61:漢よ魔法少女になれ
二人は少し緊張しているように実験室に入ってくる。彼らの手にはバイオメダルとクロスギア。善継と同じように、男性でありながらもクロスギアを使う実験に参加したのだ。
彼らの仲間、イナズマイッセンとラビキュリーの二人が歩み寄り善継も続く。
「どうだいバルド。ピースビジョン最強は私が貰ったよ」
「ハッ。俺もスパイダーみたいにやってやるさ。そうすりゃ俺だってなぁ」
自信満々といった様子でメダルを見せつける。
一方鮫肌丸はどこか不安そうだった。
「隊長?」
「ああ、ちょっと考え事をな。なあスパイダー。本当に安全性は大丈夫なのか?」
「今の俺が証拠だ。何度も変身してるが、健康面に異常は一切無い。ちっと身体の使い方が変わるがどうにかなるだろ」
アハハと苦笑いをしながら自身の肢体を見せ付ける。十代前半くらいの小さな身体。あまり見せびらかしたくはないが、安全性のアピールだと自分に言い聞かせる。
そんな小さなみうみうをバルドが軽々と持ち上げた。
「しっかし不思議なもんだな。本当に中身スパイダーなんだよな? マジで軽いってか、完全にガキじゃないか」
「だからそうだっつってんだろ。あと俺じゃなけりゃセクハラだからな」
うっと一瞬たじろぐ。本来の姿がアラサーの成人男性だが今は小さな少女。そんな子供を抱き上げていては、外見は最悪だろう。
「え? バルド、あんたまさかロ……」
「違う! 俺はもっとグラマラスな女がタイプだって! お前とは真逆のな!」
「あ?」
その瞬間、空気が凍った。
嘲笑うバルドと日本刀のように鋭く睨むイッセン。彼女の地雷をわざと踏み、更に大回転しながら踊っていた。
確かにイッセンはお世辞にもグラマラスな女性とは言い難い。スレンダーの方が似合っているだろう。
重苦しい空気に善継も思わずため息をついた。
「なあスパイダーもそうだろ?」
「俺に振るな。てかこれはお前が悪い」
女性に対してなんて言いぐさだと、そう言いたいところだが……
「でもよ、お前だってあいつとラビキュリーちゃんだったらラビキュリーちゃんの方がいいだろ?」
一瞬言葉に詰まる。
確かにラビキュリーの方が若くスタイルも良い。大体多数の男なら彼女を選ぶだろう。
しかしそんな事を軽々しく口に出せるだろうか。それこそイッセンへの侮辱でしかない。こんな事に関わる方が時間の無駄だ。
「馬鹿。んな事言ってる場合か。ほらほら、鮫肌丸もこい」
バルドを振り払い手を叩く。二人を集める。
今日二葉製薬に来たのは仕事のため。クロスギアの起動実験だ。
「ったく、お前らの痴話喧嘩に俺を巻き込むなっての」
聞こえないよう呟きながら頭を掻く。そして鮫肌丸達を集めた。
「さて。バルド、鮫肌丸、今回は実験に付き合ってくれて感謝する」
「なあに。俺だって負けてられんからな」
「ああ。お嬢さんばかりにいい格好させてらんねぇよ」
笑みを浮かべながらメダルを見せる。
バルドのは熊、鮫肌丸のは鯨が描かれている。
「そんで? 俺と鮫肌丸がこれを使って成功すると、提供元の姉ちゃんの姿になるんだっけ?」
「うちは妹だ。しかし肉親の姿になるとか、不思議な感覚だな。スパイダーは……」
ちらりと善継を見下ろす。小さい、とても小さな子供にしか見えない。
「姉だ。小、中学生くらいの姿だな」
「うーん。俺も姉ちゃんがガキの頃ならセーフかな。姉弟揃って熊みたいな図体だし」
「失敗してもお前らが女装するだけだ。ほらやってみろ。うちの測定係を待たせるな」
そう言いながらガラス張りの向こうにいる真理達を指差す。こんな風におしゃべりしている場合ではない、早くしろと真理を含めた研究員全員が無言の圧力をかける。
「おっと。じゃあ俺から行かせてもらうかな」
『セット!』
バルドが勢いよくメダルをはめる。意気揚々とギアを握りしめ掲げた。
「お前らだけ活躍させてたまるか! 頼むぜ、姉ちゃん!」
そしてギアを叩いた。新たな力を求め、ヒーローとして更なる飛躍を求めて。
『エラー』
しかし聞こえたのは無慈悲だった。
そこにいたのはテディベアとフリフリな古典的魔法少女衣装を組み合わせたコスチュームを着た、逆三角体型の筋肉ムキムキな男だった。
「ぶわっはっはっは!!! 変態だ! 変態だ! すっげー可愛いじゃない!」
大笑いしながらスマホで写真を撮るイッセン。あんぐりと口を開け目が点になる鮫肌丸。そしてドン引きするラビキュリー。
一方バルドは最初は何が起きたのかわからなかった。しかし自分の姿を再確認し一気に沸騰する。
「なに撮ってんだテメー!」
「だってみんなから頼まれたんだもん。成功しさたらどんな女の子になるか気になってたし、失敗したらこれでしょ? みんな楽しみにしてるよー」
「くっそぉぉぉぉ……」
悔しそうにしているが、この格好ではただのコメディだ。バルドがどれだけ怒ろうがこの服装だは笑いしか出てこない。
(……俺もああなってた可能性があるんだよなぁ)
そう思うと声を出して笑えない。それ以上にバルドの姿が哀れだった。大の大人の男が、いい歳したおっさんのフリッフリの魔法少女コスプレ。むしろ目の毒だろう。
「……うお」
そして何よりも鮫肌丸が戦慄していた。
仕方ないとは言え、あんなものを見てしまえば恐怖を感じてしまうだろう。
「ウググ……。おい鮫肌丸、次はお前だぞ! 早くしろ!」
バルドも自分一人がこんな格好をしているのに耐えられないようだ。鮫肌丸を巻き込もうと必死になっている。
「お、おう……ってラビキュリー!?」
彼が驚くのも無理はない。ラビキュリーはおもむろにスマホを取り出し鮫肌丸に向けていたのだ。
「いやー、私もみんなから写真撮ってきてって頼まれてまして。やっぱり、隊長がどんな風になるのか気になるじゃないですか」
「ウググ。まあいい。こっちも失敗覚悟で来たんだ」
頬を叩き気合いを入れ直す。そしてメダルを入れ深呼吸。
『セット!』
「南無三! 頼むから露出は少なくしてくれよ! トランス!」
勢いよくギアを叩き握りしめた。
『ドレスアップ!』
コミック2巻発売開始!




