いつかの日に思い出せない日々
「ズビバゼンデジダ」
「もう、次はないからね?」
にっこりと微笑む侑夢に、もげんばかりの首肯を返す藤咲。そして俺からの言葉を待つように視線を配る。いや、流石に侑夢の徹底したやり返しのあとに、俺から言うことはなにもない。
あれから後は凄まじかった。途中から藤咲は声が掠れかけ、泣き出しそうになっていたから俺は良くない事をしてる気分になって手を止めたのだが、むしろ侑夢はそこからが本番だと言わんばかりに五分間のアディショナルタイムに突入したのだ。
これは怒らせたら怖いランキングへの上位食い込みも狙えますね、侑夢選手!
俺はため息混じりに藤咲に助け舟を出してやる。
「そういや、超重大発表はなんなんだよ」
「ちょうじゅうだいはっぴょう・・・あっ!」
おい忘れてただろ。
乱れた制服を整えながら立ち上がった藤咲は、空気を切り替えるように咳払いをする。
「私、デートをするの」
「「えっ!?」」
俺と侑夢は今日一番の大声をあげる。侑夢に至っては人生で一番なんじゃないかと思うほどの声量。
しかし藤咲がデートとな。おそらくダブルデートのことではないだろうし、一体いつの間にそこまでヒロイン力が上がっていたんだ?・・・てか、なんだよヒロイン力。
「だ、誰となの?」
「それはねぇ」
もったいぶるような間。
体でしなやかに弧を描き、ぐるりと部室一体を見渡してからぴたりと止まる。伸ばした指先はピシッと伸びていた。
「あなたよっ、源元光!」
「「・・・はぁああああぁ」」
「まどろっこしいし、紛らわしいんだよ!」
「超重要って言うけど全然じゃん」
「えっ待って、どうして今私は怒られているの?」
そもそも俺は了承した記憶がない。
つまりは藤咲はさっきの空気を切り替えるために誇大広告を打ったと言うことだ。
心配した俺がバカみたいだ。
「で、なんで俺が藤咲とデートなんかしなきゃいかんのだ」
「だって今度のダブルデート、変なことするわけにはいかないじゃない。そのためには王道なデートプランを経験しておかないと」
俺は意味ありげな視線を藤咲に投げる。俺は今回のダブルデートは失敗して欲しいと願っているため、俺に旨みがないんですけど?というか、お前は協力してくれないの?という眼差し。
「私は目の前のことに手は抜きたくないの」
そう笑って、藤咲は俺から視線を外した。
まぁ、別にいいけどさ。お前にはお前の矜持や夢があるんだろうし。
「王道って、どんな風に?」
「そうね。やっぱり遊園地か、水族館か、映画館とかかと思ってるんだけど、どうかしら?」
「あー、最近みんなで水族館も映画館も行っちゃったね」
「だな」
「え、こう言うのってレアイベントじゃないの?なんでそんなノーマルクエストみたいな感じでこなしちゃってんのよ」
ちなみに映画は美弥が気になっていたホラー映画を、水族館では蓮のわがままでイルカショーを見た。
水族館はその日限定のペンギンショーを見るはずだったのだが、蓮の猛プッシュでプランを変更した。その末にイルカショーで美弥がびしょ濡れになってブチギレていたっけか。
「じゃあ遊園地ね。光、今週の日曜に行くわよ」
「おいもう金曜日だぞ。そう言うのは予め決めとくもんだろうが」
「どうせ暇でしょうに。部活もなければ、学年委員でもないんだから」
確かに。俺は言い負かさた気になりながらも納得する。
藤咲と会ってからわずかにではあるが俺はこれまでの日常からは逸脱していた。その最たる例が放課後の可処分時間の増加である。ちょうど二年になって部活をやめた上に、これまでやっていた委員会の活動も藤咲がやっているためやることがないのだ。
これまでは暇なんてあるだけあればいいと思っていたが、実際に暇な時間が増えるとやるせなさみたいなものが押し寄せるのだと、俺は最近知った。
「まー、いけはするな」
「なら決まりね。設定としては主人公とヒロインのデート回ね。私だから適当でいいかぁとか思ってたら容赦ないしないわよ」
「へいへい」
「ふーん、楽しんできてね」
「えぇ、漫画のラブコメも嫉妬するくらい楽しんでくるわ!」
藤咲は既にデートプランを考え出しているようだった。どうやら俺がリードされる側のようだ。
その後部室では、藤咲はデートプランを考えたり委員会の課題をこなし、侑夢は普段よりもどこか穏やかな表情で船を漕いでいた。
俺はそんななんの刺激もない、退屈な青春に浸るように、そっと、目を瞑った。




