47:討伐完了
陸に打ち上げられた魚のようだ。血走った目が善継を睨むも、身体は力無くぐったりとしている。僅かに呼吸をするように身震いをするも、指一本も動かせないようだ。
「……ったく。面倒かけやがって」
善継は見下ろしながらため息をつく。やれやれと言った様子で男の腰に巻かれたベルトをいじり、刺されたアンプルを引き抜いた。
もう安全だろう。次第に薬が切れ元の姿に戻るはずだ。繋がっている巨大蜂も傷口から崩れている。
ただ一つ不安があった。胎児に咥えられている男だ。
異常なまでに痩せ細った腕、干からびた肌。生きているのかも不安になる。
そっと手首に触れ脈を調べる。
「……死んでる」
「嘘だろ。死んでるのか?」
真理が下り同じように脈を確認する。脈がなく冷たい氷のようだ。
「この冷たさだと、死んだばかりじゃないな。こいつ、俺の前に出た時には既に死んでいたな」
「はぁ!? ちょっと待て、じゃあどうやって動いてたんだよ」
「俺に解るかっての。二号のやつに問い詰めたいが、あいつ逃げやがったな」
周りを見回せば二号の姿は無い。巻き込まれるのを危惧し離れたのだろうか。いや、データ収集が目的のはずだから、何処かで見ているのだろう。
ふう、と一息つきちらりと蜂を見る。額の穴は塵と化しながら広がり、脚も傷口から消えていく。巨大なだけに少し時間がかかるだろう。
そんな事を考え変身を解こうとギアに手を伸ばす。その時視界の隅で動くモノが見えた。
「っ!」
銃だ。体内から銃を生やし真理に向けられていた。この怪物はまだ生きてる。
何故だなんて疑問は浮かばなかった。それよりも先に真理に駆け寄る。
「真理!」
「へ?」
真理を抱きかかえマフラーを巻き盾にする。銃口が火を吹くだろう、そう身構える。
だがそれよりも速く、巨大蜂の真上に光の輪が展開され中から何かが落ちてきた。それに気づいた青山は明美を抱え飛び退く。そう、それは一発のミサイルだった。
落ちる爆薬の塊。怪物に直撃し、一瞬の内に周囲を炎と爆音で満たした。
砕けた甲殻、飛び散る虫の肉片、炎の渦に吹き飛ばされる小さな少女達。
ほんの数秒の出来事だ。引火した家屋、より小さくなり消えていく怪物の欠片。アスファルトは爆散し破裂した水道管から水が吹き出している。
「くっ……ご無事ですかお嬢様?」
「私は大丈夫、ありがとう。それよりも、八ツ木さんと真理さんは?」
周りを見回し二人を探す。いた。数メートル吹っ飛ばされた先、ひびだらけの百足にくるまれた善継の姿があった。
「っ。真理、大丈夫か?」
「う、うん。ありがとう……っておい!」
真理が指差したのは善継の左手。そこに巻かれたギアだ。ギアの外装には亀裂が走り火花を散らしていた。
「うわっ、やべ!」
慌てて蓋を開け中を確認する。内部まで損傷しているが、幸いな事にメダルには傷は見えない。
ホッと胸を撫で下ろす。生存不可能な地球の環境で、メダルは宇宙服のようなものだ。破壊されてしまえば中の精霊の命は無い。
「あー、こりゃ酷い。ごめん、あたしのせいで……」
「庇ううんぬんは気にするな。とりあえず変身解くから診てくれ」
メダルを外すとボロボロの百足が離れ消失、全身をワイヤーで包まれ視界が塞がれる。一息つき瞼を開くと、目線が少し上の真理の姿があった。
「……は? などうなって? え?」
声も高い。視点を落とし身体を確認する。
サイズの合っていないブカブカのスーツ。膝の辺りで引きずっているズボン。
「八ツ木……さん?」
「あの、スパイダー。私の目には……」
二人が思わず口ごもる。
まさかと慌てて手首から先の見えないジャケットで顔を撫で、頭から伸びる長い髪を掴む。確信した。今自分がどうなっているのかを。
「俺…………変身したままじゃね?」




