5:助けて真理さん
ジャケットからスマホを取り出し画面を見る。相手は真理だった。内心ナイスタイミングと呟く。
「どうした善継。女か?」
「仕事だよ。ったく」
父のちゃかしを無視し電話に出る。
「もしもし?」
『うーん、なんか違和感あるな。男に電話したのに美少女ボイスで返事が来るなんてねぇ』
「用事があって電話したんだろ。茶化すなって」
電話の向こうで真理がニヤついているのが頭に浮かぶ。声も少し楽しそうに聞こえた。他人のトラブルだから楽しい、危険も無いのなら尚更だ。
『ああ、すまないね。ちょっと確認したいんだけど、あんた服は大丈夫なの? 子供服なんか善継のとこに無いでしょ』
「お前は超能力者か。いや、実際困っていたとこなんだ。家には子供の頃の服は無いし、近所から借りるのも難しくてな」
『だろうと思ったよ。あたしが明日の朝に持ってく。んで、着替えたら仕事に行くぞ』
真理の申し出は天の助けだった。
「マジか? 助かる……って、もしかして真理の服か?」
『んな訳ないだろ、セクハラだぞその台詞は。てかその姿だとあたしの方が背はデカいんだ。サイズが合う訳ないだろ』
セクハラと言われ一瞬口ごもる。下手な事を言っては信頼に関わる。しかし真理はそれすらも茶化しているようだった。
『まったく。今伯父さんが子持ちの社員に古着を譲ってもらえないか聞いているんだよ。みうみうの正体を知っている社員に既婚者はいるからな。小学生くらいのお子さんのいる社員に交渉中だ』
「そうか。社長には頭が上がらないな。何から何まで申し訳ないぜ」
『おうおう、感謝しろ感謝しろ。伯父さんも善継を評価してるって事さ』
嬉しい限りだ。これだけ周りから支えてもらっているのだ、期待に応えなければバチが当たる。
明日からの仕事も乗り気ではなかったが、気合いを入れて挑まなくては。姉の顔をしていろいろとやらなければならないが、好物を供えて謝れば許してくれるだろう。
今夜はインナーのシャツで充分だ。そんな事を考えながらちらりと横目で父を見る。テレビのニュースを見ながらこちらをチラチラと視線を向けている。
『あと身体が女の子になったからって変な気起こすなよ』
「誰が起こすか。姉さんの顔だぞ」
不意打ちじみた爆弾発言に声を荒げる。確かに男性が女性になればそういう気を起こす者もいるだろう。しかし善継にとっては今の身体は姉も同然。そんな事を考えもしなかった。
「真理だって……例えば大和君の姿になってみろ。イタズラとかしたくなるか?」
電話の先で真理が押し黙る。おそらく自身が兄である黒井大和の姿になったのを想像しているのだろう。
『確かに。男の身体になったらいろいろ試したい事があったけど、兄貴の姿って考えたら急に萎えてきたぞ』
「だろ? 男女で多少考えの違いはあれど、異性の肉親になったら自重するっての」
『…………まっ、一安心って事にしますか。じゃあね、女の子の身体はデリケートなんだから丁重に扱えよ』
「はいはい。じゃあ明日は頼むぜ」
そう言い電話を切った。安心したせいか空腹感を感じる。
明日から別の意味で忙しくなる。切り替えるように背伸びをし善継は台所へと歩き出したのだった。
翌日の朝。欠伸をしながら階段を下りる少女が一人。白いシャツ一枚の格好は遠目から見ればワンピースにみえるだろう。そんな彼女は腹を掻き寝癖を揺らし、眠そうな目でリビングへと進む。
「あーくそっ。髪が長いと寝癖が酷いな。世の女性を尊敬するぜ」
少女になってしまったせいか、今までと違う身体に違和感しかない。小さくなったせいか食も細くなり、視点も子供の頃に戻ったような錯覚がある。何よりトイレだ。用を足すだけで自分の内側から羞恥心と罪悪感が湧き出てくる。
この生活をあと一週間近くしなければならない。それだけでため息が溢れ頭が痛くなる。
「おはよ」
「おうおはようさん。っと、ひっでぇ頭だな」
朝っぱらから父の苦笑いに肩を落とす。自分でも酷いのを自覚している。正直バッサリと髪を切りたかったが、みうみうは長髪だ。これから魔法少女みうみうとして仕事に行くのに見た目をいじるのはまずい。
「美海ももう少しマシだったぞ」
「うるせー。着替える時に直すって」
「そういや会社の人が持って来てくれるんだっけか?」
「ああ。そろそろ来るはずなんだが」
その言葉を待っていたかのように玄関のチャイムが鳴る。




