Code4
カイルは部屋の中ではっ、はっと荒い息をする。胸が痛い。胸にはバラの紋章が怪しく光っていた。長袖を着ていて分からない。
服を脱げば禍々しいバラのツタが全身を覆っている。命を奪わんといわんばかりに、ギリギリと締め上げてきた。
コールエン家代々に伝わる「暗殺者」としての呪いであると、残された文献に記載されていた。その血もだいぶ、薄まってきていると思っていた。
事実、アンとユズルに出ていない。
昴の紋章は先祖返りだろう。
呪いを解くには「愛」が必要と言われている。愛のあった家は取り壊されて、跡形もなくなっていた。だからこそ、呪いである紋章が浮かび上がった。
愛を失ってしまった故に。
自分には愛など不必要だった。
愛に溺れるぐらいなら、一人で死んだ方がマシだった。ピロン、と電子音が鳴った。この国で開発されたスマートフォンでもある。
発信者にはリーダーと表示されている。所属している暗殺部隊チームのでもある。
決して、表には出ない。
顔すら見せない。
声すら聞いていない。
ずるい男だ。
『仕事だ。<キサラギ>。情報を送っておいた。見ておいてくれ』
依頼書
カイル・コールエン様
集団レイプ事件の犯人たちを殺害せよ。
指定日時はアイズリ―歴・三二六年・七月三日午前一時まで。
すぐに情報は消えていく。証拠を残さないための仕組みだった。武器庫の鍵を開けると、銃にサイレンサーを装着させた。
犯人たちには女子高生が、受けた倍の痛みを味合わせてやりたい。金髪のウイッグと赤色のコンタクトを入れる。
ズボンを捲り上げて、太ももに銃を隠す。指定場所に向かうと、不良たちがたむろをしていた。
「何だ? お前は? られたいのか?」
「耳障りです」
「はぁ?」
「その煩い口を塞いでしまいましょう」
カイルに向かって男たちは、ナイフを持って走ってくる。華麗なステップでそれを避けていく。容赦なく引き金を引いた。
一発目二発目と銃声がした。間髪入れず三発目、四発目と撃ち込まれる。
銃に込めた銃弾の数だった。
『任務が終わりました』
リーダーにはたった一言だけを、スマートフォンに送る。処理班がすぐに到着するだろう。すると、倒れている少年のポケットから、ひらりと一枚の紙が落ちた。
それを拾い上げる。
『レイン・ユーベルト』
――レイン・ユーベルト?
――聞き覚えのある名前だな。
名前を入力して人口知能で検索する。
名前:レイン・ユーベルト?
性別:男性
年齢:四十五歳
家族構成:一人娘と暮らしている
母親は病死
職業:人工知能の第一人者
この国をリードしている若きリーダー
今なら、人工知能で検索をしたら名前や職業も出て来る。便利な世の中になったものだ。でも、昴は人工知能に溺れる気はなかった。テレビに出演をしている優に違和感があったからだった。
この男は危険すぎる。
危険分子は排除した方がいいだろう。早めに目を摘み取ってしまおう。暗殺者としての本能でもあった。
咄嗟の判断でもある。
――ふぅん。
――この間、会ったのは娘で間違いないな。
――利用させてもらう。
ウイッグやカラーコンタクトを投げ捨てた。形跡が残らないぐらい燃やす。ゆらゆらと燃える火を見つめる。ブラウンの瞳に炎が、移り込んで神秘的な雰囲気さえあった。
燃え尽きるまで持つ。
――そろそろ、証拠は取れたかな?
イヤホンをする。
ユーズベルト家に盗聴器を仕掛けてきた。ピー、ザーと音がして声がクリアになっていく。
『リーダー。なかなかやるな。<キサラギ>を手に中で転がるなんて』
<あの両親、最初から鬱陶しかった。人工知能が日本を支配する日が来たら、あんな正義の味方はいらないからな。ユーベルト様もそう思うだろう?>
リーダーの声はどこかで聞いた気がした。まだ、若い男の声だ。
<あなたも、なかなか人が悪い。それに、娘を差し出したって?>
『あの子も私の駒でしかない。お前だった両親を自殺に追い詰めたじゃないか』
<俺たちは会社と世間では善人なのに>
『私は日本の未来を思っているだからこそだ』
<仮の話です 二人が手を組んだらどうするおつもりなのでしょうか?>
『必要になれば消す。それが、私のポリシーだ』
胸糞が悪くなって途中で切った。
――でも、リーダーの声はどこかで。
――そうだ。
カイルにとっても身近な存在だった。小さい頃から、知っていて遊びにも、付き合ってくれた相手でもある。話す時に、少しだけトーンが上がる癖にハッとした。
なぜ、話し方の癖を思い出せなかったのだろう。
五歳離れた従兄弟のロット・ウィーズリーだ。
――身内に裏切られるなんて。
――おじさんとおばさんまで。
――許さない。
カイルの家が台頭してきてから、同じ家業だったロットの家は衰退をしていった。カイルを憎んでいるのだろう。歯を食いしばった。紋章がそれに呼応するみたいに点滅する。
いつも以上に点滅が激しかった。
服の上から、胸を押さえた。
指が白くなるほどきつく――。
――見ておけよ。
――奴らは絶対、僕の手で地獄に落としてやる。
――絶望の淵の叩き落してやる。
手をグッと握りしめた。




