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40:ファランクス

「おやおや、冷たいですねぇ。せっかく助けに入ったのに。そういえば手、大丈夫ですか? それに最近……」


 二号の視線は指先から血を垂らす善継の左手に向かう。

 指が動かない。無理矢理捕えたのは無茶だったようだ。痛みだけが腕を伝い脳に送られてくる。


「黙れ二号。今回は遠慮なくお前を簀巻きにしてやるからな」


「怖い怖い。同じ志を持つ仲間ではありませんか。もっと優しくしてくれても良いのでは?」


「誰が仲間だ」


「仲間ですよ」


 口角を吊り上げ微笑む。

 美しい、その一言でしか言い表せない美貌。だがどこか不自然で造り物のようだ。


「貴方はヒーローとしてチキューを守る。私は大使として勇者召喚の償いをしチキューを救う。お互い目指す道は平和ですので、同じではありませんか?」


「…………ならそのアディクショナーもどきも地球の為なのか?」


「ええ、そうですよ。そういえば後藤さんには他言無用だと伝えていましたね」


 不気味なくらい明るく楽しそうな様子だ。子供が工作をほめられているような、無邪気ささえ感じる。

 今は情報が欲しい。即座に殴りかかりたいのを我慢し警戒するだけだ。幸いな事に二号達に攻撃の意思は無い。時間を稼ぎ情報を引き出すのが一番だろう。


「で、何なんだそれは」


 気色悪い怪物だ。肉塊と胎児、そして兵器をごちゃ混ぜにした嫌悪感すら感じる異形。こいつの正体を知るのが優先すべき事だろう。

 すんなり答えてくれるのかどうかと疑っていたが、意外な事に二号の口は軽かった。


「一応アディクショナーですよ。ちょっと特殊なお薬を使ってますが」


「ほーう。あんなゲテモノでも怪人か。にしては言動がおかしいようだが」


「そりゃそうですよ。これはいわば、ネットの中継サーバーのようなものです」


 ピクリと眉が動く。


「サーバー?」


「ええ。同じ志を、想いを抱く人々の心をまとめ上げる道標。共通の目的へと邁進させる司令塔の一つ」


 醜いブヨブヨとした頬を撫でる。まるで子供をあやすようだ。


「ファランクス。アディクショナー達の指揮者にて心を一つにする中継地点です」


「ファランクス……!?」


 何のために、そして心を一つにとはどういう意味か。解らない事ばかりだが、ヒントの目星はついている。

 今まで二号が勇者ドラッグを売っていた面々だ。どいつもこいつも弱者ばかり。いじめられっ子、窓際社員、そんな人々に売っていた。皆自分の現状に不満を持ち、心に深い闇を抱えていたのだ。

 善継が察したのを気付いたのだろう。目を細め微笑む。


「お察しの通りです。私は所謂()()()()()()()()()を選んでいました」


「前回言っていた本来の客じゃないってのも……」


「その通り。恋人がいて仕事も順調な人間に売りませんから。まぁ、今のお客様もテスターでしかありませんが」


「そうかい。ならプレオープン期間で店仕舞にさせてもらうぞ」


 右手の指先からワイヤーを垂らす。今すぐにでも捕らえられるよう身構えた。

 視界にはあのアディクショナー、ファランクスも捉えており、どちらが先に動いても対応できるよう頭を動かす。


「血の気が多いと長生きできませんよ。それに、私の本体がノコノコと出ません」


「ちっ」


 よく考えれば当たり前だ。彼女は姿を見せる時は自分のダミーを前に出している。


「もう。恩人に対して辛辣過ぎますよ」


「何が恩人だ。お前らの目的は俺の救助じゃない」


 親指を立て倒れたギガントワスプを指す。


「こいつはまだ生きている。俺を助けるつもりならもうしんでいるはずだ。お前は最初からこいつが狙いだったんだろ?」


 そう、魔物は死ぬと黒い塵となって霧散してしまう。だがこのギガントワスプの身体はここにある。つまりまだ生きているのだ。


「黙らせ生きたまま持ってく予定だったみたいだが、そうはいかねぇぞ」


 向こうの手に渡る前にとどめを刺す。たったそれだけだ。だがそんな簡単な事を見過ごすはずが無い。


「少し考えれば解りますか。なら、私も働きましょう」


「!」


 周囲のマンホールが吹っ飛び中から、臙脂色の触手が蛇のように伸びてくる。ご丁寧に表面には無数の爪が生え善継に襲いかかる。

 それだけではない。ファランクスも両腕をマシンガンへと変え発砲してきた。

 咄嗟に飛び退き蜘蛛の巣型の盾を出す。弾丸を弾き触手は善継を捉えられない。

 が、その一瞬で充分だった。


「ちっ」


 乱射しながらファランクスはギガントワスプの背に飛び乗る。そして首の隙間に触手を突き刺すと、強引に傷口を広げ体内へと潜り込んだ。


「ならまとめて潰す!」


 盾を頭目掛け投げつけた。回転しながら迫る鋼鉄の蜘蛛の巣。だがそれは空へと弾かれた。

 翅が抜け太い触手、その先端の巨大化させた銃が殴り返したのだ。


「何……だ?」


 脚が伸びタカアシガニのように立ち上がる。巨大な身体が飛んでいるかのように浮かび垂れた腹部の先、毒針が抜け落ち新たにガトリング砲が生える。複眼は破裂し無数の人間の眼球が形成され、数十メートル上空から見下ろしていた。

 蜂の怪獣に人間と機械を合成したおぞましい怪獣(クリーチャー)。今まで感じた事のない重圧感に息を呑む。


「ファランクス戦略機動形態。さあ、戦闘テストのお相手、お願いしますね。魔法少女みうみう」

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