21:ドレス
平日の午後。とある会社のカフェテリアに四人の少女が集まっている。周囲にはコーヒー片手にパソコンをいじるサラリーマン達に、打ち合わせや休憩中の人々にあふれていた。
仕事の合間の一杯。彼女達もそんな人々の一人……と思われていた。
「…………うーむ」
中心にいる一番小柄な少女、魔法少女のまま戻れなくなった善継が頭を抱え唸る。
彼女……いや、彼が見ているのは一冊のカタログ。中には美しい女性達が色とりどりのドレスを着た写真が掲載されていいる。
レンタルドレスのカタログだ。当然それは兄の結婚式に真理が着るドレスを探すためのものである。仕事の合間の休憩時間に以前相談されたドレス選びをしていたのだ。
だがそんな衣装を善継が決められるはずがない。異性の服選びができる程女馴れしているわけでもないし、そもそもセンスの問題がある。だからこそ苦痛でしかなかった。
「言っとくが、赤はダメだからな。鶴美さんとかぶるし」
「わ、解ってるって。しっかし、俺にも選べってのがなぁ……」
真理の注文に焦り冷や汗が頬を伝う。どうしたものかと頭を動かすも、善継のセンスは使い物にならない。若い女性のファッションを選べなんて無茶な話しなのだ。
「な、なあ柳原はどれを選んだんだ? その、若い子の意見を聞きたいんだが」
「八ツ木さ~ん。私のマネしようたって、そうはいきませんからね」
「いや、参考にしようとだな…………その、すまん」
バレていた。自力で選べないのだから、明美の意見に賛同しようと思っていたがそうはいかない。
「女の子が服を選んでって言ってるんですよ。どれでも良いはイケメンにしか許されませんから。八ツ木さんなら年齢を十くらい下げないと」
「無茶言うなって」
頭を抱えため息をつく。どうにもならない。由紀に視線を向けても怒気の孕んだ笑みを向けられ、明美はニヤニヤと笑いながら催促をする。完全に詰みだ。
こうなれば脳と足りないセンスを総動員して考えるしかない。カタログの女性の顔を真理に入れ換えるイメージをしながら必死に選ぶ。
「うぐぐぐ」
「…………ハァ。時間かかりそうだから、ちょっとお手洗いに行ってくるね」
「あ、由紀さん。私も行きます」
二人が席を立ち歩き出す。背を見送る余裕もなく、善継は眉間にしわを寄せカタログにかじりついているだけ。
そんな善継に真理はため息をつく。
流石にこれ以上は時間の無駄だ。それに少し可哀想に見えてくる。
「いいよ善継。流石に恋人でもない女の服を選ばせるのは無理だったんだ。ある意味セクハラやパワハラになりかねない。選ぼうとしてくれるだけでいいよ」
そう言いカタログを渡せと手を伸ばす。
一瞬受けようとするも、善継はカタログを渡さなかった。
「……いや、真理との約束だからな。それにこのまま何もしなかったら柳原に笑われる。つうか男が廃る。逃げてたまるか」
「…………今女の子なんだけどなぁ。それもあたしより下の」
「気持ちの問題だ。どうせ選ばれないだろうが……っと」
善継の手が止まる。
「これなんかどうだ? なんつうか、知的な雰囲気で真理に合いそうだなって。直感だけど」
そう言って善継が指差したのは濃い緑のプリーツドレスだ。真理より少し年上の女性が着ており、落ち着いた雰囲気を醸し出している。
「えっと、あたしのサイズに……大丈夫だな。てかちょっと大人っぽ過ぎやしないか? どっちかと言うと、もう少し年上とか、二十代半ばくらいの人が着るようなドレスだぞ」
「う、うむ。何となく、これが良いような気がしてな。まあ、アラサーの俺の感覚だ。多少対象年齢が上になるだろ」
「つまり、こういうのが趣味なのか」
一瞬言葉につまる。
「そ、そういう訳じゃない。俺だって真面目に真理に似合いそうなのを選んだんだ」
「そっか。うん。ありがとう」
フッと小さく微笑む。その笑顔に善継も胸を撫で下ろした。
正直魔物と戦うより苦戦した。自分の感性が冴えてるとも思っていない。ただ、個人的に彼女が着ているのを見てみたい、そう思うドレスを選んだのは事情、こういうのが趣味と言われて図星なのは内緒だ。
これはこれで楽しい時間だったかもしれない。そう思っていた。
「あれ? もしかしてチビ陰キャの黒井じゃない?」
この声が聞こえるまでは。
声の聞こえた方を振り向けば一人の若い女性が、所謂地雷系と呼ばれるピンクを基調とした服装をした、おそらく真理と同年代の女性だ。
彼女はニヤニヤと嘲笑うような視線で見下ろしている。少なくとも、善継には好意的には見えなかった。




