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第十四話

第十四話



「あ~‥‥いいな、これ」


湯屋を閉めた後、露天風呂で足を伸ばす。

メルルのおかげと俺のせいプラスアルファで、露天風呂にはまるで老舗旅館のように日本庭園ができた。苔や松の木、紅葉もある。因みに、湯屋の横には立派な桜の木が生えた。春になったら、花見するのもいいかもな。

上を見上げると、真っ暗な空‥‥ではないらしいが、ご丁寧に星や月まで出ている。


「ガルド、外の月も二つあるのか?」

「うん、あるよ」


上には、大きな月の横に小さな月が並んでいる。なんとなくだが、やっぱり世界が違うんだなと思った。


「帰りたい?」


ぼんやりと月を眺めていたら、ガルドが不安そうな顔で見てきた。


「シュウイチは、異世界から来たんだろ? 帰りたい?」

「う~ん‥‥そうでもないな」


自分でもあっさりと、答えは出ていた。

勿論、コンビニとかエンタメとか、ふと思い出して恋しくなる事はあるが、基本的な物はパソコンで手に入る。祖父さんの代で墓じまいしちまって、祖父さんの遺骨は永代供養に入っているから心配は無い。気がかりがあるとすればと考え、一人の顔が頭を過り、思わず眉間にシワが寄る。今頃、怒ってんだろうなぁ。


「あのままあっちにいたら、この湯屋は無くなっていたかもしれないしな。こっちに来れて、湯屋も俺も良かったのかもな」

「そうか‥‥」


こころなしか、ガルドの横顔が嬉しそうだった。まぁ、もしもあの時、湯屋が無ければガルドは――うん、それだけでも、来たかいはあったのかもしれない。



次の日の朝、暖簾を出そうと外に出ると、ダンジョン猫たちがずらりと並んでいた。


「うぉ⁉」

「シュウイチ、仲間を連れてきたにゃ!」

「ありがとう、本当に来てくれたんだな。湯は沸いてるから、入ってくれ」


靴を脱いでもらい、靴箱の説明をしたあと、料金の説明と風呂の入り方を説明した。


「それで、お願いがあるんだが‥‥」

「お願い?」

「ブラッシングをさせてもらいたいんだ」


これは、湯に大量の毛が浮かないようにするためであって、俺がデカい猫のブラッシングをしたいわけではない!うん、そう、そうだな。


「ぶらっしんぐって、何だにゃ?」


待ってましたとばかりに、買っておいたブラシを取り出す。


「これで、お前さん達の毛をとくんだが――」


自分の髪をブラシでといて見せる。


「気持ちよさそうだにゃ! やってみてほしいにゃ!」


全開も来ていた彼の背中をブラシで撫でる。


「気持ちいいにゃ!」

「気にいってもらえて、良かったよ」


丁寧にブラッシングしていくと、結構毛が取れてサラサラになっていく。

全員のブラッシングを終え、心地良い達成感‥‥至福だった。


「シュウイチは凄いにゃ! またやってほしいにゃ!」

「ああ、いつでも言ってくれ」


その日から、うちの料金表にブラッシングの項目が増えた。料金は、銅貨一枚。

これが結構人気で、デカい熊みたいな獣人の冒険者も、喜んでいた。


「鎧が擦れて、毛玉になるから、助かるよ」

「良かったら、鎧の洗浄もしますよ」

「マジか! めっちゃ助かるよ!」

「ユズ、よろしくな」

「キュ~!」


ユズが鎧を飲み込み、汚れだけを綺麗に溶かしていく。

鎧の洗浄が終わると、ユズは靴箱の木札を持っていき、器用に戸を開けて中に入り込む。下駄箱にみっちりと詰まったスライムの姿は、中々にシュールだ。洗浄が終わると、再び木札を持って戻って来る。


「ありがとな」

「キュ、キュ!」


撫でてやると、嬉しそうにプルプルと震える。

ユズは、湯屋での人気者になりつつあった。最初は、魔物が入り込んだと思った冒険者に攻撃されそうになったが、ガルドに張り紙を作ってもらって、なんとか落ち着いた。

張り紙には、「スライム出現注意。従業員なので、討伐しないでください」と書いた。

女性客にも人気で、料金表に新たに「スライムパック」なるものが追加された。

マッサージチェアに横たわる女性客と、その顔に張り付いたユズ。初めて見た時は、大慌てで引きはがそうとした。

ところが、どうやらユズは毛穴の汚れと古い角質を綺麗に取り除いているらしく、ユズを売ってくれという冒険者までいた。もちろん、御断りしたが。

鎧の清掃やエステ、営業後の風呂掃除まで手伝ってもらっているから、なんだがユズばかり働かせているみたいで申し訳ない。そう思ったのだが、本人はわりと楽しそうにしているらしい。ブラック銭湯なんて、シャレにならないからな。


そして、ガルドにも給料が出せるようになった。お小遣い程度なので申し訳ないが、薪の為の木を伐りに行くついでに、ドゥガンたちの素材集めを手伝っていたり、その道中で倒した魔物の素材をギルドで売っているらしい。うちで出す給料より、そっちの方が稼いでるんじゃないのか‥‥? まあ、ガルドが冒険者に復帰するというなら、止めるつもりはない。

客が増えたとは言え、ユズと俺でなんとかなるだろう。ガルドはまだ若いんだから、やりたい事をやればいい――


「なんて、考える俺も年かねぇ‥‥」


夜、ユズと露天風呂に入りながら月を見上げていると、流れ星が流れた。


「流れ星まであるのか! まるでプロジェクションマッピングだ‥な‥‥」


驚いていると、その流れた星がこちらに向かって落ちてきた。


「おいおいおい!」


避ける間もなく、思わず目を閉じた瞬間、物凄い水しぶきを上げてそれが露天風呂の中に落ちた。


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