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第二十三話

第二十三話



怪しげな二人が風呂に入って三十分後、どんよりとした空気を背負い、二人が出て来た。


「やはり、駄目だった‥‥」

「えっと‥‥大丈夫ですか?」


キノコが生えそうな程のどんよりとした空気に、思わず声をかけてしまった。


「ああ‥‥いや、大丈夫ではないな」


中年男性の方が、力なくソファに座り込む。燕尾服の初老男性の方はその横に立ち、モノクルを掛け直した。


「ここに呪いを解く湯があると、冒険者から聞いてきたんだ」

「呪いって、教会で解いてもらえるんじゃ?」

「ヴァリス様が、教会など行くわけがなかろう」


ふんっと鼻を鳴らす燕尾服。いや、知らんがな! と言ってやりたいが、飲み込んだ。


「止めよ、ハインツ」

「申し訳ありません」

「お主はここの店主か。人間のようだが‥‥」

「まぁ、人間ですね」

「俺の名はヴァリス。こいつはハインツだ」

「修一です」


気まずい沈黙が流れ、思わず首を傾げる。え、何? 俺何か変な事言ったか?


「貴様‥‥このお方をどなたと心得る!」

「いや、知らないし」

「なん‥だと‥‥ヴァリス様を知らない?」


ハインツが小刻みに震え、あり得ないものを見たと驚愕に青ざめる。


「まぁ、俺、元々この世界の人間じゃないんで」


口に出してみると、なんだか中二病みたいでこっぱずかしいな! 


「ほう‥‥異世界の者か。見るのは久しいな」

「会った事あるんですか⁉」

「数百年前に一度な。我を倒しに来た勇者だった」

「へぇ、勇者‥‥勇者?」

「かなり手強かったのは覚えている。相打ち覚悟で挑んで来た故、面倒で元の世界に飛ばしたがな」


サラッと言ったけど、情報量が多すぎる! 勇者? 相打ち? 面倒で元の世界に飛ばす?


「待ってくれ、そんな事できるのか?」

「あの時は、奴も最大魔法を使っていたからな。大きな魔法同士がぶつかると、偶に時空のひずみができる。奴は、しつこくネチネチと‥‥我を倒して元の世界に戻ると叫んでいたからな。そんなに帰りたいなら、帰してやると」


ヴァリスが、まるでゴミでも捨てるような仕草をする。いやいや、そんな簡単でいいのか?


「じゃあ、もしかして呪いってのはその時の?」

「いや、これは‥‥以前付き合っていた魔女に浮気がバレてな‥‥」

「‥‥はい?」

「腹いせに呪いをかけられた」

「因みに、どんな‥‥」


恐る恐る聞いてみると、ヴァリスの視線が彼の下の方へと向かう。ああ‥‥うん、それだけで分かったよ。浮気の腹いせに、男として終わる呪いをかけられたわけだ。


「えっと‥‥そ、そうだ! 何度か入らないと駄目って‥‥ギルドの人が言ってたから!」


思わずフォローのようになってしまった。浮気は駄目だが、同じ男として放っておけないだろ?


「そうなのか?」


ヴァリスの顔に、僅かに希望が宿る。


「軽い呪いでも、二、三回入らないといけないって言ってたからさ。何度か試してみると良いんじゃないか?」

「そうか‥‥そうだな。では、暫く滞在する事にしよう」

「宿屋なら、向かい側に」

「いや、必要ない。呪いの事もあるが、我はここが気に入った」

「ヴァリス様?」

「ちょうど、別荘を探していた所だ。偶には城から離れ、ゆっくりしたいからな」

「―――かしこまりました」


ハインツは渋々頷くと、恭しく頭を下げ、湯屋を出ていった。


「そういや、ヴァリスって何やってるんだ? ここまで来れるって事は、冒険者か?」

「ん? ああ、魔王だ」

「‥‥まおう‥‥魔王?」


一瞬、頭の中がフリーズした。魔王が銭湯に? この世界じゃ、魔王ってこんなに気軽に出歩くもんなのか?


「いや、待て待て待て! 魔王って、あの魔王?」

「安心しろ、世界を滅ぼしたりしない。面倒だからな。それに‥‥今はそれどころではないしな」

「ぶはぁっ!」


ヴァリスの言葉に、思わず噴いた。


「世界を滅ぼさない理由が、アレって!」

「笑うな」

「悪い、悪い。まぁ、同じ男として、分からんでもない」


とは言っても、俺にはそんな相手もいないが。最後に付き合った彼女を家に連れて来たら、「実家が銭湯?マジ無理」と言って帰って行った。それまで清楚なおっとりした子だと思っていたが、思わず出た彼女の本性に呆然とした。女って怖ぇ。

世界征服しない理由がアレか‥‥なら、治らない方が良いのでは‥‥?


「はぁ‥‥」


深くため息を吐いたヴァリスを見て、何とも言えない気持ちになる。とは言え、幸か不幸か、湯に即効性の効果はない。ヴァリスが完全に完治するまでに、世界征服する気が無くなればいいんだけどな。

そんな事を考えていると、ハインツが帰って来た。ヴァリスが俺もついて来いと言うので、一緒に向かう事に。


「こんな場所があったとはな‥‥」


暫く歩き、着いた先には、大きな湖があった。木々が生い茂り、林の中にそびえ立つ、三階建ての城。


「こんな城、あったのか」

「城ではない。別荘だ。それに、執事たるもの、これくらい当然だ」

「は? これ、ハインツが建てたのか⁉ いや、どう考えても無理だろ! 一時間くらいしか経ってないぞ!」

「執事だからな」

「ドヤァ、じゃねえよ!」


ドヤ顔で胸を張るハインツ。いくらなんでも、おかしいだろ。


「空間魔法も使えぬ矮小な人間如きが‥‥」

「止めよ、ハインツ」

「出過ぎた真似を‥‥」


ハインツが頭を下げ、下がる。腹立つ!


「ここはダンジョンのセーフエリアだ。余計な揉め事を起こすな」

「はっ‥‥」

「シュウイチ、我は暫くここに滞在する。だが、争う気はないと他の者達にも伝えておいてくれ」

「‥‥分かった」


俺が湯屋の方へと戻ると、皆が集まってザワザワとしていた。近くにいたシアに声をかける。


「シア、冒険者たちまで集まってどうしたんだ?」

「シュウイチ! アンタ、生きてたのかい!」

「へ?」

「シュウイチ! 良かった、無事だったか!」


一気に視線が集まり、どうしたもんかと頭を掻いた。


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