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2:女子小学生の肉体inアラサー男

 善継の精神はストレスに満ちていた。今だかつてこれ程精神が不安定だった事があるだろうか? 命懸けの修羅場に生き、戦い抜いてきた屈強な彼の精神ですら今の状況に困惑している。

 それは何故か。彼の姿を見れば一目瞭然だ。

 社長室のソファーに座る一人の少女。百三十少々の小学生くらいの背丈。長い髪を無造作に下ろし、体格に見合わないブカブカの男性用のスーツを着て……いや、包まれていると言った方が正しいだろう。袖を丸め無理やり丈を合わせているが、横幅はどうにもならない。それもそうだ。なんせ()()()()()とは五十センチは差がある。

 善継は今、魔法少女の肉体になっている。あの幼い頃の双子の姉、彼女の身体に。


「あの、八ツ木さん。身体は大丈夫なんですか?」


 上司であり部屋の主である玄徳も心配そうだ。本来なら変身を解除すれば元の姿に戻るはず。ここにいるのは身長百八十のアラサー男性がいるはずだった。


「一応問題はありません。見てくれ以外は……」


 ため息が出る。性別も年齢も違う姿。更に亡くなった姉の顔。善継にとって精神的に重苦しくなる現状だ。戦闘中ならと我慢していたが、戻れなくなるのはあまりにも心苦しい。

 そんな彼の心中は皆にも伝わっている。特に今回の原因と自負している真理の顔色は悪い。


「ごめん、あたしのせいで」


「気にするな。真理に怪我が無くて良かったよ。それに」


 手を開き握り身体の動きを確認する。


「これ()()だな」


「アレだよねぇ」


「アレですな」


 真理だけでなくもう一人、ガタイの良い中年男性……青山も頷いた。三人の様子に玄徳だけでなく長い艶やかな髪の少女、明美も不思議そうに図上に疑問符を浮かべた。


「真理、私達にも解るように説明してくれないかな。柳原さんも理解が追い付いていないんだ」


「えっとね、今の善継は変身機能不全による外皮残留。通称精霊癒着って呼ばれてる症状なんだ」


「精霊癒着? なんだか聞いた事があるような……」


 聞き覚えのある単語に明美は首を傾げた。


「お嬢様、訓練場で習っているはずですよ」


「えっと、覚えてないかな。その、精霊癒着ってどんなのなんですか?」


 苦笑いをする明美に真理はため息を一つ。やれやれといった様子で説明を始める。


「まあ、訓練場だと精霊関連で少し話す程度だからな。精霊癒着ってのはギアやメダルにダメージが入り、一時的に変身機能に異常が発生するんだ。主に変身が解除されない事が多い」


 善継の方へと視線が集まる。


「俺の場合は身体そのものも変化するからな。だからこんな格好になっているんだろう」


「変身が解除されない所か力も使えない。つまりヒーローのコスプレが脱げない状況って想像してくれればいい。解ったかな?」


「なるほどね。ありがとう真理。それで八ツ木さんに悪影響は本当に無いのかな?」


 玄徳の不安は尤もだ。善継の状況に懐疑的になるのも上司として妥当だろう。


「問題無いかな。とりあえずは精霊が回復するのを待ってからだね」


「たしか再度変身して解除するんだっけな。くそっ、しばらくはヒーロー活動は無理か」


 舌打ちしそうな所をこらえ頭を掻く。長い髪が鬱陶しい。

 青山が思い出したように指を鳴らす。


「そういえば私の同期がなった事がありますな。たしか一週間ほどで治ったと記憶しております」


 一週間。短いようで長い時間だ。その間ずっと好ましいなのかと絶望するべきか、たったの一週間と喜ぶべきか。そのどちらともとれない奇妙な感覚に顔をしかめる。

 それだけではない。ヒーローとして戦えないのも問題だ。仕事ができないのは痛い。


「成る程。では八ツ木さんは回復するまでヒーロー活動は休止してください。精霊の力が使えないのなら私と同じただの人間ですから」


「…………はい。そうですね」


 残念ながら玄徳の言う事は尤もだ。しばらくはおとなしくしているしかない。


「真理、柳原。悪いが戻るまで頼むぞ」


「はい、任せてください」


「そろそろ由紀も帰ってくるはずだし、なんとかなるよ」


 それもそうだ。ここには勇者と言う最強の戦力がある。そもそも善継は基本的に前に出る事を想定していない。アディクショナーのような対人では由紀が過剰戦力になるが、魔物が相手なら問題無い。

 しかしこうなれば仕事が無い。この姿では実家の酒屋を手伝うのも難しいだろう。そう考えているのを玄徳も察していた。


「ああ、そうそう。仕事はありますので、そこはお願いしますね」


「仕事?」


「ええ。魔法少女みうみう宛てのね」


 サーっと血の気が引いていくのを感じる。なんとなくだが察した。善継ことメタルスパイダーではなく、今の姿の仕事にだ。


「インタビューやら断っていた仕事がたくさんありますから。せっかくその姿になっているのなら、是非やってもらいましょう。それに……」


 玄徳の表情に影が差す。


「仕事をしていた方が気も紛れるでしょう」


「…………ありがとうございます」


 気遣いが嬉しい。なんせ魔法少女の姿は善継の亡くなった姉の姿だ。戦闘中なら気にはしていなかったが、これから約一週間この姿なのは精神的にもキツイ。仕事をしていれば多少はマシな気分になるだろう。玄徳も事情を知っているからこその采配だ。

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