第三十二話
第三十二話
「おい、そっちの柵はもっと後ろだ!」
「こっちにも魔法陣の準備をしな!」
慌ただしく、スタンピートに向けて準備していく。
ローガンとリゼルの作戦はこうだった。下層への入り口を結界で囲い、魔物をそこで迎え撃つ。入り口は狭く、小型の魔物なら二匹、中型なら一匹通れるくらいの広さしかない。
そして―――。
「こっちも頼む!」
「飛行系の魔物用に、上も固めるぞ!」
俺の、想像以上の冒険者の数が集まった。
双狼の宿に入りきらず、あちこちに野営用のテントが建てられている。
しかも、集まったのは冒険者たちだけではなかった。
サシリア率いる騎士団、ローガンの友人だと思っていたアルヴィンが、実は国お抱えの魔法使いだったとか‥‥冒険者引退組も続々と集まり、ちょっとした同窓会的な雰囲気もある。
少し離れた場所には、テイマーたちも集まっていた。こっちはこっちで、大小様々なテイムされた魔物が集まっており、ふれあい動物園のようなほのぼのとした空気に包まれている。
俺が意外だったのは、レッツェルだった。
開けた場所に大きなテントを張り、部下たちと一緒に炊き出しの準備をしている。
作戦中の食事やポーション等は、無料で配るらしい。
「私の‥‥セーフエリア独占販路計画を邪魔するとは‥‥魔物など、殲滅してくれる!」
全くの善意じゃない所は、商魂たくましくはある。
ドゥガン達は、武器を大量生産中。
そんな中、俺達はと言うと‥‥。
「龍之介、そっちのタオル頼む!」
「分かったわ!」
龍之介の手を借り、銭湯を無料開放している。
魔力が少なくなった魔法使いが、ひっきりなしに風呂に入りに来ていた。
ガルドは今回、元冒険者枠で迎撃に参加する事になっている。
正直、かなり心配だ。
「大丈夫だよ、かなりの数の冒険者たちが来ている。しかも、上位ランクの人達ばかりだから」
「絶対に無理はするなよ」
「少しでも怪我したら、即行でお風呂入りに帰ってくるのよ?
「うん、分かった」
大量のポーションや、回復魔法を使える者達もいる。それでも、弟のようなガルドを前線に送り出すのは、胸の奥が軋んだ。
タンクの冒険者たちは、防壁から魔物が溢れた場合、魔法使いたちが防壁を作り直す間の壁役になるらしい。一定の距離にタンクが配置され、突破されたら身を呈して食い止める。
「くそっ‥‥」
弟分が身を呈して戦うって言うのに、俺は湯を沸かす事しかできない。
その歯痒さに奥歯を噛みしめた瞬間だった。
湯屋全体が光りだし、思わず目を閉じる。
目を開け、辺りを見渡してみるが、何も変化がない。
「何だったんだ?」
困惑していると、風呂の方から声があがり始めた。
「おい! 防御力のバフが付いたぞ!」
「俺もだ!」
「は?」
バフ? なんじゃそりゃ。研磨機なんか内にねぇぞ?
女風呂の方からも同じような歓声があがる。
「どうなってんだ?」
「修一!」
「龍之介、どうなってんだ? バフってなんだよ」
「バフってのは、一時的に能力を上げる効果ね。ゲームで見た事あるでしょ!」
「あ~‥‥」
遥か昔の記憶をたどる。確か、攻撃力とかのステータスが、一時的に上がるんだったよな。
「あの光の後、お湯にその効果‥‥防御力が上がるバフが付いたって事」
「マジかよ」
ご都合主義でも何でもいい。
突然連れて来られた場所でも、今はここが俺の居場所だ。
それを守れる確率が上がるなら、飲み込んでやろうじゃないか。
俺は急いで湯屋を飛び出し、ローガンとリゼルに伝えに走った。
そして、その日の夜―――ドオン! と大きな物がぶつかる音がセーフエリアに響き渡り、そこにいる全ての者達が目を覚ました。
全員が防御壁に集まると、壁の上にローガンとリゼルが立っていた。
集まる間にも、下層への入り口に魔物が体当たりをする音が何度も響く。
「いいかい、皆。このセーフエリアは、これから多くの冒険者にとっての命綱であり、故郷になる」
リゼルの静かな声が響く。
「ここが命の張り所だよ‥‥気合入れな!」
魔物の体当たりに負けない程の、大きな雄叫びが一つになってこだまする。
ピシリとガラスにヒビが入るような音がした次の瞬間、せきを切った土石流の様に、魔物がなだれ込んで来た。
「放て!」
冒険者質と魔物の怒号が響き、攻撃が始まった。
「行くぞ。俺達は俺達の出来る事をやる」
「ええ!」
俺と龍之介は湯屋へと走り、冒険者たちを迎え入れる準備を進めた。




