郵便局前の再会
おまっとさんでした。さてさて、事件はふたたび動き出して……?
おかしな人たちではあるものの、至って善良なラジオKINKIの人々と顔を突き合わせているとどうもストレス耐性が落ちるらしい。スタジオでの作戦会議から数日経った正午過ぎ、仕送りを引き出そうと郵便局へ寄った私は、思いがけない相手との遭遇に激しい不快感が湧き上がるのを自覚した。
なんのことはない、しばらく顔を見ていなかった桜庭あかりとばったり、外で鉢合わせたのである。
「アキ、久しぶりね。元気してる?」
「ま、まあ……」
ほんの少し見ないだけでこうも変わるのか、とひどく驚かされた。線も薄い、化粧も薄いのがトレードマークだったはずの腐れ縁が、いつの間にやら地雷系もどきのようなファッション、メイクに仕上がっている。それでもどうにかあかりとわかったのは、それらが見事にしっくり行っていないためだったが……。
「――あかり、待ってな。すぐ終わるから」
話の腰を折るように飛び出た低い男の声に視線が移る。見ればあかりの背後には、ライダーズを着た、いかにもやんちゃそうな男子が立っている。そして案の定、郵便ポストの前の駐輪スペースには、愛車らしき排気量の大きなオートバイも控えている。
「うん、待ってる。ちょうど話し相手もいるし……」
「ああ、友達だったのか。どもっ」
行きがけにそっと私の肩を叩いていくと、男はそのまま、ATMコーナーへと入っていった。初対面の相手にずいぶんと無礼なことをするやつである。ちょっと文句を言おうとあかりの方を向き直ると、その表情がやけにとろけている。そのうちに、嫌な考えが頭の隅へよぎった。
「……もしかして、これ?」
だいぶ古風だが、小指を立てて確認すると案の定のろけが返ってきた。いつの間にやら、木曜日の一限目で知り合った男子と恋仲になっていたらしい。にしても、それでこんな地雷系に化けるとは、どういう神経をしているのだろうか。
ともあれ、適当にのろけをかわしていると問題の彼氏――蔵前隆二、というらしい――が財布を片手に戻ってきた。そして、慣れた調子であかりがバイクの後ろへ腰かけてヘルメットをかぶると、凄まじい音と煤煙をあげて、二人乗りのオートバイは高原通の坂道を一気に駆け上がっていった。
「――人がいるのに、何するんだっ!」
憎たらしい二人乗りが米粒のようになってから、ひと気のないのを幸いと怒りをぶちまける。どうしたわけか、ただただ虚しさだけが付きまとって仕方がなかった。
「あら偶然。今、時間あるかしら?」
「――ふへっ?」
居眠りだけはせず、けれども頭も回らないまま講義を済ませてうろうろしていると、喫煙所から出てきたリュウ先輩にばったり遭遇した。こちらの顔色が優れないのを気にしてか、先輩はここじゃなんだしと、玄関ホール前の応接区画、カフェテリアの客席を兼ねたテーブルだらけの一角へ私を引っ張っていった。
「災難だったわね、そんな目に遭って……」
「まあ別に、なんかされたってわけじゃないですけどね。軽~く扱われたような、そんなやるせなさがあるんです、ハイ」
カフェテリアで売っている、紙コップ入りの紅茶をごちそうになりながら事情を打ち明けると、リュウ先輩はどうしようもない女にはどうしようもない男が付いてるもんよ、と笑って返す。
「バカップルはともかくとして、ちょっと気になるね、その子。――正確には、その男の子のバイク、っていった方がいいかもしれないけど……」
細身のジーパンを履いた足を組み替えながら、リュウ先輩は紙コップへ口をつける。どういう意味か分からずにぼんやりしていると、
「あっ!」
今になって、あの日打ち合わせて各々の宿題になっていたことを思い出した。あかりに意識が向いて、すっかりバイクのことを忘れていた。せめてナンバーだけでも控えておけば……という後悔が込みあがる。
「ごめんごめん、そんなつもりじゃなかったの。まだチャンスはあるはずだし、気長に構えときましょうよ」
「はい、そうします……」
思いがけず一撃をかましたことを先輩は悔いていたが、言われて当然、という反省の念の方が勝っていた。だが、こちらの反省をよそに、それきり例のバイクとあかりの彼氏は煙のように掻き消えてしまった。もちろん、地雷系に変貌を遂げたあかりも、であったが……。
げに恐ろしきはしっくりこない大学デビュー?




