第十八話
第十八話
「確か、この辺りに‥‥」
アルヴィンとローガンは湯屋を出た後、ある草むらの中を歩いていた。双狼の宿から少し離れた場所。メルルの魔法の暴走により生えた、大きな桜の木の下に二人の探し物があった。
「遺跡の残りか?」
「ああ‥‥あの時は俺の力が足りなくて、起動させられなかった」
アルヴィンがしゃがみ込み、地面に置かれた石に触れる。
「お前も知っている通り、このダンジョンから出るには三つ方法がある。一つ、自力で引き返す。二つ、主の扉の前にある転移ポータルを使う。三つ、主を倒して最奥にある勝者の門と呼ばれるポータルを使う」
「ああ」
「そしてこれが、四つ目だ」
アルヴィンが魔力を注ぎ、遺跡が起動し始める。地面に置かれた平たい円形の石が光りだし、魔法陣が浮かび上がった。
「どこに繋がる?」
「ダンジョンの入り口に、腰くらいまでの高さの円柱があるだろう?」
「ただの柱の残りだって言われてるやつか?」
「そうだ。これを付けろ」
アルヴィンが腕輪を差し出す。そこには、小さな魔石が一つ埋め込まれていた。
「これはポータルの鍵だ。ダンジョンで発見される古代アーティファクトの中から見つけた」
アルヴィンが同じ腕輪をはめ、魔法陣の近くにある石の円柱にかざす。円柱が一瞬青く光ると「認証されました」と声が響いた。
「今の声は何だ?」
「分からん。だが、あえて言うなら、ダンジョンの声だろうな」
「ダンジョンの声?」
「腕輪を着けている者の魔力を識別して登録される。登録できるのは、ここでのみ。入り口の円柱では出来なかった」
「ここまで来れた者しか登録できないって事か―――お前、何時の間にこんな‥‥」
「この数十年、あの日の事を想わない日は無かった。俺はお前みたいな脳筋と違って、俺にできる事を考えただけだ。お前も登録しろ。ちゃんと起動するか確かめる」
アルヴィンに促され、ローガンが腕輪を認証させる。二人で石畳の上に乗ると、魔法陣が光り出した。そして次の瞬間、二人の姿はその場から消え、ダンジョンの入り口へと現れた。
「凄いな‥‥」
ローガンが回りを見渡す中、アルヴィンが安心したようにため息を吐いた。
「成功したみたいだな」
「おい、どういう意味だ?」
「研究結果としては成功するだろうと思っていた。だが、まだ試していなかったからな」
「おい!」
「何を慌てている? 失敗しても、ダンジョンの中の何処かには繋がっていたはずだ。まぁ、転移の失敗は時に腕や足が違う場所に飛ばされたりするがな。前例として頭だけが別の‥‥」
「俺を実験に巻き込むな! 勝者の門に繋がってたらどうすんだ!」
「ふむ、それは考慮していなかったな。そうか、あそこに繋げる事が可能なら―――」
顎に手を当て、ブツブツ呟き始めたアルヴィンを見て、ローガンが深いため息を吐いた。
「もういい! 俺は戻るからな!」
ローガンが円柱に腕を伸ばそうとした瞬間、我に返ったアルヴィンが慌てて懐から袋を取り出し、ローガンに差し出す。
「残りの腕輪だ。五つしか入っていないから、渡す者は選べ」
「それなら、一つ頼まれてくれないか?」
「何だ?」
「これを、レッツェルって商人に渡しておいてくれ」
袋の中から腕輪を一つ取り出し、アルヴィンに渡す。
「レッツェル? ああ、狐の獣人か」
「ああ。物資は彼が全て担ってるからな」
「人使いの荒いやつめ‥‥まあ、いい。あの風呂のおかげで、腰の重さが楽になったしな」
「そうだろ?」
「その代わり―――来週の木の日、お前の宿の、一番良い部屋を開けておけ」
「高いぞ?」
ニヤリと笑ったアーロンを、アルヴィンが鼻で笑う。
「俺を誰だと思っている」
「ふっ、承知いたしましたよ、王国魔術師長殿」
一瞬嫌そうな顔をしたアルヴィンだが、指で眼鏡を上げると、「またな」と言い残して消えた。
その日の夜、アーロンがセーフエリアに住んでいる者達を双狼の宿に集めた。
テーブルの上には、腕輪が四つ置かれている。
「こいつは、転移ポータルの鍵だ。これを使えば、ダンジョンの入り口に瞬時に行ける。欲しい者は?」
その問いに、顔を見合わせ誰も応えない。
「王国魔術師長のお墨付きだ。俺も試して、安全なのは確認済みだ」
「俺達はいらない」
最初に答えたのは、ドゥガンだった。
「自力で行けるしな」
「それに、ここを出る必要もないしな」
「風呂も食べ物もあるし」
そして次々に、いらないと答えていく。
「わかった。一応、俺が預かっておく。必要な時は言ってくれ」
皆が帰った後、アーロンが渋い顔をして袋を見つめていると、シアが酒の入ったグラスを持って隣に座った。
「最悪、取り合いになるかと思ったんだけどな」
「‥‥みんな、ここが帰る場所になりつつあるって事だよ」
「ああ、そうかもな‥‥」
シアの言葉に、アーロンが柔らかく微笑む。冒険者なんて根無し草だ。どこで生きて、何処で死んでも自己責任。ダンジョンの中で死ぬ覚悟は出来ている。だが、その中でこんなにも穏やかな日々を送れるのは想定外だった。
「それもこれも、あの風呂屋――湯屋ができたおかげか」
アーロンがグラスを掲げると、シアがグラスを合わせる。
「湯屋に」
「湯屋とシュウイチに」
グラスを合わせる小気味よい音が響いた。




