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58:続・助けてお義姉さん

 真新しい冷蔵庫。ピカピカの電子レンジ。食器棚に並べられたペアのマグカップ。引っ越したばかりの小綺麗なマンションの一室。ここは真理の兄、大和の住居。当然婚約者であり現在同棲中の鶴江の私物も置いてある。

 まだ二人は籍は入れていない。結婚式の後、二人で役所に行こうと楽しそうに話していた。

 そんな二人の愛の巣に一人の客が訪れている。真理だ。


「どうしたんだ真理。急にうちに来るなんて」


「う、うん。まあね」


 妹の来訪に温かく出迎えてくれた兄。大和の気持ちには申し訳ないが、兄に話すには気が引ける。

 妹に煽られ逃げてきたなんて口が裂けても言えない。あまりにも情けなさ過ぎる。いや、兄に恋愛相談なんて恥ずかしくて脳ミソが掻き回されたような気分になるだろう。

 だからこそ彼女を頼りにここに来た。


「ふーん」


 チラチラと送られる真理の視線に鶴江が気付く。かのの目がギラリと光を放ち鼻を広げ息を吐く。

 そう、察したのだ。


「ねぇ大和君。ちょっと真理ちゃんと二人で話したいからさ、一時間くらい出てってくれないかな? ほら、夕飯の買い物とかしてさ」


「は? え?」


 有無を言わさずエコバッグを押し付け玄関へと急かす。


「女の子には聞かれたくない話しもあるの。妹に嫌われたくないでしょ?」


「ええ……。ったく、仕方ないなぁ」


 ぶつぶつと文句を言いながらも察したのだろう。手を軽く振り外に出て行った。

 鶴江はニコニコと大和を見送り手を振る。彼の足音が遠ざかり聞こえなくなった瞬間、グルリと振り向き目を飢えた獣のように輝かせた。

 ヒーローの勘か、真理は危機を察知したが逃げられない。誤魔化すなんて事をすればここに来た意味が無くなる。


「相談って感じかな。大和君には聞かれたくないんだしょ?」


「……はい」


 小さい子供のように頷く。元々小柄な事もあってか、今日の真理はより一層幼く見える。いつもの彼女じゃないと、付き合いの浅い鶴江でさえ解る程だ。

 冷蔵庫から麦茶を出しグラスにそそぐ。そして真理の前に置くと向かい側の席に座った。


「八ツ木さんの事?」


「っ!」


 真理の顔が強張る。大当たりだと嬉しさと同時に由紀達の顔が思い浮かんだ。

 何かやらかしたなと嫌な予感がする。


「なんで解ったんですか?」


「実はちょっと前に由紀ちゃんと、たしか明美ちゃんだっけ? 相談があるって会ったら、真理ちゃんの恋愛相談だったのよ」


「あ、あいつら……」


 顔が少しずつ赤くなっていく。なんて恥ずかしい。意を決し鶴江に相談しようとしたら既に話しが通っていた。自分が道化になったようで頭が痛い。


「じゃあオネーチャンに洗いざらい吐いてもらおうかなっ。さあさあ全部言いなさいな。ちゃーんとアドバイスしてあげるからね」


 心強いと言えなくもない。が、ニヤニヤと楽しそうな笑顔に尻込みする。

 正直怖い。絶対に楽しんでいる。話したくない、笑われたくない。しかし相談できるような相手は彼女しかいない。


「実は……」


 口が重い、心臓が痛い、喉が鈍い。しかし黙っていては進まない。由紀達に煽られた事、自分の気持ち、そして逃げてきた事を洗いざらい吐き出す。

 鶴江は何も言わず、優しく微笑みながら黙って聞いてくれた。

 始めは重かった口も少しずつ動いていく。情けない気持ちになり涙が浮かんでくる。


「あたし、怖いんです。善継は……少なくとも仲間として信頼してくれてます。だからきっと、受け入れてくれない。この関係が壊れるかもしれないって思うと……」


「言えないと」


 真理は小さく頷き答える。


「なるほど。なるほどなるほどな~るほど」


 一方鶴江は考えるように顎を撫でる。じっと真理を目線で舐め回し、次第に目付きが鋭くなる。

 楽しんでいたはずなのに、全く別の想いが鶴江の目にはあった。


「真理ちゃんは八ツ木さんが好き。そんで小学生の頃のトラウマで、断られるのが怖くて気持ちを伝えられない。しかも八ツ木さんは真理ちゃんとの出会いを覚えてないらしい」


「……はい」


「八ツ木さんは仕事付き合いを理由に断る可能性が高い。由紀ちゃん達は一応応援してくれている。ちなみに八ツ木さんのお見合い状況は不明と」


 ピクリと真理の肩が震える。


「たぶん、犬飼さんは善継と……その、前向きに考えてると思う。あたしに、何と言うか。牽制しているような言い方だった。たぶん善継とも上手くいってるのかも」


「………………」


 鶴江の目が更に鋭くなる。ここに優しさは無い。


「ねえ真理ちゃん。ちょーっと厳しい事言うけどいい?」


「? えっと、はい」


 何を言われるのか。不安と期待に息を飲む。少なくとも自分の為にはなるはずだ。まともに恋愛経験も無いし、こんな事を相談できる人は会社にいない。鶴江に頼ったのは文字通り藁にもすがる気持ちだった。


「あのね、真理ちゃん。気持ちは解るわ。誰だって失恋したくないし、身内として真理ちゃんの恋が実ってほしいと思っているわ。けど」


 顔を近づける。何故か鶴江は怒っているようにも見えた。


「正直、今の真理ちゃんは身勝手過ぎるよ」

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