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22:いじめっこ

 誰だと首を傾げそうになるが、すぐに察する。以前真理が自身の過去を話していたのを思い出したのだ。おそらく彼女をいじめていた娘だろう。はっきり言って、それだけで苛立つ。好ましくななんてレベルではない。

 そんか彼女は、アヒル口でしかめっ面をする善継には目もくれず真理を見下している。


「真理、誰だ?」


「中学の頃のクラスメートの芹沢」


 はぁ、とため息を溢す。面倒、といった様子に少し拍子抜ける。


「何よ。あんだけ遊んであげたじゃない。お礼くらい言ったら? てか黒井ってヒーローやってんでしょ。あの痛いコスでさ。金持ってんだから奢らせてあげるよ」


 なんと上から目線の言い方に善継も頭にくる。


「おい小娘。なんだその口の聞き方は」


「小娘はそっちでしょ。おチビちゃん」


 確かに見た目は一番幼く見える。いつもの調子で文句を言ってやろうとしたが、この姿では威厳も皆無だ。逆にナメられている。


「よ……みうみう、こいつを相手にするな。悪いけど、こっちはこれから仕事なの。芹沢は大学だろ。あたしに構ってないで勉強したら? また先生に股開いて点数稼ぐのか?」


「は?」


 あしらうような真理の態度が気に入らないのだろう。それだけではない、最後の一言に動揺しているようにも見える。

 逆に真理は余裕綽々といったとこだろう。それどころか眼中に無いくらいだ。


「チョーシこくなよ黒井。妹が勇者だか知らないけど、どうせ見下されてんでしょ。私があんたの妹だったら死にたくなるもん。ほら、早く泣きついてきたら? 笑われるの見てやるから」


「……この馬鹿」


 呆れと焦りに心臓が縮こまる。幸いまだ由紀は戻っていなかった。もし彼女がこの場にいたらどうなるか、想像するだけで冷や汗が流れる。きっと怒り狂い彼女の命はなかっただろう。

 否。もしかしたら真理が止めていたかもしれない。そんな光景が安易に思い浮かぶ程、彼女は冷静だった。


「妹は関係無い。何度も言うがあたしは()()()のあんたと遊んでいる時間は無いんだよ」


「一般人? 私が?」


 再び芹沢の神経を逆撫でる。見下されるのを心底嫌がっているのが容易に察せた。額に青筋を浮かべ、唇はひくひくと痙攣している。

 善継も少々苛立っているせいか、これ幸いと話しに乗った。


「確かに。真理は最新のギア開発者な上、雑誌の表紙を飾る大人気ヒーローだからな。そりゃ生きてる世界が違うよなぁ」


 年甲斐もなく嫌味たっぷりな言い方をしてしまう。いつもの善継ならこんな皮肉は言わないだろう。

 だがこの真理の方が上だと言っているような言葉に、芹沢は更に苛立ちを募らせる。

 一杯食わせてやった、ざまぁみろ。善継としてはそう思っていたが、真理の表情は違う。


「…………そういう訳じゃないんだけどな」


 二人に聞こえないように呟く。当然気づいていない芹沢は限界のようだ。


「~~~! 陰キャのくせに生意気なんだよ! クラス中の最底辺だったくせに」


「そうだな。確かにあの頃のあたしは、どうしようもない馬鹿なメスガキだったよ。イジメられる側にも理由があるっての、今なら解るかな」


 自嘲するような笑いに芹沢も一瞬口を噤む。


「けどイジメて良い理由にはならない。あたしはあんたを許さないし、土下座してきた連中も同じだ。けど……勇者をけしかけもしないし、相手にする気もない」


 席を立ち芹沢を見上げる。小さな身体で精一杯の威嚇。なのに気圧されるような威圧感があった。


「魔物にイカれた勇者、更には勇者ドラッグの相手をしなきゃならないんだ。一般人は敵じゃない。だから……あんたは眼中に無い」


「っ!」


 見下していた相手に無視される。そのストレスにこの女が耐えられるだろうか。答えは否だ。

 顔を真っ赤にし真理をひっ叩こうと手を上げる。まずい、と善継も止めようと立ち上がった。だが振り上げた手は勢い余って背後にいた男に当たる。


「あ」


 そこにいたのは善継よりも一回り年上、アラフォーくらいの肥満体型の男だ。後退した頭髪に無精髭と、お世辞にも清潔とは言えない風貌をしている。

 芹沢もこんなオッサンに触れて気色悪いのか、汚物を見るような目つきになる。が、次の瞬間には顔を一気に青ざめさせる。


「なるるちゃん、見つけたよぉ」


「ゲッ、こいつ……あ」


 真理の事を思い出し急いで彼女の背後に回る。


「黒井、こいつ私のストーカーなの。ね、ヒーローなんでしょ? このキモいオッサン、どうにかしてよ」


 つい先程まで罵倒していたのが嘘のような猫なで声だ。都合が良いというか、身勝手な女だ。さんざん毛嫌いしていたのに、いざというときは頼る。身の安全を求めるその行動は理解できるが、称賛する事はできない。


「あのな、あたしらヒーローは基本的に魔物やらの異世界関係だ。ストーカーなら警察だろ。まあ、何も権限が無い訳じゃないけど」


 真理も呆れている。だが仕事柄無視するのも難しい。

 だが男はぶつぶつと焦点の合わない目で独り言のように話し出す。


「ねぇ、なんで俺と会ってくれないの? ねぇ、バッグも買ってあげたじゃない。君の為にいくら使ってあげたか計算した事ある? ねぇ、なんでなんで?」


 男の話しに真理は更にげんなりした。どうやらこの男に貢がせていたようだ。


「芹沢、パパ活でもやってたのか? いや、会ってないって事は頂き女子ってやつか」


 大きくため息をついていると善継が間に入る。流石に体格差のある成人男性が相手なら、見た目だけで身体能力が変わらない善継が相手になった方が良い。


「はいはいそこまで。あー、そこのあんた。いろいろあったようだけど、ストーカーは良くないな。弁護士とか警察に相談した方が良いだろう。な?」


「…………どうしてどうしてどうして。こんなに助けてあげてるのにこんなに優しいのに」


 男の様子がおかしい。左右で違う視点、止まらない冷や汗。震える手はゆっくりとジーンズのポケットに突っ込まれ、何かを取り出した。

 

「!!!」


 その瞬間、善継は男の腕を蹴り飛ばす。更に意識がそれた隙を狙い顔面に飛び蹴りをぶちかました。

 男はひっくり返り、周囲は何事かと静まり返る。


「よ、善継?」


「真理、ギアを出せ! 勇者ドラッグだ!」


 善継の方に転がる男が手にしていたモノ。黒い液体の入ったアンプルを拾い上げた。

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