敵場視察。異常なし
「ポテトの大盛りにピザはコーンとモッツァレラのを。あとはうどんも食べたいわね」
「食べ過ぎじゃね!?」
「最悪俺らが分けて食べればいいし、食べたいもの頼んでくれよ」
「さっすが光ね!こういう懐の深さを遊助も見習いなさい」
「すっごいね藤咲さん。私こんなに食べれないよ」
既に届いた唐揚げを口に頬張りながら藤咲は、えっへんと胸をはっている。
俺たちはダブルデートの予定を決めるために、放課後にファミレスに集まっていた。
遊助は初めて見る藤咲の態度に驚きを隠せていない。俺はもちろん、渚だってクラス委員の集まりであの品性のない舌戦を見て慣れているため、遊助の態度はむしろ新鮮に映る。
そうだよな。普通ならその反応だよな。俺らは知らんうちに毒されてしまったようだ。
「えーと、転校生の藤咲さんだよ。名前くらいは、聞いたことあるかな?」
「蓮とか渚が言ってたからな。あっ、あれやってくれよ!自己紹介ギャグ!」
そんな一発屋芸人への当たり方するなよ。俺は密かに眉を顰めながら藤咲を見る。
やはりというべきか、藤咲は目を丸くして要領を得ないと言った様子だ。だって藤咲は本気で言っているんだから。
「自己紹介だってさ」
「なるほどね!どうも、転校生の藤咲花奈よ。ゆくゆくは八ノ宮一のメインヒロインになるわ!今のうちに知り合えてあなたは幸運よ。よろしくどうぞ」
「すっげ、ホントにメインヒロインとか言うんだ。生で見ると圧があるなぁ!」
なんだかヒーローショーを見る子供みたいな感想しか出てきてないけど・・。
遊助の無邪気さと藤咲の純粋さはどこか似た性質を感じ、正直俺は安心した。意外に遊助が美弥みたいなタイプなら、デートどころじゃなくなってただろうし。
「でもよぉ光。いいのか?そ、その。二人がデートをするところをお邪魔するってことなんだよな?」
遊助は渚の方を見て、状況のあらましがあっているか確認する視線を送る。
「デートではなくて、あくまでも街案内だとかそう言うニュアンスだよ。で、さっき言ったように藤咲さんはメインヒロインになりたくてそのためには恋愛アニメとかの内容をなぞりたいんだってさ」
うん。やっぱり端的に説明する限りは意味がわからない。
けれども遊助は「へー」とか「うへー」とか相槌をうってから、
「よくわからんが、わかったことにする!」
そう言って元気に頷いた。
「で、今回はそのお出かけの場所決めをしたくて集まったわけだけど、ラブコメとかだとどう言うところに遊びに出かけることが多いの?」
「やっぱり遊園地、水族館とかショッピングモールじゃないかしら。あとは動物園とか?」
「奇抜なものはないんだね。安心したよ」
「待って、私ってそんな迷惑系みたいなふうに思われてるの?」
そりゃそうだろ、渚からすれば必要以上に会議をかき乱したヤバい奴なんだから。
だけども、渚の態度は相手に一定の好感度があるからこそのイジリにも思えた。そう捉えるならば、やはりあの場面での藤咲の行動は間違ってはいなかったのだろう。俺では絶対にできない選択だったけど。
「なら水族館とか楽しそうじゃないか?俺久しく行ってないし」
「あんたには窮屈でしょ。ドッグランとか、もっと開放的な場所の方が満足できるでしょ?」
「・・・確かになぁ。大声とか出せないのはちょっといずらいかもな。俺、声でかいし」
「でしょ」
え、そっちなの。自分のこと犬扱いとかいうところにツッコむわけじゃないんだ。
笑顔の裏で動揺していると、藤咲もそれに続く。
「遊園地もなしね。最近行ったから」
「え、誰と?」
しまった。俺と藤咲は心の声がハモった気がした。
渚を強引に誘う時に藤咲は自分には友達がいないから、と告げたのだ。そんな彼女が急に遊園地に行けるような友人を作れるのか、と言う疑問が渚の眼差しからは見てとれた。
「なになに、まさか二人で行ってきたとかかぁ?」
「・・・・」
「えっ、まじで?」
いじりのつもりで発言すると、顔を伏せた藤咲の肩がブルリと震えたことで、遊助は気まずげに俺を見た。
俺は観念をしてため息を吐く。
「俺と藤咲さん、あと侑夢とな。俺たちはクラス委員だから仲良くならないといけないって思って、いつものメンバーの中から予定が合う侑夢と同行してもらって、三人で遊びに行ったんだ」
