人混みだって、見つけられる
「で、奢りってなに奢れば良いんだ?適当に飯でも買うか?」
「うーん、でもそれだと高く付くよなぁ」
「ねぇ、なんでこっちを見るの光?そういうのって今はハラスメントになるのよ、気をつけなさい」
渚はさっき手に入れたのであろうヨーヨーを楽しげにぽよんぽよんと弾ませている。
「まぁでも、私ちょっとだけお腹へったかも」
「よしっ、買いに行こう。俺もお腹へってたんだ」
「いや、皆の話聞いてからでいいよ。それに遊助、お腹減ってないって言ってたよね?」
「今減ったの!みんなはどう?」
「私はいつでも行けるわ!」
「俺もなにか食べたいな」
そうして俺たちは道沿いを歩きながら、適当に誰かが食べたいと思ったものをとり
あえず買っていく。
すると後ろにいたはずの藤咲が、俺たちを追い抜いて行った。
「みて、かき氷よ!食べるしかないでしょ」
「おっ、いいな。ん?ココア味とかあるぞ、なんだそれ!」
「ちょっと二人ともー!・・・光くん、行こっか」
駆け出した藤咲と遊助を追うように、渚と俺は共に歩き出す。
おい、結局藤咲と遊助が一緒になってるじゃねーか。まぁ別に俺からすればいいんですけど。
食欲が第一欲求な藤咲は屋台につくなり、注文を始める。
結局、藤咲はいちご・ブルーハワイ・レモンの三色盛り合わせを頼み、遊助はコーラ、俺はブルーハワイで、侑夢はパスと言った具合。
できあがったかき氷を、遊助と藤咲はかきこんでいる。
「ぐわぁ!頭がいたいぃいい!」
「遊助さ、それくらいもう分かる年ごろでしょ」
「いつになっても男は少年なんだよ」
「だからって徹夜で練習に来たり、休みの日のかけっこで怪我をしてくるのは流石に問題だと思うけど?」
「やめて渚。今だけはマネージャーモードじゃなくていいじゃん」
シュンとした様子でパクパクとかき氷を食べる遊助。
なんというか、渚は遊助を一人の男というよりも、子供みたいに扱っているように思える。だからこそ、一人の男として認めている俺に注ぐ渚の視線や態度はどこか生々しい。
「ねぇ光、あんたどこまでも王道なのね。ラブコメの主人公としては、もうちょっと面白みがほしいわね」
「それを王道全部乗せの藤咲さんが言う?それこそココアとか行けよ」
「王道から逆を張ろうとして滑る、だなんて三流作家のやりそうなことはしないのよ」
「なんだそれ」
俺はどこか疲弊したように鼻を鳴らしてから、かき氷を口へ運ぶ。というかココアってもう大して珍しい気もしないけど。
その様子を見ていた渚はおずおずと手を挙げる。
「あ、あの。光くん、私もちょっとだけそれ食べたいんだけど」
「なにっ!」
遊助は驚きと恐怖が混じった視線を俺の方へ投げる。
「え?・・・もちろんいいよ」
俺は笑顔を貼り付けたまま、使っているスプーンで氷を掬って渚の口へ——
「——チェイッソぉぉおお!!」
「ん!?」
渚の口へは、横から飛んできたスプーンが槍のごとく刺さっている。
急な出来事に、全員が言葉を失う。軽いパニック状態だ。
「もう、渚ったら!ハワイブルーが食べたいなら言ってよ。私ならなんとあと二つの味まで食べれるわよ!」
「ちょ、ちょっと!も、もういいからぁ!」
呆気にとられた渚へまるで犬が砂をかけるくらいの勢いでかき氷を放る藤咲。
いや、まぁ、俺への加点を防げてはいるんだけども。もうちょっとスマートにできないものかね。
「どう、美味しい?」
「味わう暇なんかなかったんだけど・・・」
「な、ならコーラの味はどうだ!」
「いや、当分かき氷はいいかな。頭痛くなってきちゃった」
あまりにも鉄砲玉な藤咲の行動で、今日のターゲットの渚はテーションが低くなってしまった。
俺はそれを見てからすぐさまそこから一時離脱する。
そして近くの自販機で、あるものを買ってから戻る。
「はい、これコーヒー。ホットだから、額を温めるのに使ってよ。多分楽になるからさ」
「えっ、いいの?」
「もちろん。コーヒー飲める?飲めるならプレゼントするし、駄目なら言ってくれ。俺、猫舌だから冷めたコーヒーのほうが好きなんだ」
キュン。そんな音が聞こえた。
我ながらなんてスマートだろうか。俺が女子なら惚れてるね。
皆が慌てているような状況でも冷静に対応できる判断力、素晴らしい。
俺はそんなことを思いながら、何の気なしに振り返った。
今にして思えば、それはなにかに導かれているようにも思えた。
振り向いたことで流れる世界は、どこかスローモーションに見えた。
「えっ」
視線の先で捉えたその陰に、俺は間抜けな声を漏らした。




