42:怪物〈クリーチャー〉
街中に響く銃声、木っ端微塵に粉砕される家屋。避難が済んでいるとはいえ、街が破壊されていくのは気分が悪い。
弾丸の雨をかい潜り小さな少女が走る。今この瞬間だけはこの小柄な身体が頼もしい。真理よりも小さいせいか狙いが拙いのだ。背中から生えた触手、その先端の銃火器が火を吹くも当たりはしない。
走りながら左腕にアームドギアを巻きクロスギアを組み合わせる。
『ドッキング!』
空を舞う泥の蜂が投げたワイヤーを掴み善継を持ち上げた。フワフワと浮かび不規則に揺れ、弾丸の合間を縫うように避ける。
どんどん高度を上げ、真上から見下ろしギアに触れた。
「出し惜しみしている場合じゃねぇな。オーバートランス!」
『デコレーションアップ!』
ワイヤーを離し空中に身を投げ出す。触手が揺らめきこちらに銃口を向ける。
『魔法少女みうみう! サクリファイススティンガー!』
『How do you feel about being eaten alive?』
それよりも先に泥の蜂が分解、上半身を背に、下半身が右足に装備され翅を拡げた。蜂女となった善継……魔法少女みうみうが飛翔する。
右へ左へと銃撃を避けながら旋回。右足から針を出し蹴りと同時に発射する。
だが銃を盾にし防御。表面を凹ませるもダメージにはならない。
「硬いな。っと」
反撃と乱射する銃撃を避けながら視線は伸びた触手の先端、そこに生えている銃へと向かう。
精霊の力で武器を造るヒーローや勇者は珍しくはない。善継も金属操作の応用でワイヤーや武器を造るし、由紀も氷や炎を刀にしている。だが銃はそう上手くはいかない。
真理のようにあらかじめ武装として設計しているものならまだしも、精霊の力で戦闘中に造った者はいない。多くの勇者やヒーローが挑戦したが難航していた。
例えるなら粘土を使い部品の一つ一つを手作業で作るようなもの。面倒な上に正しい知識が無いと不可能だ。善継のように単純な刃物を形成するのも、強度や刃を立てるのを瞬時に行えるようになるまで訓練を重ねていた。
だからこそ、こんな簡単に銃を造るこのアデイクショナー、ファランクスが不可解だった。元々変身したホストのような男も銃の知識があるとは思えない。
こうも多種多様な銃火器を取り揃える能力が異常そのものだろう。なんせ異世界に銃は無い、当然魔物も使うはずがない。
頭の中に疑問と不安が渦巻き一瞬集中力が途切れる。
それを狙ったのか、それとも偶然か。触手を体内に戻し再度生やした先端、新しい銃に反応が遅れてしまった。
「ゲッ……」
黒いペットボトルのようなものが先端に装填された長い筒。ロケットランチャーだ。
点火し飛来する爆薬の塊。咄嗟にナイフを編み迎撃するように投擲した。
(マズっ!)
ヒーローは軍人ではない。銃火器に詳しくないのも当たり前だ。だからこそ見誤ってしまった。元々の爆発、更にこのサイズによる威力の強化を。
迎撃したのは良い。ナイフと正面衝突し直撃は避けた。しかし爆炎の範囲が予想以上だった。
真っ赤な炎と黒い煙が爆音と共に広がり善継を飲み込む。
煙の中から落ちながらも体制を立て直し着地。ふらつきかけるも踏みとどまる。あちこち焼け焦げ小さな切傷が痛々しい。が、この程度で弱音を吐くような軟弱者ではない。
「ったく、なんつうもん撃つんだよ! 人間に向けて使うか馬鹿!」
顔を上げいざ反撃。と思っていたが腹部の先端、六つの銃身を束ねた黒光りする鉄塊が回転を始める。
「……そういやこうなる前から、全身武器の塊だったな」
ガトリング砲が火を吹くのと同時に蜘蛛の巣型の盾を展開、更に泥でコーティングし弾を受け止める。
泥が衝撃を吸収し持ちこたえるも、このままではジリ貧だ。更に少しずつだが市街地の方へと進んでいる。被害の拡大は絶対に阻止しなければならない。
「くそっ。強引にでも接近して殴るしか……な…………?」
銃撃が止まった。盾への衝撃が消えた。しかし自分の周囲が一気に暗くなり足元に巨大な影が広がる。
「んなの有りかよ!?」
跳躍したのだ。あの自重をコントロールできず飛べもしなかった蜂が、ファランクスと合体し強靭になった脚で。
時間の流れが遅くなったような気がする。それ程目を疑う光景だった。
空から落ちてくる巨体。長い六本の脚はアスファルトに到達すると、全てを押し潰し粉砕し、街のど真ん中にクレーターを作り上げたのだ。




