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負債ダンジョン ~その代行者は能力も負債も超一流~  作者: 広瀬みつか


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4.白虎の尾

 遡ること数十分前、【アルラ】の東口に数十人の男たちが姿を現した。

 下品にニヤける男たちは革鎧を身につけ、剣や槍など各々の得物を手にしていた。

 そして、最も目につくのは男全員の肌一面に奇妙な紋様が浮かび上がっていたことである。それは問題を起こし、追放処分を受けた元代行者であることを示すものだ。

 彼らの名は【白虎の尾】。【オーゼリア大陸】南部を荒らし回る元代行者で構成された盗賊集団であった。


「ここにいる奴ら全員逃がすな! 抵抗するようなら容赦せんでもいい! だが、できるだけ生かしてここに連れてこい!」


 一際体格が大きく、それ相応に巨大な剣を背負った男が配下たちに指示を出す。


 男の名はアンドルフ・グラッドマン。

 かつては魔獣狩りを専門にする【討伐者】であり、優に2メートルを超える体躯と、得物である大剣、そしてその二つから繰り出される斬撃から「山崩し」の異名で恐れられた元第二級代行者である。

 彼が率いていたパーティ【白虎の尾】は2年前の魔獣討伐の際、強奪同様の方法で近隣の村から食糧を強奪し、逆らった村人全員を殺害した。

 運良く逃げ延びた村人から、ことの顛末を知った代行者協会はアンドルフ帰還後すぐにパーティメンバー全員を除籍、その直後待機していた騎士団に拘束された。

 しかし、連行中に騎士団の隙を狙い、パーティーメンバーと共に逃亡。

 その後は姿を隠しつつ、元代行者を中心に仲間を集め、一大盗賊団へと規模を拡大させたのだった。


 アンドルフの指示を受けた配下たちは下品なニヤけ面を浮かべつつ、村を蹂躙していく。


(かしら)、どうせ最後には皆殺しにするんだから、手当たり次第に殺っちまった方がいいんじゃねえですか?」


 飄々とした体躯の男サックが、アンドルフの巨体を見上げて尋ねた。

 それを受け、アンドルフはフッと鼻を鳴らす。


「そいつは俺の美学にそぐわねえ」

「美学、ですかい?」

「何の感情も込めずに殺すのは殺される奴らに無礼だ。より残酷に、より絶望に染め上げて最後を迎えさせるのが最低限の礼儀ってもんだ」

「ひゅー♪ 言ってることよくわかんねえが、なんかイカすぜ!」

「余計なこと言わんで、お前も村人集めてこい」

「へい!」


 サックが立ち去る姿を見送ると、アンドルフは大剣を背の鞘から抜き放つ。そして、門近くにあった大木へ思いっきり横払いする。

 すると、大木は轟音を立てながら倒れ、直径50センチほどの切り株が残る。

 アンドルフはその切り株に巨大な尻を下ろし、村人を集める配下たちを眺めた。


 抵抗する術のない老人や子どもは乱暴に縄で拘束され、若い女は悲鳴を上げつつあられもない姿で配下の男たちの肩に担がれる。

 若い男たちの中には配下の男たちに抵抗したのか、全身血まみれで満身創痍になっている者もいた。

 そして、ひとりひとりとアンドルフの前に集められる。その数、数十人。


「ひひっ。こいつは楽な仕事だぜ」


 配下の男の中のひとりがそうつぶやきつつ、若い女をアンドルフの前に放り込む。

 すると、アンドルフは腰を下ろしたまま、獣を連想させる目つきでその配下の男をぎろっと睨む。睨まれた男の全身は恐怖のあまり一瞬で硬直した。

 そして、アンドルフは地を這うような低い声で……


「おいお前。もし村人が逃げたらどうする? そいつが他の村に逃げ込んで、俺たちの情報を伝えたらどうなると思う?」

「え? いやこれだけの人数で乗り込んでるんですから取り逃がすなんて万が一にも……」

「その油断と慢心が命取りになるんだ。いいか。仕事を終えるまで一切気を抜くな」

「へ、へい! すみません!」


 アンドルフの一喝を受け、配下の男はアンドルフに深々と頭を下げ、再び村へ駆ける。

 それとすれ違うようにサックが拘束された子どもを担いでアンドルフに近づく。 


「さすがに神経質になりすぎじゃねえですかい? それじゃ気がもたねえですぜ」

「俺は一度油断したせいで代行者協会を追放されたんだ。もう二度とあの轍は踏まねえ」

「こいつは一種の病気だ。よほどのトラウマを植え付けられたんでしょうね。まあその用心深さがあったからこそ、今まで好きに暴れられたんだでしょうが」


 サックは肩をすくめ、体躯に似合わず神経質なアンドルフへ受け答えする。


「それで首尾はどうだ?」

「この村、人自体は少ないが、無駄に広いんでもう少し手間がかかりそうでさ」

「森や畑の中も探してんだろうな」

「むろん! ネズミ1匹逃がすつもりはありません。このペースならあと日が沈むまでに殺戮ショーを開催でき……」

「うわぁぁぁぁ!」


 その時だった。

 一軒の建物の陰からひとりの配下の男が叫び声を上げつつ、飛び出した。

 地面に叩きつけられた男の胸には刃物で斬られたであろう傷から大量の地が吹き出している。


 配下の男が飛び出した建物の陰から複数人の男の怒号が絶え間なく聞こえる。


「て、てめえ、やりやがったな!」

「調子に乗んじゃねえぞ!」

「馬鹿野郎! ひとりでつっぱしんじゃねえ!」

「こいつを囲め! 一気に畳みかけ、うわぁぁぁぁぁ!」


 怒号は次々と悲鳴に変わり、同時に配下の男たちが建物の陰から姿を現す。その全てが地に這いつくばり、あたりを自分の血で染め上げていく。

 そして、ものの数分で十数人の鮮血で赤黒い池ができあがった。


 サックは目をひん剥いて、その光景を眺めていた。その全身は寒地にいるかのように小刻みに震え、大量の冷や汗をかいていた。彼の表情には弱者を蔑むような笑みが完全に消えていた。

