第十七話
第十七話
「ローガン、お前今どこに住んでるんだ? 以前住んでいた場所に行ったらもぬけの殻だったぞ」
「探してくれたのか?」
ニヤリと笑ったローガンの顔を見て、アルヴィンが鼻で笑う。
「ふんっ‥‥一発殴ってやろうと思ってな」
「魔法使いの物理攻撃が俺に効くかよ」
「誰が物理でと言った。魔法に決まっているだろう」
「それ、殺す気じゃねぇか! まぁ、なんだ。今はセーフエリアに住んでる」
アルヴィンの顔が、見る見る内に青くなっていく。
「お前、そんなにも思い込んで‥‥」
「バカか。そんなんじゃねぇよ。説明するより見た方が早いから、お前も来い」
二人がセーフエリアに着いたのは、夕方頃だった。
「どうだ?」
「これは‥‥」
ちょっとした集落が出来つつあるセーフエリアの一角を見て、アルヴィンが目を丸くする。
「風呂屋に鍛冶、宿屋もギルドもある」
「もしもこれが、あの時あれば‥‥」
「‥‥だよな。俺もそう思った。もしもセーフエリアにこんな場所があったら、もっと万全な状態で深層に挑めたのにってな」
周りを見渡すアルヴィンの視界が揺れる。
「ダンジョンに挑むのは、冒険者の性だ。少しでも、俺達みたいな思いをする奴等を減らしてやりたい」
「お前‥‥年寄りくさいぞ」
「うるせぇ!」
「‥‥だが、お前らしい」
アルヴィンが眼鏡を押し上げる。
「そして、詰めが甘い!」
「はぁ⁉」
「これではただの、脳筋の集まりではないか!」
「そ、そうか? そういや、魔法使い用の事はまだだったな。だが、良いもんがあるぞ」
「良いもん?」
「あれだ」
ローガンが湯屋を指差す。
「珍しい建物だが‥‥」
「あれが湯屋だ。風呂に入るだけで、HPとMPが少量だが回復する」
「はぁ⁉ そんな事、ある訳」
「いいから、試してみろって」
アルヴィンの背を押しながら、湯屋に入る。修一に二人分の金を払い、脱衣所に入った。
「これは‥‥大衆浴場か」
「そうだが、町の大衆浴場と違って、ここでは全部脱ぐんだ」
「ぜ、全部か?」
「男女別れているから安心しろ」
「当たり前だろう!」
アルヴィンが渋々服を脱ぎ、カゴに入れた。ローガンが先導して浴場に入ると、シャワーの使い方を教える。
「おい、服はそのままなのか? 盗まれたりするんじゃ‥‥」
「そんな事をしたら、ここの店主に叩き出されるだけじゃなく、セーフエリアを使えなくなる。そんな命知らずの冒険者なんざいないだろ」
「まあ、確かにな‥‥」
ダンジョン内において、セーフエリアは命綱だ。十階層ごとに小さな部屋があるが、見張りが必要となる。ここのように、完全に魔物が入って来ず休める場所などないのだ。そこから完全に締め出される事は、命に係わる。
身体を洗い、湯船に浸かると、ローガンが手足を伸ばした。その膝には、スネから太ももにかけて走る、大きな傷跡が残っている。それを見たアルヴィンの眉間に深いシワが寄る。
「なんだよ‥‥お前にもあるだろ。お互い死にかけたんだ」
アルヴィンとは反対に、完全にリラックスしているローガンが彼の背に視線を向ける。アルヴィンの背には、肩から腰にかけて傷跡が残っていた。
「この湯に入ると、古傷の痛みが少し和らぐ」
「‥‥そうか」
「お前、信じてないだろ」
「日頃の行いだろう。お前は昔から、冗談なのか本気なのか分からない時がある」
「それは、お前の頭がゴーレム並みに固いからだろ」
「なんだと?」
「やんのか、こら」
二人が湯の中で立ち上がり、喧嘩が始まろうとした瞬間、浴場への戸がカラカラと音を立てて開き、修一が顔を出して低く呟いた。
「ここで暴れるなら、出禁にするぞ」
「す、すまん」
「悪かった」
二人が湯に沈むと、修一はため息を吐きながら去って行った。
「お前の言う事は信じてやる。確かに、腰の重さが和らいだしな」
「だろ? 外の露天風呂ってやつは、MPの回復もあるんだぞ」
「それを早く言え!」
アルヴィンが勢いよく立ち上がると、足早に露天風呂に向かう。それを見たアーロンが、笑いながら追いかけていった。
暫くすると、脱衣所から再び言い争う声が聞こえて来る。
「まったく、こんな場所があるなら早く言え!」
「王国魔術師になったのは知っていたが、住んでる場所も知らなかったんだからしょうがないだろ!」
「まったくお前は昔から――」
「お前こそ――」
アルヴィンと言い合いながら出て来たローガンが、受付カウンターに銅貨を置く。
ローガンはいつも、風呂上りに瓶入りラムネを飲む。修一が何も聞かずにラムネを二本、カウンターの上に置いた。
「なんだ、これは。水か?」
「これはな、こうするんだ」
アーロンがフタを使い、ビー玉を押し込む。カコン!と小気味いい音がして、炭酸のシュワシュワという音が聞こえて来る。
「こうか‥‥」
アルヴィンが同じようにすると、ブシュッと音を立てて泡があふれ出した。
「ど、どうすんだこれ⁉」
狼狽えるアルヴィンを笑いながら、ローガンが自分のラムネを一口飲む。
「飲めばいいだろ」
アルヴィンが慌てて瓶に口を付けると、そのまま一気に飲み干した。
「お、おい、そんなに一気に飲んだら‥‥」
「ふぅ‥‥美味いな、これ‥ケプッ‥‥何‥クッ‥‥」
「あははは! 一気に飲むからだよ!」
「ローガンさんも、初めて飲んだ時は止まらなくなってましたね」
「うるせぇ」




