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60:偽・魔法少女

 二葉製薬地下実験区画。今日は来客もあってかいつも以上に騒がしかった。

 そして実験場には巨大な氷塊が佇んでいる。人間の十数倍はある透明な氷の塊。それがワイヤーで繋げられ、人形になっていた。

 その姿を一言で表すなら、アイスゴーレムといったとこだろう。ゆっくりと、身体を構成する氷塊同士が擦れる音を響かせながら歩きだし二人の女性へと近づく。

 稲妻模様の剣道着を着た女剣士。兎を模した鎧を着た姫騎士。ピースビジョン所属、イナズマイッセン。ワールドファンキー所属、ラビキュリー。

 二人は軽く深呼吸をし各々の武器を手に取る。帯電した日本刀。ニンジン型の槍。彼女達に無貌の巨人は豪腕を振りかざす。


「散開!」


 イッセンの声と同時に左右に飛び退く。目の前を掠める氷塊。その透明な表面に二人の姿が反射する。


「さあて、お手並み拝見!」


 叫び声に呼応するように抜刀した刀が帯電。電撃を纏った一撃が氷と氷の間に滑り込み、肘にあたる部位を切り落とす。


「続きます!」


 白いウサ耳を揺らし、ラビキュリーも駆け出す。

 切り落とされた腕を足場に跳躍。ニンジン型の槍を突き出し、顔面に一撃を喰らわせた。

 大きく揺れる巨体。顔と呼べるかも怪しい平面の中心がえぐれ大きくバランスを崩す。

 それでも倒れない。床を揺らしながら踏ん張り二人と対峙する。


「おうおう硬いわねぇ。けど、間接はちょっと物足りないみたい。狙える?」


「私にはそんな正確な攻撃できません。大雑把に穿つだけです」


「上等! せっかくの実験だ。私らも楽しもうじゃない。全力でぶちのめすよ!」


 愉悦。二人の表情には笑みがあった。

 イッセンの腰、帯に着いた円形のコンパクト。ラビキュリーの肩にも同じものが設置されている。

 クロスギア。現行最高の性能を誇るヒーローの変身アイテム。女性にしか使えない制限はあるものの、従来のものよりも圧倒的な性能を誇る。


『チャージ!』


 二人が同時にギアを叩く。

 氷の巨人はふらつくように踏み出し二人の方へと歩く。その緩慢な動きに、かかってこいと言わんばかりに得物を構える。


「ふんぬっ!」


『必殺クライシス!』


 ラビキュリーが床に槍を突き立てる。すると床を突き破り無数のニンジンが剣山のように生えながら氷の巨人に迫る。

 足元から伸びる橙色の刃。無数の刃が足を貫き檻のように拘束する。どうにかして抜け出そうとするも、動く度に身体を傷つけてしまう。

 逃げられない。動けない。その僅かな時間が命取りだった。


『必殺両断!』


「ちぇすとぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 大きく跳躍し、雷を纏った刀を振り下ろす。その一撃は落雷を超え、光の軌跡を残し巨大な刃と化す。

 光が視界を埋め、頭上から股下まで一直線に雷が走った。


「…………一刀両断ってね」


 刀を振り、刀身を鞘に収める。キン、と小さく鍔鳴が響くのと同時に氷の巨人が頭から左右に両断される。

 崩れ落ちる氷塊。倒れる巨人。冷たい空気を漂わせ室内を満たしていく。


『実験終了です。どうですか、クロスギアの性能は』


 スピーカー越しに真理の声が響く。


「も、最っ高! あんた達、こんなの使ってたの?」


「もっと早く換装すればよかったですね。隊長とバルドさんがあんなに手こずっていたのに」


 性能は上々。二人共喜んでいる。

 最新式の武装。争いを生業とするヒーローにとって魅力的なものだ。


『気に入ってもらって何よりです。その、善継もお疲れ様』


 言葉びつまり、少し引っ掛かるような言い方だった。

 イッセンが不思議そうに傾げると、天井から一本のワイヤーが垂れ下がる。


「お、おう。これも仕事だ。そもそも由紀ちゃんが用意した氷で人形遊びするだけだからな。大したことないって」


 下りてきたのは善継。それも魔法少女みうみうに変身している。

 彼は氷塊からワイヤーを回収。痛そうに指先を撫でていた。


「しっかしスパイダーも面白い事になってたね。あんたがみうみうちゃんだなんて」


「こっちは不本意だがな。しかし火力特化なだけはあるな。安全装置がなけりゃ俺も感電してたぞ」


「そういえばこのアイスゴーレム、スパイダーさんが操ってたんですよね」


 ラビキュリーが崩れた氷塊を突っつく。不思議なことに氷はまだ溶けていなかった。


「おう。うちの勇者様が作った氷と俺のワイヤーでな。まっ、ただのマリオネットだ」


「あら。ならあたしの剣も勇者に通用しそうね」


「馬鹿言うな。これ本気じゃないんだぞ。あの子が本気出したらアームドギアでも傷一つつけられん」


「マジかぁ。でも、それならさ」


 イッセンは氷を拾い上げる。冷たい。透き通る綺麗な氷に思わず瞳が吸い込まれる。


「これ戦力にならない?」


「ならん。そもそも遅いし複雑な動きができん。はっきり言って俺がワイヤーをくくりつけてぶん投げた方が効率的だ。だから実験用の的にしてんだよ」


 善継もどこか残念そうだ。

 たしかに巨大戦力は面白いし憧れる。それを自分の手で操るなんて男心がくすぐられる。

 だが今はそんな事を考えてる場合じゃない。


「それより交代だ。どっちかと言えば、こっちの方が本番だからな。俺以外にもいるかどうかのな」


 善継の呼びかけに応えるように扉が開く。そこから2つの人影が入ってきた。

 鮫肌丸とバルドだった。

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