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影は並んで伸びていた

「いやー、転校生ヤッベェやつだったなぁ」

「メインヒロインとかよくわからないし、子供みたいで聞いてられないわよね」

「まぁ、高校生らしいかと言われれば、違うかもね」


 帰り道は、どこか赤っぽい。まるで夕方はそうであるべきとでも言うように。

 街並みは夕焼けに染まっていて、行き交う人々の表情もそれを照らしているせいかどこかみんなは幸せそうに見える。


 先頭を歩く俺は、その朱を全身に浴びている。


「そもそも、初対面で光にあんな馴れ馴れしく会話できる時点で異常よ。普通なら多少は気圧されるでしょ」

「あれは会話ってよりも威嚇とか、そっち系のコミュニケーションだった気がするけど」

「面白そうなやつだとは思ったけどなー」

「それって仲良くなれそうって意味じゃなくて、見せ物的な意味でしょ。蓮ってば性格悪いんだから」


 三人の声は幸せに満ちていた。少なくとも、俺にはそう聞こえた。

 だと言うのにも関わらず、どうして俺はこうも苛立って、ささくれ立ってしまっているのだろう。

 俺の友人が談笑している。ならば「源元光」はその輪に入って、薄ら笑いを浮かべなければならないはずなのに、どうして俺は逃げるようにずっと先頭を歩き続けているのだろう。


「というか、メインヒロインになりたいってことはまだモブってところなのかね、あのハナハナちゃんの自己評価は。それにしてはずいぶん目立っちまったけど」

「そこまで詳しくは考えてないんじゃないかな。ただ、主人公とかヒロインに憧れてるって感じ」

「そんなものって憧れて、努力してなるものでもないんだけどね」


 またしても、笑い声。

 俺は自分がきつく拳を握っていることに気づいて、大きくため息をついた。


「どした、光。新学期早々、変人に絡まれて疲れちまったか?」

「え、あぁ、いや。なんでもない。それに、疲れてもないぞ」

「今度またあいつが絡んでくるようだったら、私が守ってあげるから」

「み、美弥ちゃん。お手柔らかにね?」

「自分の立場がわからないような奴には厳しくいかないと。いつまでも周囲が変な人だってほっといたら、あの子はずっと子供みたいなままで大人になっちゃうでしょ」


 大人だから、高校生だから。


 だからだからだからだからだから。


 そんな固定観念、強迫観念がなくなってしまえば、こんな苦しさからも逃れられるのだろうか。俺はふと空を見上げて、夕焼けを見つめる。


「うわっ、いって!」


 蓮の声に、俺は振り向く。

 その瞬間、俺の側を一つの影が通り過ぎる。目で追うと、その背中には見覚えがあった。


「あら、ごめんなさい。ふらふら歩いてると危ないわよ!」

「おい、お前転校生じゃねーか!」

「私は藤咲花奈!それじゃあね」

「待てよ、おい!・・・行っちゃったんだけど」


 蓮は呆れたように笑う。

 徐々に遠のいていく背中。俺はそれをじっと見続ける。

 彼女に抱く興味の理由を、その背中から見出そうとするように。

 けれどもそんな理由がわかるはずもなく、気づけば彼女は夕焼けの中へと溶けるように見えなくなっていった。


「源元くん、大丈夫?」

「えっ」


 覗き込むようにして俺を見つめてくる侑夢に、取り繕った笑顔を浮かべながら俺は答える。


「大丈夫、いつものことだから」

「そう。・・・もし、何かあったらすぐ言うんだよ?」

「ありがと」


 そう、いつものことだった。


 変わりたいと思いながらも、そのために行動を起こさないのも。タイムリープのように同じ日々を消化していくことに焦燥感を感じるのは、いつものことだった。


 今日も俺は、変わらない。


 振り返るとそこには、細く伸びる影が、四つある。それらは境界線をなくして一つの気味の悪い塊のように見える。

 それもずっと、同じこと。そして、きっと、これからも。

読んでくださってありがとうございました!

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