ダブルデートはもう少し
「へぇ、光くんって絶叫系苦手だったんだ」
「そうなのよ!ずっと隣で『うわぁー!』って叫ぶから、私はむしろ冷静で入れたくらいだわ。私の分まで叫んでるんだもの」
「一緒に乗った時はそんなことなかったのに」
「一回我慢せずに声出すと、癖になるというか。それにあの遊園地のやつが特にやばかったってのはあるな」
デートの次の日の放課後。俺たちはいつもの部室に集まって、昨日の出来事について侑夢に話していた。
と言ってもほとんどは藤咲が俺の情けなさを楽しげに語るだけで、俺自身が何かエピソードトークをするようなことはないけど。
どこか夢のように朧げで、愉快だったあの記憶を、言葉という形で型にはめて、自分の外へと出すことに躊躇があった。ひっそりと自分の胸に秘めることでしか保つことができない感情が、確かにある。そんな気がした。
「ほら見てよ、この写真!これは遊園地で一番有名なやつなんだけど、この時の光ったらすっごく情けない顔じゃない?」
「それはお前が手を剥がそうとしたからだろうが!マジで心臓止まるかと思ったんだぞ!」
「え、流石に花奈ちゃん。それは良くないよ」
「あっ、はい。すいません・・・」
侑夢に注意された途端に小さくなってしまう藤咲。きっと、少し前に侑夢を怒らせた時の仕返しがトラウマになっているのだろう。
「あ!これはお昼を買った時によくわかんないマスコットのステッカーを二枚ももらって不服そうにしてる時の光ね。ちなみにこれ彼女さんにもーってもらったのよね」
「どんだけ否定しても押し付けてきたからな。絶対に在庫処分だ」
「で、これが最後に乗ったジェットコースターを偵察してる時に絶望してる光よ」
「阿鼻叫喚ってこういうことかって感じだったからな。本気であの時に帰ってやろうかと思ったわ」
藤咲は自分のスマホをスワイプしては、いつの間にか撮っていた写真を侑夢に見せながら楽しげに話している。
その横顔は、まるで子供が親に学校であった楽しいことを語る時のように饒舌で、興奮気味で、つい頬が緩んでしまう。
藤咲はまた、細い指を画面の上で滑らした。
「あっ」
やけに上擦った声がしたかと思うと、藤咲は急いでスマホを机に伏せた。
侑夢はどこか気まずげに視線を彷徨わせている。
きっと侑夢が見たのは、あの写真だろう。俺は一人で思い返しては恥ずかしくなる。
「でも、楽しそうでよかったよ。光くんも気分転換できただろうし」
「そ、そうね。楽しかったわ、とっても」
どこか社交辞令じみた会話。
互いに目を合わせず、必死にふわふわとした気まずさを埋めるためのきっかけを探しているように見える。
「そういえば、そろそろダブルデートの日程も決めないとな。渚に聞かれたんだよな、いつなのかって」
「そ、そうね!今回のはあくまでも予行練習であって、本番はダブルデートなんだから!」
「でも、遊助くんも渚ちゃんも男バスだもんね。忙しそうだよね、今日だって平日なのに練習試合って、蓮くんが言ってたもんね」
「そこでなんだが」
俺は二人に対して指を振る。
「明日の放課後にダブルデートの予定決めをします。侑夢がいうように今日は練習試合だから明日に振り返り休日があるらしい」
「急ね」
「どうせ暇だろ?」
やり返しと言わんばかりに、俺はニヤリと藤咲を見た。
デートの次はダブルデート。モブを志しているはずなのに、なぜかより忙しくなった気がするのはなんでだろうか・・・。