「なーんだ。ったく、羨ましいなぁー光わ」
ふぅ、俺がバレない程度のため息を吐くと藤咲は横目でこちらを睨んでいた。
なんだよ、華麗な嘘だっただろ。任せろ、でまかせは得意なんだ。
そんな意味を込めて、俺は深く目を伏せる。
「でもなぁー、ショッピングモールってのは味気ないんだよなー」
「そう?色々あるから楽しそうだけど」
「いやもっとこう、風情があるのがいいと言うかさ!」
遊助の嘆きに、俺たち三人は押し黙る。
「あっ!」
どうしたんだと全員の視線が遊助へと集まると、彼は恥ずかしげに頭を掻く。
「トイレ行きたいんすけど、光も一緒に行かね?」
「あー、行くか」
「さっすが。ノリがいいねぇ」
壁側に座っている遊助は、俺と並んでそのまますぐそこの角を曲がる。
遊助は急ぎ足で奥の男子トイレの扉を開ける。
「うわ、一つしか空いてねぇ。すまん、光待っててくれるか?」
「別に付き添うできただけだし、気にせずどうぞ」
俺は静かに扉を閉めて、適当に角のあたりの壁にもたれかかって遊助を待つ。
別に帰ってしまっても良かったのだが、僅かにでも気を張らないでいい時間があるならそれを堪能したいのが、最近の俺なのだ。
というか連れションとか言う文化ってなんなんだろうな。排泄するところを見せ合いたいとかどんな特殊性癖なんだ。俺には理解しかねる。
「おー、美味しそうだね藤咲さん」
「このピザいいわよ!男子陣が帰ってくるまでに食べちゃいましょ!」
聞き馴染みのある声が聞こえる。
あまりにも席とトイレが近すぎるせいで、俺たちの席での会話は余裕でここまで聞こえてくるようだ。
まぁでも、流石の藤咲も、まだ関係の浅い女子と一対一なら変なテンションにはならないだろう。そんなことを考えながら、俺は近くで行われるイベントについて調べてみる。
「渚。あんたは光を狙ってるの?告白もしたんだっけ?」
「え、きゅ、急だね」
最初っからギアマックスだぜ!さすが俺らの藤咲花奈!そこに痺れもしないし憧れもしない。
俺はテーブルの方が気になって、体をずらす。壁に背中を貼り付け、首だけを伸ば
して様子を伺う姿は完全に不審者そのもの。
「ま、振られちゃったけどね」
「アイツの何がそんなにいいの?」
「えー、顔?あとは人気者だし、自分のものにするとなんというか、アツいよね」
あらやだ、最近の子ってストレートなのね。もっと言葉をこねくり回して、真意を煙に巻いたりしないのかしら。逆説的に、嘘だけをついて真意なんて最初からそこにはない俺は昔ながらのハードボイルドなのかもしれない。
「でもまぁ、キープみたいなのがいてもいいかなぁとは思うけど」
そう言って、渚は自分の隣に視線を落とす。そこは、遊助が座っていた席だ。
こいつもこいつで最初っからギアマックスなの怖いんだけど。俺は女子の裏でのやり取りに戦々恐々とする。
「藤咲さん、メインヒロインってどんな人なの」
「そうねぇ。まず自分の意思を持って、主体的に生きることね。その上で、いろんな人を巻き込んで自分が予想もしてない大きなことを成し遂げる人が、メインヒロインね!」
「なるほどね」
やはり、渚からは馬鹿にする態度は見えない。それはクラス委員の時も同様に、異文化を理解しようとしているように見える。
「恋は?モテモテなのがメインヒロイン?」
「うーんどうでしょう。そこは別にあってもなくてもいいと思うわ」
「えぇ、そんな青春つまらなくない?青春って恋愛がベースみたいなイメージあるけどなぁ」
グデーと渚は机に突っ伏す。
おそらく渚の言うヒロインは少女漫画とかのイメージで、藤咲の言うヒロインは英語圏の、女主人公的な意味なのだ。だからこそ、侑夢は自分に矢印を向けるし、渚は恋人だとか、そういうわかりやすい外に示すためのステータスを追い求めるのだろう。
「じゃあ渚はいろんな男から言い寄られたいの?」
藤咲の言葉に、渚は天井を眺めてやや静止する。
小さく唸り続けたのちに、爽やかにな笑みを浮かべた。
「それはいいかな。昔ちょっと遊びすぎちゃったし」
うっわ、だりぃ。
そもそも高二の段階での昔っていつだよ。小学生か?
