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28:今日はおしまい

「素人は違う?」


「……あ~、確かにそうですね」


「え、明美わかるの?」


「さっき言っていたじゃないですか。ダメージを無視して突っ込むとか。それに攻撃が効かないと誤解し、自分が強くなったと錯覚してました」


「そういえば」


 思い出し手を叩く。そう、それが一番厄介なポイントなのだ。


「素人であれば自身や相手の力量を理解出来ない。単純に痛みを感じない事で装備の性能を過信する。だけじゃなく、痛みを感じない事で戦いに対する恐怖心も緩和されちまう」


「成る程。確かに厄介ですね。ただ、死ぬのが怖くないんじゃなくて、死なないと思い込んじゃうのが……何と言うか…………」


「二号の思うつぼってとこか。都合の良い使い捨ての兵隊としちゃ上出来だもんなー」


 由紀の言葉に被せるように真理が間に割り込む。彼女の顔色は芳しくない。思い詰めたような、苛立っているような。どちらとも言える複雑な表情をしながら眉間にシワを寄せている。


「おかえり真理。何かあったか?」


「由紀がぶった切っただけだから、遺留品はいくつかあった。身分証は無いから身元はわかんないけど、バックルは半壊くらいで回収出来たよ。爆弾も作動してないし、これなら調べられる」


 そう言いながら外装が凹んだ赤いバックルを見せる。ボロボロになったベルト、砕けたアンプル。中の機械にはギリギリ影響は無い程度に傷ついている。もし由紀が炎の力で爆散させていれば残ってはいなかっただろう。


「それに、善継が回収した勇者ドラッグもある。前回交戦した銃火器の塊とは別の新型だ。さっさと会社に帰ろう」


 騒ぎが収まったのに気づき、逃げた人々が戻ってくる。戦闘の跡を撮影する者、由紀達にカメラを向ける者。そして近づいてくるサイレンの音。

 周囲に手を振る由紀と明美。バックルをまじまじと眺める真理。ここは一旦退去するのが良いだろう。


「そうだな。よし、警察に状況を説明したら会社に戻って回収品を調べよう。柳原、ダンディを呼んでくれ」


「了解です」


 騒がしくなる世界、人々の歓声。ヒーローとしては日常の一部だ。

 取り戻した平穏。しかしその手には不穏な影があった。




 翌日の夕方、二葉製薬の一室。パソコンの前に座る真理を囲むように善継達は立つ。そして向かい側の席には玄徳がいた。

 真理は小さく深呼吸をするとマウスを手に取る。


「んでは、簡単な調査の結果を報告するね」


「ええ、お願いします」


 玄徳に促されるが、すぐに真理はため息をついてしまった。疲れたように肩を落とし画面を一瞥する。


「ごめん、正直解らない事ばかりだ。中のブラックボックス化が徹底されてる。三号もお手上げだ」


「何も情報は無かったと?」


「アディクショナーの性能向上、痛覚遮断機能、そこら辺は一切合切不明。ただ、背中側の止め金。ここにアンプルを装填してた形跡があった」


「……自殺用に前もって用意していたのか。付けたのは二号だろうな」


 善継も頭を抱える。以前から逮捕から逃れる為に薬を再使用、魔物化し自殺する事案が報告されている。それを二号が率先しているとなるとかなり苦しい。

 人間の命を何だと思っているのだろうか。いや、精霊だからこそ人命に無関心なのかもしれない。


「何だかなぁ。私達が必死に捕まえようとしてるのに。これじゃ最初から……」


「由紀」


 玄徳が止める。彼女が何を言おうとしているか察したのだ。


「解ってるよ伯父さん。楽だけどそれを選択したらヒーローじゃないもの。殺した方が効率がいいから殺した、命を簡単に奪えるのが格好いい。そんな事を言っている勇者とは同じになりたくない」


「……解っているなら良い」


 杞憂だったと安堵するように頬を緩める。

 確かに自殺する装備が充実しているなんて悪夢だ。生かし捕らえる側の努力を無駄にし嘲笑うようにも見える。ならば最初から……と考えるのも無理もない。

 しかしそれではヒーローや警察の存在意義に反する。

 悪人は殺していい。今の地球ではそんな子供じみた倫理は通用しないのだ。


「さて、話しを戻しましょう。もう少し時間があれば進展するかもしれないが、真理の調査では何も見つかっていないとなると薬が怪しい。真理、薬について研究部からの報告は?」


「残念だけど何もなかった。以前回収した由紀の勇者ドラッグと全く同じだったってさ」


「……小原君の時と同じか」


 以前由紀のクラスメートがアディクショナーになった事件は善継も聞いている。その時に使われたのが由紀の勇者ドラッグだった事も。


「そうですか。残念ながら今日は進展無しと」


「進展はありませんが、この新しいアディクショナーに関して放置できません」


 善継の言葉に玄徳も頷く。


「そうですね。今回由紀と柳原さんで拘束したのに薬を使用した。声だけで操作できるとなると……」


「力ずくでベルトをひっぺがすしか手段は無いか。あと止め金を壊すかだ」


 善継なら拘束すれば可能だろう。しかしベルトには注射用の針があり、下手に傷つければ爆弾が爆発する可能性もある。


「そこは今後の課題です。まっ、今日の所はこのくらいにしておきましょう。由紀に柳原さんも学校帰りに悪いね」


「いいよ伯父さん」


「大丈夫です。私も気になっていたので」


 フッと笑みを浮かべ手を叩く。


「では、今日は解散としましょう」


「さて、帰るか。……夕飯どうしよう」


 そうポツリと善継が呟くのを真理は聞き逃さない。パソコンを閉じながら立ち上がる。


「ん? 夕飯なんか、今父親と一緒なんだろ。適当に作ればいいじゃないか」


「それが親父のやつ、今日近所の人と飲みに行くとか言っててさ。一人分だと面倒なんだよ。かと言ってこの姿で外食するのも嫌だし、そもそも身体が小さくて料理がムズい」


「ならあたしが何か作ってやろうか。一人より二人分の方が作りやすいだろ」


 その台詞に善継だけでなく、全員が真理の方に視線を向け硬直した。


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