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第二十二話

第二十二話



新しくできた、三つの一人用の風呂を、ギルドのレステルに見てもらった。


「これは‥‥状態異常の回復ですね」

「状態異常?」

「左から、毒、麻痺、呪いに効果があるようです」

「ちょっと待て。最後、なんだって?」

「呪いです。闇属性の魔物が偶に使うんですよね」

「異世界怖っ‥‥」

「とは言え、即効性の効果ではないみたいですね。軽い毒だと、二回か三回ほど入れば抜けるでしょう」

「それって、リゼルさんに治してもらった方が早いんじゃないか?」


千切れた腕が生えるんだから、毒や麻痺もいけるだろ。それに、メルルの薬もある。


「そうですね。ですが、状態異常の治癒には、本人の体力も必要になります。容体によっては、こちらのお風呂でHPを回復しながら徐々に治した方が良いかもしれませんね」

「そう言うもんなのか」

「本来、呪いなんて教会に行かないと解呪できないんですよ? 多額のお布施も要求されるし、身分の高い方なら外聞も悪い。それが、お風呂に入るだけで治るのは凄い事なんです!」

「お、おう‥‥」


レステルの熱に押され、思わず後退る。


「コホン‥‥とにかく、こちらのお風呂は何か張り紙でもしておいた方が分かりやすいと思います。それでは」


レステルは必要な事だけ言うと、去って行った。

ガルドに頼み、木札にこっちの世界の文字で効能を記したものを括り付けておいた。

デカい、陶器製の縦に長い長方形の、箱のような風呂。肩まで浸かれるようになっていて、中にある段差に座って入るみたいだ。風呂の横には二段の梯子があり、それを使って出入りする。

さっそく聞きつけたドゥガン三兄弟が、まったく同じ顔でそれぞれ同じように箱に入っている姿は、かなりシュールだった。


晩御飯の時に、ガルドに呪いについて聞いてみた。


曰く、色々な効果があるらしい。


髪が段々と抜け落ちるとか、徐々に内臓が弱っていくとか‥‥中には、「男として終わる」なんてものもあるらしい。


「えげつないな‥‥」


要するに、最終的に命に係わるものから、ジワジワと苦しめる嫌がらせのようなものまで幅広い。

しかも厄介なのは、呪い効果のあるアイテムもあるらしい。魔物経由ではなく人から呪われる場合もある。

そういうのは、大体が貴族だの、権力を持った連中だとか。

呪いの内容によっては、教会に行くのは恥ずかしいと思う人もいるだろう。


とは言え、状態異常がなくても普通に風呂として入れるので、一人でゆっくり入りたい人には良さそうだ。


「湯屋がダンジョンにあって良かったよ」

「突然、異世界からこんなもんが現れたら大騒ぎだもんな」

「それもあるけど‥‥そんな効能があるなんて知られたら、貴族に没収されるかもしれないから」

「うわっ、そっちの心配もあるのかよ。異世界、怖ぇな‥‥」


権力争いや政治に巻き込まれるのは勘弁してほしい。





新しい風呂が現れてから一週間程が経った頃だった。

ローブで体を覆い、フードを深く被った二人の男たちがセーフエリアに現れた。

その一歩を踏み出した瞬間、それに気づいたのはリゼル、ローガン、シアだった。

三人はほぼ同時に外へと飛び出すと、同じ方向を見て全神経を集中させる。


額から嫌な汗が滴り、武器に掛けた手が僅かに震える。


次にドゥガン三兄弟が気付き、外へと躍り出る。

偶々その場に居合わせた、不運な冒険者達。ある者は震えあがり、またある者は気を失ってその場に倒れた。


男たちはゆっくりとだが、その足取りはある一点だけを目指していた。

武器らしい武器も持たず、荷物もない。

リゼル達がその姿をとらえるが、身動き一つ取れない。


まるで、誰もが呼吸を止めているかのような静寂が広がる中、低い声が響き渡る。


「争いに来たのではない。そちらから何もしなければ‥‥な」


男たちは湯屋の前まで来ると、その歩みを止めた。

少し背の低い方が戸を開けると、男たちはゆっくりと湯屋の中へと入って行った。

その瞬間、緊張の糸が切れたように全員が地面にへたり込んだ。


「いらっしゃい」


扉が開く音が聞こえ、修一が受付から顔をだした。


「‥‥ここに、呪いを解く風呂があると聞いた」

「あ~‥‥まぁ、ありますけど、まだ誰も試した事がないんで、本当に効くかどうかわかりませんよ?」


俺がそう言うと、背の低い方が前に出る。


「貴様、誰に向かって」

「止めよ」

「‥‥はっ」


面倒そうな客が来たなぁと思いつつ、だからと言って今は追い出す理由もないしな。


「そこで靴脱いでください。丁度、今誰も入ってないんで、案内しますよ」

「分かった」


また背の低い方が何か言いかけたが、もう片方が手を上げると下がった。

声の感じだと、二人とも男だよな‥‥。

大きい方の男が料金表を見ると、銅貨六枚をカウンターの上に置いた。二人分の入浴料で、タオルの貸出は不要らしい。


「どうも」


二人を男湯の方へと案内する。


「ここで服を全部脱いで、そこのシャワーで身体を洗ってから入ってください。呪いを解く風呂は、外にあるんでご自由にどうぞ」

「‥‥分かった」


男たちがフードを取り、ローブを脱ぐ。

背の低い方は、初老で白髪、燕尾服を着ており、左目に片目用のモノクルがはめられている。

そして背の高い方は、ローガンと同じくらいか少し上の中年男性。整った顔立ちの色男と言った感じだ。


「‥‥ごゆっくり」


ジロジロと見物する気もないので、俺は早々に受付へと戻った。


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