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第八話

第八話



「はぁ~、いいねぇ!」


湯の中で手足を伸ばし、大の字になるシア。

今のところ、女性客は一人だけなので、湯船を独り占め状態だ。


「セーフエリアにまでコイツがいるとは思わなかったが」


シアが、指先でスライムのユズをつつく。


「香りも良いし‥‥ここに来ないかって誘われた時は少し迷ったが‥‥案外、良いじゃないか」


シアは、長年の相棒だった冒険者が結婚を機に引退。それから数年は冒険者としてやっていたものの、自分もそろそろ潮時なのかもしれないと思っていた。財力も体力もあるが、そろそろのんびりとした生活も悪く無い。そう考えていた時に、リッツェルからダンジョンで酒場をやらないかと提案された。正直、料理をするのは好きだし、冒険者達の気質も自分に合っている。ほぼ二つ返事で了解した。


「なんだ、この椅子」


風呂から上がり、ホールに出ると、妙に大きな椅子が目に入った。


「シュウイチ、これは何だい?」

「ああ、それはマッサージチェアだ」

「まっさーじ?」

「ここに銅貨を入れると、十五分間、肩や背中を解す機械だな」

「へえ、面白そうじゃないか」


シアが古びたマッサージチェアに腰を下ろし、銅貨を入れる。


「あはっ、あはははは! なんだいこりゃ、中に精霊でも入ってんのかい⁉」


今にも笑い転げそうなシアだったが、少しすると落ち着き、気持ちよさそうに目を閉じた。


「ぷはぁっ! 酒もいいが、風呂上りはこっちの方が好きだな!」


ローガンはラムネが気に入ったらしく、三つ子の横でラムネ瓶を片手にしている。

それぞれ、銭湯の楽しみを見つけてくれたのは嬉しい限りだ。

宿屋兼酒場は、一週間程で完成するらしい。その間、ローガンたちにホールを貸そうかと言ったが、野営は慣れているからと言われた。そして、二人は待っている間暇だからと、別の階層に行ったり、空いている場所に野営用の煮炊きできる場所等、キャンプ場のような物を作っていた。ガルドも、二人を手伝ったり建設用の木材を採りにいったりと、充実した日々を送っているようだ。


「シュウイチ!」


慌てて駆け込んで来たのは、リッツェルだった。


「びっくりした‥‥どうしたんだ?」

「怪我人です!」

「なんだって⁉」


慌てて、受付カウンターから飛び出す。


「こっちです!」


リッツェルが外に向かって叫ぶと、ガルドが二人、リッツェルが一人を支えながらが中に入って来た。

ガルドが抱えて来たのは、男性二人。リッツェルの方は女性だった。三人とも、幸い致命傷ではなさそうだが、全身が血と泥にまみれていた。一人は意識が無く、一人は意識が朦朧としており、もう一人は肩を押さえ、歯を食いしばっていた。俺はガルドが傷だらけで倒れていたのを思い出し、咄嗟にシアに声をかけた。


「シア、この子を風呂に! 大風呂と水風呂の湯を混ぜてぬるま湯にしてからかけろ!」

「風呂ぉ? ああ‥‥そうか、分かったよ!」

「ガルドは俺と二人でやるぞ」

「ああ」


ガルドが二人を抱えたまま男風呂の方に入ると、俺達は二人で鎧や服を脱がしていく。


「な、何を‥‥!」

「うるせぇ、いいから黙ってろ!」


二人をパンツ一枚にして浴室に運び、ゆっくりとお湯を駆ける。血や土が流れ、小さな傷から段々と治っていく。

肩を押さえていた男が、意識がハッキリしてきたのか、驚いたように目を丸くする。


「お、大丈夫そうだな」

「ここは‥‥って、うわっ⁉」


ガルドが男を抱え上げ、風呂の中に放り込む。


「な、なんなんだよ! って、HPが回復してく‥‥」


意識の無い方の傷も殆どが消え、ガルドが抱え上げる。


「おい、お前の仲間だろ? 抱えてろ」


ガルドがそっと湯船の中に降ろす。

本当なら、意識の無い人間を湯にいれるなんて危険なんだが、緊急事態だからな。


「キャァァァ!」


女湯の方から、悲鳴が聞こえて来た。


「大人しくしな! あんまり暴れると、風呂の中に放り込むよ!」

「シア、そっちは大丈夫か?」

「問題無いよ」

「悪いな、俺達は女湯には入れないからな」

「任せときな」


女湯の方から、頼もしい声が聞こえて来て、ホッとする。どうやら女性の方も大丈夫そうだ。


「お、おい! リーシャに何してんだ!」

「治療だ」

「お前さん達と同じだ。安心しろ、あっちには女性がいるから」


風呂に入って少し回復したのか、意識を失っていた男が目を覚ました。


「んん‥‥サージ‥?」

「ラクル! 目を覚ましたか! 良かった!」

「お、おい‥‥」


裸で抱き合い、見つめ合う男二人。背景に、青いバラが咲いてるように見えるのは、俺だけか?

しかも、女湯から―――。


「お、お姉様‥‥」

「おい、くっつくな!」


なんて声が聞こえて来た。おいおいおい、見たい‥じゃなくて、大丈夫か?


暫くして、なんとか三人は歩けるくらいに回復。湯あたりする前にあがり、ホールのソファに座らせた。すると、肩を押さえていたサージと呼ばれた男がポツリと話し始めた。


「実は、俺達最近Cランクに上がったばかりで‥‥」

「Cランク⁉」

「まぁ、来れない事もないけど‥‥上がったばかりかぁ」


シアが驚き、ローガンが微妙な顔をした。

俺は分からず、思わずガルドに耳打ちをした。


「ガルド、Cランクって?」

「冒険者のランク。Fから始まって、E、Dって上がっていく。通常はAランクまでだけど、凄い功績とか残すとSランクって呼ばれるようになる」

「へぇ~‥‥じゃあ、結構強いんじゃないのか?」

「このダンジョン、結構難易度高いんだよ。Dから上がりたてなら、ちょっと難しいかもしれない」


偶に忘れそうになるが、ここはダンジョンの中だ。ユズのようなスライムがいるって事は、他の魔物もいると言う事。もしも銭湯がセーフエリア以外の場所に出ていたら‥‥食料問題以前に、魔物にやられてたな、俺。思わず冷たいものが背筋に走った。


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