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役不足

 藤咲が委員会の用紙への記入を終えると、それを合図に俺たちの部活動は解散を迎えた。

「先に帰ってていいわよ」

「あのなぁ」

「別にいらない気を遣ってるわけじゃないわ、ただこれを提出してしまいたいの。だけど先生が残っていることを考えればきっと茶々入れられるから、あなたたちを待たせてしまうの」


 そう言って藤咲はひらひらと見せつけるのは、学年委員の年間目標の用紙。どうやら前回のではダメ出しを食らったようだ。


「あー、確かになぁ」

「頑張ってね」

「えぇ。私のこの決意表明を高らかに宣言してくるわ!それじゃあーね!」


 ブンブンと大きく手を振りながら、渡り廊下を渡っていく藤咲。

 藤咲が角を曲がると俺たちからは見えなくなり、侑夢は振っていたその手を下ろす。


「帰ろっか。でもまさか、二日後にデートとはねぇ」

「何もかもが刹那的すぎるんだよ」

「それは光くんもじゃない?」


 くすくすと笑う侑夢を見て、俺は疑問を口にする。

「呼び捨てじゃなくていいのか?」

「うん、流石に呼び捨てはまだちょっと遠慮があるかな」

「藤咲に言われて気づいたよ、確かに俺のこと侑夢は名前で読んだこと少ないなって。遠慮なんてしなくていいのに」


「遠慮というよりは、負い目かな」

 その声音は、どこか儚げに聞こえた。


「でさ、デートだけど、よかったね。いい気分転換になるよ」

「別に、こうして侑夢と話してるだけでも気分転換にはなる」

「もう、そういういつもの感じはやめようって言ったばっかじゃない?」


 うーむ。俺は事実を言ったつもりなんだけどなぁ。というか、そんな臭いセリフを俺はいつも言っているだろうか。

 こうして本音を言ったところで、まるでオオカミ少年のように信じてもらえないというのは、物悲しいものだ。


 昇降口から校門へ、校門から町中へと進むと、周囲には店なり塾なりが俺たちを包囲するように広がっている。


「きっとそう言うのは、花奈ちゃんの役目だから」

「そういうのって、気分転換の話か?まぁ藤咲といると何か考え事をするような暇もないからな」

「かもね。ああいう、今を全力で生きるのってすごく難しいと思う。嫌でもさ、過去を振り返って足踏みしたり、どの未来を選ぶべきかで、立ち止まっちゃったりするものだから」

「どれが良い択なのか考えるってよりも、選んだ選択肢を良いものにするって生き方だもんな」


 全くもって、俺と藤咲は似ていない。対極と言ってもいいように思える。


「本当に尊敬するよ。光くんも、花奈ちゃんも」

 ふと足を止めた侑夢に、俺は振り返る。


 そして、目が合うと侑夢は微笑みを浮かべた。

 夕日の幸せそうな茜に照らされたその笑みを、俺はじっと見つめる。

 それは、どこかで見たことのある質感。


 どこだ。いつだ。誰だった。


 必死に頭を働かせても、思い浮かぶ表情はそのどれもがどこか一緒で、けれども決定的に纏う雰囲気が異なっていた。

 やがて、時間切れを知らせるように、侑夢の薄い唇が震える。

 俺は怯えるように、その続きをまった。


「花奈ちゃんみたいな人、大切にしなよ?それじゃあね。明後日のデート、あとで惚気聞かせてね」


 ひらひらと、手を振って侑夢は別れ道を進んでいった。

 答えを探すように、背中を見る。けれども背中では答えを見つけられなかったとデジャブを感じて、俺は視線をおろす。


 そこには侑夢から伸びる、うっすらとした影があるだけ。

 とうとう俺は、再会を願う言葉すら伝えることができず、その場で立ち止まることしかできなかった。

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