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第九話

第九話



冒険者たち三名。サーシャ、サージ、ラクルと言うらしい。

彼等は、シアとローガンにこってり絞られた後、暫く滞在する事になった。

深い傷は何度か風呂に入らないと直らないのと、シアとローガンが三人を鍛えるとの事だった。


「乾杯!」


とうとう、宿屋兼酒場が完成した。開店祝いと言う事で、全員が招待された。


「さぁ、じゃんじゃん食べな!」

「「「うまい!」」」

「うわっ、美味っ!」


シアの料理はかなり豪快な冒険者飯と言うか、男飯に近いが、めちゃくちゃ美味しい。異世界の飯は微妙って定説あるけど、そんな事ないな。米は食いたくなるけど。


「こんなに美味い飯が食えるなら、俺が飯作る必要ねぇな」

「そ、そんな事ないよ! シアさんの料理も美味しいけど、シュウイチの作ってくれるご飯、俺は好きだよ」

「なんだよ、嬉しい事言いやがって」


ガルドとは、すっかり本当の兄弟のような感じになった。今では慣れたものだが、ガルドは見慣れない異世界の電化製品にあたふたしていた事もあった。電子レンジの音にびくついたり、洗濯機を泡だらけにしたりと、定番な事は一通りやったな。

俺に兄弟はいなかったから、最初は戸惑いもした。だが、ガルドは良い奴だし、こんな弟がいたらいいなとは思う。

異世界に来る前は、店を閉めようかとも思っていた。だが、今は常連たちも増えたし、こっちに来たのも良かったのかもしれないと思いはじめている。

なんだかんだ、気の合う連中が集まってるってのもあるんだろうなぁ。

その日はしこたま飲んで、食って寝た。


「うぅっ‥‥やべぇ‥‥」


最近酒なんて飲んでなかったから、忘れてた。頭痛い、胃もたれキツイ‥‥。

よろよろとキッチンに向かうと、ガルドが朝ご飯を作ってくれていた。


「おはよう、シュウイチ」

「ぉぅ‥‥」

「大丈夫? 昨日、結構飲んでたよね」

「だいじょうぶ‥‥たぶん」


棚の引き出しを開け、胃薬を探し当てる。


「ガルド、水くれ‥‥」

「う、うん」

「お前は平気なのか?」


たしか、コイツも結構飲んでたよなぁ。


「うん、平気」

「‥‥マジか‥‥やっぱ年か‥」


胃薬を飲んで、少し落ち着いた。他の連中は大丈夫なのか? 窓から外を覗いてみると、シアとローガンが既に他の冒険者たちと訓練っぽい事をしていた。ドゥガンたちも平気そうに歩いている。


「あいつら、バケモンか」

「シュウイチ、下の掃除は俺とユズでやっておくから、少し休んでなよ」

「いいのか?」

「うん」

「キュ~!」

「助かる‥悪いな」


やれやれ、情けない。

ガルドが下に降りて行ったのを見送り、水を一口飲んだ瞬間、ドタドタと階段を登ってくる足音が聞こえて来た。


「シュウイチ!」

「びっくりした‥‥今度はなんだよ」

「い、いいから、来て!」

「お、おう‥‥」


ガルドに背中を押されながら向かったのは、男湯。


「なんだよ、まさか風呂が壊れたとか言わないよな?」

「見てよ!」


ガルドが指さした先に目を向ける。そこには、昔ながらの富士山の絵が描かれた壁が‥‥無い⁉


「え‥‥はぁ⁉」


眠気、吐き気、頭痛が吹っ飛んだ。


「いやいやいや、意味分からん!」


タイル張りの湯船はある。だが、その奥の壁が無い! ふと横を見ると、女湯と男湯を隔てる壁に、富士山の絵が移っている。


「俺、昨日酔い過ぎたのか‥‥? 夢か?」

「シュウイチ、しっかりして!」

「ん? あれは‥‥?」


よく見ると、右端に黒い扉サイズの枠が見える。恐る恐る近づいてみると―――壁の無くなった向こう側に、露天風呂が出来ていた。


「ガルド、ちょっと俺を殴ってくれ。これは夢だ」

「そんな事したら、シュウイチの骨が砕けちゃうよ?」

「折れる通り越すな。夢じゃなかったら、なんだってんだよ‥‥」


まるで、日本の高級旅館の露天風呂だ。湯気の向こうに、岩で囲まれた大きな湯船が見える。上を見上げれば、空が広がっていた。しかも、ご丁寧に竹で囲われた目隠しで囲まれている。


「もしかして、ドゥガンたちが作ったのか? いや、こんなもん一晩でできるわけないし‥‥」


こんな大工事、やってたら流石に気付く。


「すみませぇん!」


人が考え事をしてる時に限って、誰か来やがる!


「何だ? まだ開店前だっつうのに」


玄関に向かうと、受付嬢みたいな制服を着た、小柄で眼鏡の女性が立っていた。


「私、今日からこのセーフエリアに出来る新しいギルド支部を担当する事になりました、レステルと申します!」


名刺を差し出され、思わず受け取ってしまった。


「ギルド? って、何だ?」

「冒険者への仕事の依頼や仲介、斡旋、魔物素材の解体から買い取り等々、冒険者の事なら何でもお任せください!」

「は、はぁ‥‥俺は冒険者じゃないんで‥」

「はい! こちらは大衆浴場だと伺っております! 冒険者の身も心も癒す施設! ギルドとしても、長年このダンジョンでの生存率を危惧していましたが、いかんせん、何の手立てもとれず‥‥そんなときに! ダンジョン内に風呂屋や宿屋ができると噂をお聞きしまして! それならば! 新しい支部を建て、冒険者の補助が出来るようにと、私が派遣されました!」


なんとも鼻息荒く、レステルが早口でまくし立てる。


「つきましては、ギルド支部と併設して診療所もございますので、いつでもいらしてください! もちろん、冒険者以外の方も!」

「わ、分かった、ありがとな」

「では、失礼します!」


レステルは深々と頭を下げると、礼儀正しく玄関から出て行った。


「まあ、病院っつうか、診療所ができるのは有難いよな」

「うん、皆安心できるんじゃないかな」

「怪我人が来る度に、お湯ぶっかけるのも気が引けるからなぁ」

「ははっ、確かにね。お湯じゃ骨折とか欠損は治せないから」


HPがどうのとかは、正直俺には分からんが、疲れが取れる上に小さな傷はあっという間に治るなんて、十分奇跡だと思うけどな。こころなしか、俺の肌ツヤも良くなった気がするし。

そのうち、ここが町になったりして‥‥って、未来よりも今の現状だ! どうすんだよ、あの露天風呂‥‥。


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