27:痛覚遮断
圧巻の光景だった。魔物化したアディクショナーは手強い。だが由紀にとっては敵ですらないようだ。
ただの的。人間を瞬く間にミンチにする氷柱の斉射も、巨体から繰り出されるパワーも、勇者の前では子猫同然。善継達はただ見ているだけで終わってしまう。
幸い周りに引火はしておらず、建物の被害も最小限と言えよう。何より人的被害が無いのは大きい。
「さて、真理、遺留品の回収を頼む。なんならベルトがまるごと残っていると嬉しいんだが」
「オッケイ。ちょっと調べてくる」
先程まで魔物が立っていた場所に駆け、善継は由紀達に視線を向ける。精神的に疲れたのか、ため息をつきながらメダルを外し変身を解く。
「お疲れさん」
「お疲れ様です。目標の討伐成功、負傷者無し。ですが、めっちゃ疲れました」
肩を落とし気だるそうだ。たしかに精神的に疲弊しても仕方ない。善継から見ても胸糞悪い最期だった。自身が菅家しているのだから尚更だろう。
「いやー、いろんな意味で酷かったですね」
同じように変身を解いた明美も、少しばかり顔色が悪く見える。人が目の前で死んだ、そう考えれば不思議ではない。
「以前から、アディクショナーが逮捕を恐れて自殺するお話は聞きましたが……。見てて気持ちの良いものではありませんね。人が死ぬのもそうですが、捕まりたくないからってのは……」
「ああ、最悪だな。しかも魔物の置土産つき。これじゃただの自爆テロさ。余計な仕事を増やすなっての」
善継もげんなりとした様子だ。戦績としては一見申し分なく思えるが、逮捕失敗、犯人死亡だなんて笑えない結末だろう。
いや、それよりも厄介な事が解った。
「それにしても、私と明美で両手を塞いでいたのに。なんか暗号みたいなの言ったら薬が使われてるなんて」
「予めベルトに薬を仕込んでいたんだろう。んで、人生から逃げるなんてふざけたパスワードで起動。こりゃ凄い。俺らが薬奪って使えないよう拘束しても、手を使わずに薬が射てる。そんで壊せば爆弾がボン! だ」
「何よこれ……。お姉ちゃんブチギレるだろうなぁ」
頭が痛い。ヒーローは兵士じゃない、軍人じゃない。人間同士で殺し合うのはヒーローの仕事ではない。アディクショナーの対処も、あくまで無力化までだ。命を奪うのは違う。
そして何より、真理からすれば命をぞんざいに扱うような道具は憎悪の対象だろう。
明美も同意するように頷く。
「それに痛覚を無くす機能とか、目茶苦茶強い能力までありますから。今まで以上にアディクショナー退治が大変になりますね」
「それそれ。私や明美、八ツ木さんは拘束能力あるけどお姉ちゃんは無いからなぁ。ブン殴って気絶させるのも難しくなるだろうし」
「それに無痛って、漫画とかだとものすごく強い能力じゃないですか。考えるだけで気が滅入りますねぇ」
「だよねぇ」
と、話し込む二人。しかし善継は首を傾げる。
「そんなに強いか? 確かに面倒ではあるが、強い能力とは思えないんだが」
「え? ダメージ無視して突っ込んだり、身体のリミッター外して身体能力上げたりとか……」
「いやいや、痛覚が無いからって身体のリミッター外すなんてやれるか。そんなんできんなら、弱い麻酔でやれるだろ。そもそも痛覚が無くなるなんて危険過ぎる」
今度は由紀が首を傾げる。明美も同じく不思議そうだ。
確かにパッと見無痛は強力な力に見える。しかし善継からすれば違う。
「確かに怪我に気付けないってのはありますけど。一時的なら有効ではありませんか?」
「うーん。なら少し見方を変えよう。二人はゲームとかするか?」
「うん、やります」
「私も人並みには」
腕を組み二人の方に振り向く。彼女達の視線が下がり、逆に善継は見上げる形になった。
「例えば、新しいステージに入って出てきた敵が、以前より多くダメージを与えてきたとしよう。二人ならどうする?」
「あー。とりあえず回復とか? 明美は?」
「撤退してレベルを上げてから挑むとか、ですかね」
成る程と納得したように頷く。彼女達の言う通り、ゲームであれば正しい選択だろう。
「そうだな。なら、自分の体力が表示されず、どれだけダメージを受けたか解らなかったら?」
「…………ああ、成る程」
由紀は手を叩く。
「そうだ。謂わば痛みはダメージの可視化なんだ。どこに、どれだけのダメージを受けたのか痛みで自分に教えてくれる」
「そういえばお医者さんもどこに、どんな痛みがあるかって問診しますね」
「まさにそれだ。そして痛みを感じる事は敵対者にもダメージの状況を見せている。今回はそこが見えなかったのが一番の痛手だったな。ただ……」
苦笑いを止め口元を締める。目付きも険しくなり頭を掻いた。
「俺みたいな戦い慣れしているやつにはデメリットが大きいが、素人は違う」
年内最後となります。
今年はコミカライズと激動の一年でした。
また来年もよろしくお願いいたします。




