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48:攻略、魔王城

 一方、周囲を海に囲まれた断崖絶壁の孤島。その中心にそびえ建つ西洋の城。所々に獣を象った装飾の施された灰色の建造物だ。地球には存在しない悪趣味なデザインに賛否は分かれるだろう。

 城の中は不気味なほど静かだ。廊下を歩く人影は無く、生物の気配は全く感じられない。ただ一つ、城の頂上にある玉座以外は。


「……ふう」


 猫耳のベレー帽を揺らす少女が一人。由紀が小さく欠伸をする。

 端から燃える旗。切り刻まれた床。そして壁には無数の氷柱で貼り付けにされた異形の男。骨の鎧に身を包んだ四つ目のライオン人間のような男だ。彼こそこの城を築いた魔王その人である。


「ゆ、勇者め。俺様の城を……」


「あっ、まだ生きてるんだ。流石魔王なだけあってしぶといね。お城は調査するのにとっとかなきゃいけないから、あんまり本気出せないからなぁ」


 面倒そうに頭を掻き右手に炎の刀を生み出した。熱を帯び空気を揺らしながらとどめを刺そうと歩き出す。

 少女の姿をした死が近づいてくる。勇者と言う破壊の化身が殺意を向けてくる。人間を蹂躙し多くの魔物を従える魔王であっても戦慄する程だ。


「ま、待て勇者よ。お……俺様と手を組まないか?」


 威厳もプライドも投げ捨てた情けない懇願に萎える。しかし由紀の気持ちも察せず、ひたすら命乞いに徹し始めた。


「お前はあの下等生物どもにいいように利用されてるだけだ。現にお前一人に全て押し付けているじゃないか。自分達は我が配下の魔物の相手、貴様は単独で魔王に挑む。どう見ても使い捨ての道具じゃないか」


 由紀の手が止まる。


「あんな連中に従うなぞ愚行だ。下等生物どもに誰が支配者か教えてやるべきだ。俺様達ならできる。どうだ?」


「………………はぁ」


 呆れたようなため息。手にした炎の刀、その切っ先が浮かび上がり……


『チャージ』


「ガッ……!?」


 溝を突き刺す。

 苛立つ。確かにこの城の中へと侵入したのは由紀一人。他のヒーロー達は島を囲い魔物の脱走を防いでいる。どう考えてても由紀の負担が大きく危険だ。しかしそれは由紀が望み選んだ事。

 ヒーローでは魔王には勝てない。ならば最小限のリスクを選ぶのが正しいだろう。単独で挑めば巻き込むのも気にしなくて良いし、魔王と戦うヒーローの死傷者を無くせる。

 利用されていると言われるのは心外だ。だからこそこんな奴の言葉に耳を傾ける理由は無い。


「何言ってるかさっぱりだね。ごめんね、私下等生物だからあんたの鳴き声が言葉に聞こえないのよ」


「き、貴様……」


「消えて」


 ギアを静かに叩く。


『必殺フィナーレ!』


 熱が刃を伝い魔王の体内へと流れていく。炎が血管を伝い全身へと駆け巡る。熱い。身体が内側から燃やされ苦痛が体内を埋め尽くす。

 全身の穴という穴から炎を吹き出し、魔王の身体は塵となって消えていく。


「……魔王の討伐完了。さて、お土産何買って帰ろうかな~」


 冷たい視線が一転、年相応の笑みを浮かべながら背伸びをした。ズタボロの城内と真逆だ。彼女からすれば仕事は終わったも同然。後は魔物の残党を掃除するだけ。しかも魔物相手ならヒーロー達で事足りる。


「っと、報告報告。鮫肌丸さん、こちら魔法少女ユッキーです」


『聞こえている。流石は勇者様、魔王なんてお茶子のさいさいってか』


 通信の相手は鮫肌丸だ。一応ではあるが彼女は今は彼の指揮下にある。報告は必要不可欠だ。


「そちらは大丈夫ですか?」


『ああ。あんたが突撃して魔物どもはパニックを起こしてやがる。統率のとれてない軍隊なんぞ容易いもんだ。負傷者も想定以下だ』


「それは良かったです。あ、お城の中は少しぐちゃぐちゃですけど、殆ど無事です」


 ホッとし頬が緩む。魔物の軍団と戦い損害が少ないのは何よりだ。


『学者どもが喜ぶよ。魔人や魔王に関する資料は少ないからな。…………助かった。魔王が相手だと俺達では力不足だからね』


「いえ。これが仕事ですか……」


 何かを察知し顔を上げる。由紀の目の色が変わり部屋の奥を凝視する。


『どうした?』


「また連絡します。ちょっと気になる事がありまして」


 通信を切り部屋の奥へ。歩きながら両手に炎と氷の刀を生み出し身構える。

 それは扉だ。他とは違い飾りっ気の無い無骨な鉄の扉。部屋と言うより牢獄の扉のようだ。


「うん、この先だ」


 扉の先から声が聞こえる。呻き声のような弱々しい声だ。

 刀を交差し振り抜く。バツ印に切り裂かれる鉄の塊。軽く蹴れば簡単に崩れる。

 中から漂う異臭、いや腐敗臭だ。鼻を押さえ進むもそこはとても部屋とは言えない場所だった。例えるなら馬小屋。藁の敷かれた家畜用の部屋のように見える。


「いた」


 呻き声に混じる鎖の音。聞こえた先には倒れている女性の姿があった。


「大丈夫ですか!?」


 急いで駆け寄り抱き上げる。若い女性だ。由紀より少し上、二十代前半くらいだろう。ただ、由紀はこの人物に見覚えがあった。

 おもむろにスマホを取り出すのと同時に鮫肌丸にも通信を繋げる。


「鮫肌丸さん」


『トラブルか?』


「大した事ではないのですが、こちらに女性ヒーローを一人か二人回してもらえませんか? あと救急車に連絡も」


『……解った。メリケンマダムを向かわせる。その口振りからして、女性が捕まっていたってとこだろう』


 彼も由紀の意図を素早く察した。

 そんな中、由紀の指が止まる。画面にはネットの動画投稿サイトが開かれており、一本の動画が流れていた。水着姿でゲームを実況している女性、今目の前にいる彼女が画面にいたのだ。


「はい。それも……奴隷勇者として拐われた人です」

五章完結です。


総合計50.8万字、五章は8.8万字でした。今回は少し短いですね。

コミカライズも順調に進行しております。今後もよろしくお願いします。

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