Code2
春、夏、秋、冬……。
花が咲いて。
セミが鳴いて。
作物が実って。
雪が降って。
季節は流れて話は十年後へと移っていく。
黒髪と新緑の瞳――少女、サラ・ユーべルトは、貴族院私立学院に通う第一学年だった。周囲が羨む公爵家の娘だ。
サラが暮らす国・アイズリー王国は機械の文明開化で栄えていた。お陰で他の国よりも発展して、鉄道なども通っている。
鉄道も車も利用せずに、家の近道をしようと、いつもの細道に通った瞬間だった。
ドンッと誰かとぶつかった。
歩いていた足を止める。
少年とぶつかったのだ。
暑いのにタートルネックの服を着ている。
「ごめんなさい。怪我はなくて?」
瞳に光はない。
深い、深い暗闇がある瞳だった。
感情すら読み取れない。
危うさすらある。
脆さがあった。
小さい頃から奇麗な物に、興味がなかった。宝石や花が奇麗だとは思わなかった。ミステリーや謎解き、殺人をテーマにした本にはまっていく。
学校の図書館で本を読み漁った。
そんな中で、唯一興味をもったのは、闇がある者の瞳だった。まさに、目の前がある少年がそうだった。早く手に入れたい衝動にかられる。
胸がときめく。
――私にぴったりな人を見つけましたわ。
――獲物は逃がさないですわよ?
サラはぺろりと、唇を舐める。
好みの男だった。
飢えていた心が満たされる。
駆け抜けていこうとする昴の腕を掴んだ。腕を掴んだまま、スマートフォンで電話をかける。
『お嬢様! また帰りの車を無視して! 何があったらどうするのですか!』
筆頭執事の声がキィン、と耳に響く。
『私だって四季を感じたいし、歩いて帰りたいのです。子猫ちゃんを一匹拾いましたの。準備をしておいてくれまして?』
『どういったつもり――』
最後まで聞かずに通話を切った。その数分もしないうちに、車が横付けされる。腕を掴んだまま車に乗り込んだ。
はい、とタオルを渡す。
何の反応もない。
返事もない。
まるで、みたいだった。
じれったくて、血を拭き取っていく。それだけで、背筋がゾクゾクする。期待が高まる。封じ込めていた感覚が蘇る。
――そう。
――そうですわ。
――私はこれを求めていたのですよ。
――待っていたのです。
――あなたみたいな人を。
「ねぇ、あなた。学校は? 家族は? 家は?
どうなさっているの?」
「お嬢様。そんな直球に聞いても答えてくれないと思いますよ?」
それでも、サラはジッとカイルを見つめる。興味津々といった眼差しだった。
答えてくれるのを待つ。
「――くれ」
「え? 聞こえなくて?」
聞き取れなくて問い直した。
まだ、家までは距離がある。
駅も遠い。
仕方がなく道に寄せて下ろす指示を出す。
「僕にこれ以上関わるな」
サラはカイルの言葉に引き留められなかった。
――残念ながら、今日の獲物は逃げてしまいましたね。
――まだ、機会はありますわ。
――様子を伺いましょう。
家について車は駐車場に入る。着替えもせずに、父・レインの書斎に入った。母親はいない。病気で亡くなっていた。
現在はレインに育てられている。
「お父様!」
「騒々しい。ただいまぐらい言いなさい」
「私、新しい子猫を見つけましたのよ! 金色と水色の子猫でしたわ! ようやく、好みの人を見つけましたの! 安心してくださいませ!」
「待て。金色と水色?」
何か疑問でも? と首を傾げる。
「ご存じなの?」
サラの目の前にスマートフォンを突きつけた。
コードネーム:キサラギ。
変装をしながら、凶悪犯だけを狙う暗殺者。
家族を殺した犯人を捜している。
「この資料も噂でしかないけどな」
まさか、噂とはいえ裏ではこんなに、有名な少年だったなんて、思ってもいなかった。だとしたら、簡単には心を開いてはくれないだろう。
――面白そうじゃないですか。
――楽しめそうですわ。
胸がときめく。
「たった今決めましたわ! 私、この子を婚約者にすします! お父様! いいでしょう!」
「ダメだ! 少年が仮に<キサラギ>だとしてみろ! お前が傷つくだけだぞ!」
「あら。お父様。私が狙った獲物は逃さないとよくご存じなのではなくて?」
言葉でねじ伏せる。
「人工知能を使い検索で調べてみてほしいと?」
ご名答とサラは笑う。
名前:ゼイン・ラードベル
性別:男性
年齢:十六
学校:貴族院私立学院第一学年
家族構成:交通事故死亡
ふぅん、と眉間に皺がよる。
胸にざらりとした感触がある。
ざわついたが、レインが開発した人工知能が突破されるはずがない。それでも、不穏な影を感じるのは確かだ。
ワクワクが止まらない。
心が躍る。
――やっぱり。
――おもしろいわ。
――ゼイン・ラードベルさん。
――私とゲームを始めましょう。
――一緒にワルツを踊りましょう。
新緑の瞳がきらりと光った。