ただの倫理観不足による愚かさをまるで自慢のするなよ。っぺー、昔ちょっとやんちゃしてたらさ、っぺー。みたいな薄寒さを感じる。
ただある意味で子供のように純粋な藤咲は、その笑顔の裏で放たれている悪臭を感じ取れずに会話を続ける。
「奇遇ね。私もこの人しかいない!って思えた人としか付き合いたくないわ。運命ってやつね」
「うーん。そうだねぇ」
渚は大きく壁際の椅子に背をもたれる。その眼差しは、どこか大人びていた。
「そう言う運命みたいなの、憧れはするけど、実際は諦めなんだろうね」
「どう言うこと?」
「運命の出会いだなんて結局はないと思うの。だって相手の数なんて星の数ほどいるんだもん。偶然出会った人が運命とか、確率的にありえないじゃん。だから、その人じゃなきゃいけない理由なんて結局のところなくてさ、その人でいい理由ってのを探し出して、それを運命にして納得しちゃうのかなぁーなんて思ったりして」
その表情は、寂しげに笑っていた。
「でも憧れるよね。やっぱり自分をお姫様みたいに丁重に扱ってくれる人が現れるってのは」
「それはそれでむず痒い気もするけどね。やっぱり対等に一緒に傷つきたいとも、私は思うわ」
「かっこいいねぇ、藤咲さんは」
二人は仲良さげに微笑む。
両者ともおおっぴろげなコミュニケーションを取るからか、意外とその距離が近まるのは早いようだ。
そんなことを思いながら、スマホに改めて視線を落とし適当にスワイプをする。するといい頃合いに、遊助が出てきた。
俺たちが席に戻ると、注文した商品は全てが届いていて、その半分はすでに食されていた。そんな状況に内心ドン引きしながら、俺はいつもの感じで話し出す。
「デートの候補の話なんだけど。隣町の神社である祭りに行くのはどう?花火とかはないらしいけど、代わりに光るでかい鯉のぼりが上がるらしい」
「なにそのコメントしずらいイベントは」
珍しく藤咲は真顔で返事する。
端午の節句、いわゆるこどもの日にかこつけての祭りだから鯉のぼりをあげるんだろうけど、夜にあげるとしたらそれはそれで遅すぎないだろうか。
それに光る鯉が国旗掲揚見たく上がるのをみんなで見るってのはいささかシュールすぎる気がする。
提案した俺自身が、こんなにも否定的なのだからやっぱりなしか。
そう思って皆を見ると、遊助だけは目を爛々と輝かせていた。
「いいじゃんか!ちょっと早めの夏祭りってことだろ。行くしかないってそれ!」
「あのねぇ、あんたは浴衣とかが見たいだけでしょ?言っとくけど、絶対面倒だから私は着ないから」
「なんでだよ!・・・ほ、ほら、光。女性の浴衣って、やっぱ万病に効くと言うかさ、トキメキの代名詞みたいなところあるよな!」
「ま、まぁ新鮮な感じがして、俺は好きだな」
「ほらっ!光だって、こう言ってるんだしさぁ、頼むよぉ」
「うーん。でもなぁ歩きずらいし、暑いし・・・」
「絶対可愛いから!頼む!」
「・・・はぁ、その日の気分次第ね」
どこか渚は満更でもなさげにぷいと懇願する遊助から顔を背ける。
それでも遊助自身は目を強く瞑って、手を擦り合わせているため、想い人の照れている様子には気づいていないようだ。
ガヤガヤと言葉を連ねて必要以上に説得を続けようとする遊助を横目に、藤咲はちょんちょんと俺をつつく。
「ねぇ、あんたもやっぱり浴衣がいいの?本音でいったの?」
「正直どっちでも。ただまぁ、新鮮に映るってのは本心だよ」
「ふーん」
かくして、ダブルデートの日程は今週末の日曜日となった。
思っていたよりも脈なしではなさそうな二人の関係に、どこか朗らかな気分になる。
ただ、と。俺は自分を戒める。
これは俺が生まれ変わるためのイベントであって、俺が目指すのはこのデートの失敗である。
目の前に見える、不完全だけども穏やかな幸せを眺めながら、これで見納めなのだと、俺は自罰的に笑った。




