表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/34

第四話

第四話



ドゥガンが去ってから二日目の朝だった。


「どうすっかねぇ‥‥」


お客が来ないかもと思いながらも掃除を終え、今日も湯を張る。

このままだとマジでヤバい。とは言え、どうしたもんかと暖簾を手に持って外に出ると、こちらに向かって歩いて来る人を見つけた。だがそれは、勇者ご一行やドゥガンが来た方とは逆だった。反対側にも入り口があるのかと思っていると、その人影がふらりと横に傾き、地面に倒れた。


「おいおいおい!」


持っていた暖簾を落とし、急いで駆け寄ると―――それは、勇者ご一行のタンクの男だった。


「おい、大丈夫か⁉」

「ぅ‥‥」


傷と土で汚れ、出血も酷い。


「救急車!‥‥なんざ、来るわけねぇよな」


スマホを取り出そうとして、思いとどまる。


「おい、しっかりしろ!」


彼の頬を軽く叩くと、男がゆっくりと目を開けた。


「こ‥こは‥‥」

「あんたらで言う、セーフエリアってやつだ!」

「そうか‥‥ぅっ‥‥」

「とりあえず、中に入るぞ。救急箱くらいならある」


何とか立ち上がった彼の腕を肩に回して支え、湯屋の中へと入った。

ソファーに置いてあった座布団をかき集めて床に敷き、彼を座らせた。


「鎧、外せたら外しとけよ!」


男湯の方に駆け込み、黄色いプラスチックの桶を引っ掴んで、水風呂から水を汲み、適当にタオルを抱えて玄関に持って行く。それから、受付の机の下にある救急箱を引っ張り出して戻ると、男が何とか鎧を全て外していた。


「一番深い傷分かるか?」

「腹ん所‥‥」


彼の左脇には、鋭利な物で切った様な深い傷があった。服が赤黒く変色している。


「酷いな」


フェイスタオルを当て、バスタオルで胴を巻いてきつく縛ると、男が低く唸った。


「少し我慢しろ」


他に大きな傷は見当たらなかったため、タオルを濡らして小さな傷の周りを拭う。


「なんだ‥‥?」


血も出ていないような切り傷だったが、濡れたタオルで拭うと、傷が消えていった。


「マジかよ‥‥」


そう言えば、勇者ご一行の女の子が、肌がどうとか言っていたな。

他の傷でも試してみると、小さな傷なら消えるようだ。うちの風呂、どうなっちまったんだよ。

戸惑いつつ、一番深い傷の脇腹、出血が止まらないのか、タオルが血で染まっていく。


「試してみるか」


押さえてあったタオルを取り、プラスチック桶に入れた水を手で掬い、傷口にかけてみた。


「くっ‥‥」


男が再び呻く。傷口が消えるなんて程の効能は無いようだが、出血は止まった。


「怖っ‥‥まぁ、でもこれで一安心か‥‥そういや、お前さんの仲間はどうした?」


盾役であろうこの男がこの状態だ。最悪、全滅している可能性もある。自分が何かできるわけでもないが‥‥。


「あいつらは‥‥先に行った」

「は? 先? 重症のお前さんを置いて?」


それは、「俺を置いて先に行け!」的な流れなのか? だが、あの白いローブの子は回復系っぽかった。


「俺は不器用だし、盾になるくらいしかできないから‥‥」

「‥‥置いていかれたのか?」


俺がそう聞くと、男は小さく頷いた。あんのクソ勇者共‥‥。思わず拳を握りしめる。

あんな奴等、出禁だ、出禁!


「悪い、変な事聞いちまったな。そういや、名前聞いてなかったな。俺は修一だ」

「‥‥ガルド」


ガルドがゆっくりと起き上がる。


「動いて大丈夫なのか?」

「血が止まれば、大丈夫」

「まぁ、ゆっくり休んでいけばいい。どうせ、客も来ねぇしな」

「ありがとう‥‥助かった」


大丈夫だと言うガルドをソファに誘導して寝かせると、暫くして小さな寝息が聞こえて来た。傷は良くなっても、体力はそんな直ぐには治らないからな。そう言えば、HPがどうのとかも言っていたが‥‥今は風呂よりも寝た方が良いだろうと、二階から持って来た毛布をガルドにかけた。


ガルドが目を覚ましたのは、夕方頃だった。

着替えを貸そうと言うと、持っているから大丈夫だと言われた。しかも、ウエストに着けられた小さなポーチが、かの有名なアイテムポーチだった。生き物以外なら何でも入るらしい。異世界ってのは、本当に凄いな。

普段着に着替えたガルドは、幾分か若く見えた。年齢を聞くと、二十六歳! 若いなぁとしみじみ思うあたり、俺も年くったなと感慨深い。

野営のテントやら、他の荷物もポーチに入っているから大丈夫と言うガルドに、ケガ人を外で寝かせられるかと言うと「ダンジョンだから外じゃない」とか屁理屈こねやがった。意外と頑固らしい。


「飯も作ってやるから、とにかく中で寝ろ!」


そう言うと、飯につられたのか、ガルドが頷いた。どうやら、ポーチの中には食材は入っていなかったようだ。

男二人ならこれだろうと、カレーを作ってやる。ガツガツと良い食べっぷりに、思わず笑った。誰かと晩飯をこの家で食べるなんて、随分久しぶりだ。


「これ‥‥」


ガルドが金を渡して来たので突っ返すと、返すなら外で寝ると言うので、渋々受け取った。

ガルドの傷は思ったよりも深く、風呂に入って少しずつ治していく事になった。そうなると、ずっとソファーに寝かせているのも微妙だ。彼は身体がデカく、ソファからはみ出て寝ている。それでは身体も休まらないだろうと、祖父さんが使っていた部屋を片付けた。


「今日からここ使え」


ガルドがいるのは、正直悪く無い。余計な事は言わないし、飯は美味そうに食べる。風呂掃除も無理のない範囲で手伝ってくれるので、かなり助かっていた。

そうして一週間くらいが経った頃だった。ガルドの傷もかなり良くなり、傷跡が残る程度になった。


「シュウイチ、話が‥‥」


デッキブラシでタイル床を擦っている時だった。ガルドがそう言いかけた瞬間、玄関の戸が荒々しく開かれる音が聞こえて来た。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