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12:守る者、救う者

 ポツン、ポツンと足れる点滴。真っ白なシーツの上に座る憔悴しきった女性。水色の患者衣を着た若い女性だ。

 彼女の周りには三人の少女。真理、由紀、そして少女の姿の善継だ。


「尾崎さん、具合はいかがですか?」


 真理が声を掛けるも尾崎は黙っえ俯いたまま。目線は向けるも心ここにあらずといった様子だ。

 それもそうだろう。同じ女性として同情……いや、そんな生易しいものではないのを理解している。男性である善継でさえ吐き気を催す程だ。精神的にも参っているだろう。

 彼女はゆっくりと顔を上げる。


「少しだけ、良くなりました。昨日は家族とも会えましたし」


「それは良かった」


 僅かながらも微笑み善継はホッとする。


「聞いた話だと、生きて地球に帰れたのは私だけとか」


「…………ええ。以前、勇者に救助された奴隷勇者の女性がいましたが、自殺を強要されて」


 思い出すだけで胸が苦しくなる。なんて惨たらしい事をするのか、どうしてあんな悲惨な死に方をしなければならないのか。あの苦痛に満ちた形相を忘れるはずがない。


「それなら、魔物に捕まったのも幸運だったのかな? いや、そうとも限らないか」


「お辛かったでしょう。私も想像するだけで心苦しくなります」


 一瞬だが真理を睨む。そこにあったのは怒りだ。


「想像ねぇ。本当にできるの?」


 気圧されるように思わず言葉に詰まる。


「デブオヤジの相手をさせられ、頭のイカれた変態プレイを毎晩毎晩させられて。自分の意思と反して喜んでご主人さま~、って猫なで声で股を開くのよ? その後は魔物に孕まされる実験。殺してほしいってずっと思ってた。ねぇ、本当に想像できるの?」


「…………私の、あたしの想像を絶する地獄なのはお察しします。だからこそ、貴女を救いたい。誰も尾崎さんを玩具にはさせません」


 尾崎の視線が由紀へと移る。


「そうね。陰キャ野郎の男勇者より、魔法少女ユッキーちゃんの奴隷の方がマシだわ」


「安心してください。私が守ります」


「頼もしいことで」


 皮肉混じりに聞こえるも、最初の頃よりは声色は明るい。少しだが気分も落ち着いてきたのだろう。

 ホッとした所に真理が咳払いをする。


「では、そろそろ本題に入りましょう。尾崎さん、実験へのご協力心から感謝します」


「別に。私は勇者って言っても全く戦えないし。ユッキーちゃんが私をり……もし他の勇者に殺されたりしたら、そいつの奴隷にされるかもしれないから、本当の意味で自由になれる協力はする」


「貴女の身体は奴隷の首輪が内蔵されてる状態です。現に妹と契約していますから。私達も貴女が完全に元の生活に戻れるよう努めます」


 尾崎が苦々しく首に触れる。ネットで見た異世界人、勇者が異世界から連れてきた奴隷には首輪があった。自分には着いていない。

 しかし奴隷にされた。異世界で言葉にするだけで嘔吐したくなるような事を。逆らえず、自分の意思と反し操り人形とされた。その危機は地球に帰還しても変わらない。勇者が力を込め契約すれば、また自分は人形にされてしまう。


「それは嬉しいわね。で、本当に奴隷契約を解除できるの?」


「理論上は。ですが契約を解除するだけで、貴女に付与された奴隷魔法を解く事までは……」


「何それ? 結局問題の解決になってないじゃない!」


 怒りに歪み叫ぶ。期待させておいて裏切った、そう感じたようだ。


「ごめんなさい。まだ奴隷魔法について研究が進んでいなくて。今の地球ではこれが限界なんです」


「何よそれ。仕事しなさいよ!」


 真理に掴みかかろうとした瞬間、善継が止めようとするも由紀が先に間に入る。


「落ち着いてください。奴隷勇者のデータもロクに無い以上、研究が進まないのは仕方のない事です」


「そんなの言い訳でしょ。てか私の前に来た人がいるじゃない。死体から何かわからなかったの?」


「奴隷が死亡すると首輪が外れるのと同じで、奴隷勇者が死ぬと魔法も消えてしまうんです。ですから」


 フッと由紀の目が冷たくなる。感じられる小さな怒りに空気が凍るようだ。


「生きている奴隷勇者をバラバラにしてみれば、研究は一気に進むかもしれませんよ? 今、ここにサンプルもありますし」


 ゾッとするような冷たい声。この一言で尾崎は震え口を閉ざす。

 可能。奴隷となっている自分が犠牲になる、それを強要できる。心臓が直接握られているに等しい状況を思い出す。


「あ、え……」


 怒らせてはいけない人を怒らせようとしている。彼女の頭には死の一文字が思い浮かんだ。

 すると由紀は微笑み表情を緩ませた。


「大丈夫です。そんな事はさせませんから」


「…………あ」


「尾崎さんが怖いのは解ります。奴隷魔法から解放されない限り、ずっと誰かに命を握られる恐怖に縛られなきゃならないのですから。でも、姉だけでなく沢山の人達が尾崎さんを救おうと頑張っているんです。それを忘れないでください」


「…………ごめんなさい。少し言い過ぎたわ」


 一気にしおらしくなり俯く。


(成長したな、彼女も)


 善継もホッと胸を撫で下ろす。出会った頃の由紀なら、掴みかかろうとした手を氷漬けにしてもおかしくない。自制ができているのか、それとも正義感からくる言葉なのか。彼女の成長が少しだけ喜ばしかった。

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