8:キュートにスマイル
何度も響くシャッター音に紛れるカメラマンの男性の声。眩しい照明。真っ白な撮影部屋の中を行き来するスタッフ達。
その中心には小柄な少女が二人。カメラ目線に笑顔を振り撒きポーズをキメている。
「良いねぇみうみうちゃん。撮影初めてじゃなかったっけ?」
アラサーの男性カメラマンに声をかけられる少女、魔法少女みうみうこと善継は笑みを崩さない。それ所かカメラマンの要望に即座に応える反応速度に驚いて、周りのスタッフも助かっている。
その実態は、本当は撮影に馴れているからだ。
「いえいえ。二葉製薬でプロモーションビデオやらの撮影でコツは掴んでますから」
そう微笑みを投げ掛ける。
半分は嘘だ。スターカウントの頃からこういった仕事が無かったわけではない。流石にこんな大きな雑誌の仕事は初めてだが、仕事として作り笑顔の一つくらいは容易い。
(明日は顔面筋肉痛かな。しっかし本当に顔出しの連中はある意味尊敬するわ。真理達も人前で笑っていられるもんだ)
ふと魔法少女の三人が頭に浮かぶ。彼女達も顔出しをしているヒーローだ。ネットの動画でも、戦闘後に周囲へ笑みを向けるシーンが見られる。ファンサービス、安全のアピール。理由はいろいろとあるがヒーローの仕事の一環だと認識している。
今回の撮影も同じ。世間から頼られるヒーロー像、信頼を得て好意的に思われるよう営業をする事も大切だ。
「若いのにしっかりしているなぁ。最年少ヒーローじゃないのかな?」
「いやいや、私は見た目はこんなんですがに……」
そう言いかけた所で視界の隅に立つ真理の姿が見える。腕を組み、まるでマネージャーか付き人のように善継を見ている彼女の視線。それに気づくと思い出したように咳払いをする。
「……十八ですから」
「それでも若いよ。いやはや、同じくらいに思っちゃったね」
グサリと言葉が胸に刺さる。
確かに彼とは同年代だ。だがこの姿で二十八は無理があるので、真理と前もって打ち合わせ十代という事にした。幸いな事にカメラマンの男性は信じてくれたようだ。
「ふーむ。しっかし変身した姿を表紙にしたかったんだけど。まあ私服姿でオフのヒーロー、ってのも乙かな」
「アハハハ。先日の件でちょっと失敗しちゃいまして。今変身できないんですよ」
「新型のアディクショナーだっけ? メタルスパイダーさんも怪我したとかで大変だったみたいだね」
「そうなんですよ。一応親戚ですから心配で心配で。しかも一気に二人も人員が減っててんてこ舞いなんです」
作り話をしながらも撮影は続く。カメラ目線の笑顔も絶やさずにしているせいか、顔の筋肉が吊りそうだ。
するとカメラマンは手を止め考えるように顎を掻く。
「フム。ちょっと物足りないかな」
「足りない?」
「ああ。表紙を任されたのだから、もう少し何かが欲しくてね。もっと読者の心を掴むようなものが……」
周りを見回していると、真理が目に止まる。
「……?」
何故? と真理が首を傾げるとカメラマンが微笑む。
「そうだ! せっかくだからマリリンも一緒に撮ろう。魔法少女全員集合だと最高だけど、二人一緒でもいけるはずだ!」
「「はぁ?」」
一瞬何を言っているのかわからなかった。だが頭が動き出すと彼の言う事に納得していく。
確かに一人より二人の方が花がある。それにこの男性が仕事に真摯なのも善継は感じていた。個人的には厭だとは言えない。
だが真理は違う。
「い、いやいや。あたしは今日インタビューだけって聞いてたよ? メイクだって最低限だし」
「大丈夫大丈夫。上には僕から伝えておくから。あ、タムちゃん、マリリンちゃんのメイクお願いね」
「はーい」
「嘘ぉ……」
女性スタッフに引きずられ退出する真理。ドップラー効果で苦言が低くなっていくのが聞こえる。
イレギュラーな事態だが善継もプロだ。せっかく雑誌の表紙なんて大仕事を受けたのだから、生半可な気持ちで働くのも彼らに無礼だ。気を引き締め挑もう。
そう思っていたが……
「そうだなぁ。抱き合うような構図が一番良いかな」
「えっ?」
「マリリンちゃんの方が少し背が高いんだから、胸に頭を預けるポーズが良いかもしれない」
「なぁ!?」
それはダメだ。身体は少女だが中身はアラサー男。仕事とはいえ部下に抱き付くなんてセクハラになりかねない。
そしてなによりも、その写真が世に出回りシスコン勇者に見られでもすれば命は無いからだ。




