。
赤に塗装された自販機で、なにを頼もうかゆったりと悩む。
こんな時間をかけていたら蓮とかに勝手にボタンを押されて、一騒ぎ演じていたものだ。もう戻らない日々は、既にどこか懐かしい。
部活の喧騒、鳥のさえずり。優しく肌を撫でる風。そのどれもが毎日の繰り返しではないのだと、すぎていく日々に感傷を覚え、俺は———
「——もう、さっさと買ってちょうだい?後ろの人の邪魔だから」




