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第五話

第五話



ドカドカと足音が聞こえて来る。


「シュウイチ!」


慌てて玄関に向かうと、そこにいたのはドゥガンだった。


「ドゥガン! また来たのか」

「おうよ! 今日はな、採掘に来たんじゃねぇんだ。ん? そいつは‥‥」


俺の後を追って来たガルドを見て、ドゥガンが目を細めた。


「ガルドを知ってるのか?」

「知ってるさ。勇者御一行様の盾だろ」


その言い方に、若干のトゲを感じた。


「あいつ等、ダンジョンから帰って来たと思ったら、街中で暴れて叩き出されておったわい」

「暴れた? ってか、ここを通った感じはしなかったが‥‥」

「ここのダンジョンの最下層には、ポータルがある。それを使えば地上に戻れるんじゃ」

「へぇ、便利だな」

「あいつ等は、ダンジョンを攻略したと酒場で大嘘を吐いて、他の冒険者と喧嘩になってなぁ」

「なんで嘘だって分かるんだ?」

「地上に戻るポータルは、最下層の最奥――の、扉の前にあるんじゃ」


最下層の、最奥って言えば、だいたいはラスボスの部屋だよな? そんなところまで行って、スタート地点に戻るか?


「あんな所まで行って帰って来るってのは、直前でビビったって事じゃ」

「あぁ~‥‥」

「本当にダンジョンを攻略しておったら、別の転移ポータルから出て来たはずじゃからな。誰も見ておらんと思ったんだろうが、偶々見とった奴がいたらしくてな」

「うわっ、ダセェ」


ラスボス手前でビビって逃げて、それを隠して攻略したと嘘をついたら、それがバレて喧嘩か。


「しかも、そこの盾を置いて来たのもバレてな。冒険者は仲間を大切にする。命を預け合う仲間だからな。そんな仲間を見捨てる奴はクズだ」

「まぁ、そうだな」

「盾の、この風呂屋があって命拾いしたな」


ドゥガンがガルドを見て頷くと、ガルドが頷き返した。


「お話し中、申し訳ありません」


少ししっとりとした空気が流れていた所に、そう言って入って来たのは、狐の耳と尻尾のある美丈夫だった。ダンジョンのイメージとはかけ離れた、綺麗な三つ揃えのスーツを着て、長い髪を一つで束ねている。


「おお! すまん、すまん! コイツは、商人のレッツェルだ。レッツェル、彼が風呂屋の主、シュウイチだ」


手を差し出され、握手を交わす。


「酒場で、ドゥガンさんからセーフエリアに風呂屋があるとお聞きしましてねぇ。一度この目で見たいと思い、無理を言ってついてきてしまいました」


なんと言うか‥‥こちらを値踏みするような目に、若干居心地が悪い。


「いやぁ、実に素晴らしい! 趣のある建物! ダンジョン探索で、身も心も疲弊した冒険者を癒す、風呂! いい、実にいい‥‥」


レッツェルが自身を抱きしめ、悦に入って悶え始めた。随分と変‥いや、個性的な奴が来たな。


「おっと、申し訳ありません。お金の匂いがすると、つい‥‥」


頬を染め、ため息を吐くレッツェル。大丈夫なのか? という意味を込めてドゥガンを見る。


「まぁ、こんなでも一応、やり手の商人‥‥らしいぞ」

「目を逸らすな」

「そ、そうだ、他の連中も紹介するぞ!」


ドゥガンが誤魔化すように、外に向かって手招きをした。すると、入って来たのは二人のドワーフと、俺より年上に見える中年の男だった。


「こっちが、バルンで、こっちがドルンじゃ」

「俺には、ドゥガンが三人いるように見えるんだが?」

「三つ子だからな!」

「三つ子ですから」

「三つ子だからね」


見事に声も一緒。でも、喋り方が少しずつ違うのか。三つ子って初めて見た。


「彼は、私が紹介を」

「ローガンだ」


男性が手を差し伸べ、握手する。その手は大きくて硬い。よく見ると、腕や顔に傷があり、服装や佇まいが「ベテラン冒険者」だ。


「彼は元冒険者でね。今は引退しているが、私の護衛として来てもらったんだよ」


これで引退? 体つきとか、まだ現役だろ。ヤバい、俺なんて、最近下腹が‥‥。


「あんたなら、ギルドに護衛依頼出すか、個人で傭兵を雇えるだろうに」

「商人とは、慎重でね。君以上にこのダンジョンを知っている者などいないだろう?」

「まったく‥‥人使いの荒い雇い主だ」


自己紹介が終わった所で、声を上げたのはやはりドゥガンだった。


「よし! とりあえず、風呂だ!」

「湯は入ってるからな」

「では、私も」

「俺も入るか」


五人にそれぞれ石鹸を渡し、説明をする。すると、唯一の経験者であるドゥガンを先頭に、男湯へと入って行った。


「やれやれ、急に賑やかになったな」

「ああ」


最初に出て来たのは、レッツェルだった。


「シュウイチさん! 素晴らしいです!」

「うぉっ‥‥!」


受付カウンターに身を乗り出し、詰め寄ってくるレッツェル。


「少量ではあるものの、HP回復! 小さな傷はあっという間に消え、あの香の好い石鹸! これは、もう‥‥」


段々と息が上がり、恍惚とした顔になっていくレッツェルだが、ガルドに首根っこを掴まれてカウンターから降ろされた。


「申し訳ありません、つい‥‥ですが! これは、いけますよ! ここを拠点として冒険者を誘致し宿屋の経営及びポーション等の販売ああ訓練施設などもいいですねそれから―――」


どこで息継ぎしてるのかってくらいの早口で、レッツェルが喋っている。

そんな中、全く空気を読まずにドゥガンたちがやってきて、受付にあるガラス張りの冷蔵庫を見上げる。


「フルーツ牛乳」

「コーヒー牛乳」

「いちご牛乳」

「お、おう」


カウンターに置かれた銅貨を受け取り、瓶に入ったそれぞれの牛乳を出して渡す。

すると、全く同じタイミング、同じ動作で蓋を開け、腰に手を当てて三人が飲み始めた。

思わず吹き出しそうになった瞬間、再びレッツェルが詰め寄る。


「聞いてきますか、シュウイチさん!」

「き、聞いてる、聞いてる‥‥ブフッ‥‥」

「本当に素晴らしい! ああ、どうして私はもっと早く、このセーフエリアの有用性に気付かなかったのか‥‥」


スポットライトでも浴びてそうな、悲壮感に打ちひしがれるレッツェル―――の横で、牛乳を飲む三つ子。


「いやぁ、ここの風呂いいなぁ!」


最後に現れたのが、ローガン。風呂上り、大人の色気漂う中年男性。


「膝の古傷が少し楽になったって‥‥どうした?」


ローガンが、受付の前で繰り広げられている光景に目を見開いた。

なんだこのカオス‥‥。


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