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41:転々とする面

 いつもの授業風景、明美にとってはそうであった。変わらないクラスメート達、授業をする中年の女教師。日常そのものであった。

 ただ一点を除いて。

 このクラスに在籍している勇者、森留美子だ。彼女の様子が……いつもニヤついて気色悪かったが、今日は一段と奇妙だった。

 いつものようにニヤニヤしていたかと思えばムッとしかめっ面になる。そんな事を繰り返していれば周りも不信に思うだろう。恐れと嫌悪感に満ちた視線が彼女を囲む。


(気持ち悪い。何やってんだろう。……あっ、もしかして)


 朝の連絡を思い出す。今日は善継が留美子に関係がある……かもしれない工場を調べに行くと聞いている。

 もしかして工場は本当に留美子と関係があり、善継の身に何かあったのかもしれない。そんな不安が脳裏を過る。

 だがそう考えるのは早計かもしれない。どちらかと言えば不機嫌そうにしている時間の方が長いような気がする。

 どちらにしろ連絡が無いのなら余計な事はしない方が良い。やるべき事をやらなければならない。

 気持ちを入れ替えノートに集中する。


「……っ!」


 そうしようとした時だ。留美子が顔を青ざめ勢いよく立ち上がった。ガタンと椅子は倒れ教室中の視線が彼女に集まる。


「な、何考えてんのあいつ。私のモンを勝手に……」


 何やらぶつぶつと呟き唇が震えている。焦りと驚愕に染まっていた。

 何事かと皆が思うも一言も口にしない。彼女の反感を買うのを恐れているのだ。


「チッ、面倒起こして」


 更にぼやきながら外を一瞥。怒りに瞳が燃え、歯をワナワナと震わせながら立ち去ろうとする。

 流石に教師も授業をボイコットするのは見逃せない。慌てて引き止めようとする。


「も、森さん? 今授業中だから……」


「あ? 偉そうに、誰に向かって意見してんの?」


 おぞましく冷たい声。同じ人間とは思えない、徹底的に見下しゴミを見るような目だ。

 こんな目で睨まれて反論できるはずがない。ただの一般人が勇者に歯向かうなど自殺行為でしかないのだ。


「い、いえ。いってらっしゃい……」


「フン」


 苛立ちながら教師を侮蔑するように睨むと、急ぎ足で教室から立ち去る。嵐が通りすがりたかのように静まりかえり、嫌な空気に静寂だけが漂っていた。

 明美も彼女を追いたい気持ちはあった。しかしやみくもに追っても危険なだけ。指示も無く勝手な行動もアウトだ。ここは報告だけしておこう。

 モヤモヤとした気持ちでこっそりとスマホに触れる。いくらヒーローの仕事として許可は得ているとはいえ授業中にいじるのは褒められた行為ではない。授業の邪魔にならないよう教師に見つからないようにと目線を上げた時、明美のスマホが鳴った。


「あっ」


 タイミング良く教室中に鳴り響く音。急いで画面を確認すると黒井真理の文字が。やはり何かあったのだと確信する。


「柳原さん、授業中は電源を切るのが校則ですよ。まったく、没収です」


 留美子に怯えていたからか、ここぞとばかりに威圧的な態度をとる。ストレスの捌け口か、威厳を見せようとしているのかはわからない。明美にとってはどちらでもよいのだ。


「先生、これ仕事用です。それに私ヒーローやっていますから、連絡用のスマホを授業中も使用する許可を取っていますが」


「え? あ、そうね……」


 思い出したのかあからさまに口ごもる。


「魔物が出たようなので早退します。構いませんね?」


「ええ、勿論よ。……学校には来ないわよね?」


「そうならないよう努力します。では」


 クラスメートから小さく声援を受けながらノートを鞄に詰め込み、急いで教室を飛び出す。

 廊下に出るとまだ鳴り続ける電話に出る。


「柳原です。すみません、教室にいたもので」


『こっちこそ悪い。やっぱり授業中だったか』


 電話越しに真理も申し訳なさそうに声を小さくする。


「八ツ木さんが調査したとこに何かあったんですね。さっき森留美子が出ていきました」


『マジか。いや、それよりも二号の奴が出て、場を引っ掻き回したみたいだ。なんか魔物とアデイクショナーが合体したとかヤベー事になっている』


「……何ですかそれ?」


 めちゃくちゃな情報に耳を疑う。精霊大使二号だけでなく魔物とアデイクショナーの合体なんて脳のキャパシティーを超えそうだ。


『アームドギアの使用許可も出た』


「なら」


『悪いが明美のはまだ調整中だ。……正直由紀がいないから戦力が欲しかったが、間に合わん』


「解りました。やれる事をやります」


『悪いな。場所は昨日伝えた工場だ』


「了解、直ぐに向かいます」


 電話を切りため息。残念の二文字が脳に浮かぶ。


「…………気持ちを切り替えなきゃ。青山を呼ばないと」


 頬を叩き外へと急ぐ。人々の生活を、地球を守るのがヒーローの仕事だと己に言い聞かせた。

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