 それはアンドルフの前に集められた村人たちも同じ。立て続けに迫る未知の恐怖に、脳内が混乱を極めていた。


「頭、こいつは一体……」

「この村じゃ魔獣でも飼っていたのか。それとも……」


 アンドルフは切り株から腰を上げる。

 彼の表情にはサックや集められた村人たちのような恐怖は一切感じられない。それどころか、上質な獲物に出会えたことへの喜びで口角を上げてていた。


 すると、建物の陰からひとりの男が姿を現す。

 アンドルフと比べてだいぶ小柄なその男は、ブロンド色の髪と身にまとった鎧、そして右手に握られたロングソードを赤く染めていた。


 彼はシュナーグ・ザラタイア。【白虎の尾】征討の依頼を受けた第二級代行者だ。

 蔵でレインの尋問をしていた彼だったが、村の異変を聞きつけて駆けつけたのだった。


「この村でだいぶ時間を無駄にしたと正直焦っていたが、まさか捜し物の方から会いに来てくれるとはな」


 シュナーグは誰にも聞こえないほどの声でつぶやきつつ、一歩一歩とアンドルフのもとに近づく。

 その進行を止めようと、散らばっていた配下の男たちはシュナーグとアンドルフの対角線上に集まり、各々の得物を構える。しかし、彼らは今まで遭遇したことのない相手を目の前にし、手足をブルブルと震わせていた。


「し、死ねぇぇぇ!」


 配下の男のひとりが剣でシュナーグに斬りかかる。

 しかし、シュナーグはその剣を最小限の動きで避け、斬りつけてきた男の横腹をロングソードの刃で薙ぎ払う。

 斬り払われた男の胴体は完全に切断され、切り口から噴水のように血が噴き出す。その血でシュナーグの左半身は更に赤く染まる。


「遅かれ早かれお前ら全員ここで死ぬんだ。そう急ぐこともないだろ?」


 顔にかかった血を左手の甲で無造作に拭いつつ、シュナーグは小さくつぶやく。その姿は肉をむさぼった後に口の周りの血を舐めとる狼を連想させた。


「ば、化け物だ……」


 今まで狩る側だった配下の男たちは初めて狩られる側になると本能で理解し、一気に戦意を喪失する。

 そして、そのほとんどが踵を返し、我先にと村の外へと駆け出す。


「こんなのに勝てるはずがねえ。俺はここで降りさせてもら……ぐはぁ!」


 いの一番に村の門に辿り着いた男。

 しかし、門外に足を着地させることなく、その体は村の中心部へ一気に戻される。

 地面でのびる男の顔面は巨大な丸太にぶつかったかのような痕跡がついていた。

 飛ばされた男の末路に釘付けになった配下の男たちの目線は門へと移る。

 そこには大剣を片手に、門番と徹するアンドルフの姿があった。


「俺の許しなしにここを離れることは許さん」


 アンドルフから放たれる圧を受けて、逃亡を試みていた男たちの足が止まる。「前門の虎、後門の狼」とはまさにこのことだろう。


「頭! あいつはヤバすぎます! このままでは俺たちは全滅しちまう!」


 そんな門前に立ち塞がるアンドルフに、側で侍ていたサックが【白虎の尾】メンバーの総意を伝える。その声は二匹の獣を目の前にして震えていた。

 サックから弁明に近い提言を受けて、アンドルフは無様な顔をする配下を見渡す。

 そして、ひとつ大きなため息を吐く。


「こいつの相手は俺がする。その間お前らは村人を見張ってろ。いいか。1人たりとも逃がすなよ」

「へ、へい!」


 サックは配下の男たちを率いて、集めた村人たちの周りを取り囲む。

 シュナーグとの戦闘を回避できた男たちは安堵しつつ、村人たちにそれぞれの得物を向ける。

 その姿を見届けると、眼前の血まみれになったシュナーグに近づく。相対するシュナーグも得物のロングソードに劣らない鋭い視線をアンドルフに向ける。

 アンドルフとシュナーグ。一歩一歩近づく度にふたりの緊張感は高まっていく。


 まず口を開いたのはシュナーグだった。


「確認するまでもないだろうが、一応訊いておく。お前らが【白虎の尾】か?」

「まさしく俺らが【白虎の尾】、そして俺が頭領のアンドルフ・グラッドマンだ」

「なるほど。聞きしに勝る巨体と大剣と豪腕。まさに『山崩し』だ」

「俺は名乗ったんだ。お前も名乗れ」

「それは失敬。俺は第二級代行者シュナーグ・ザラタイア。お前らの首を狩る者だ」

「確か単独で盗賊を狩りまくっている『盗賊狩り』とかいう頭の狂った代行者がそういう名だったはずだが?」

「ほう。大盗賊団の頭領に知ってもらえていたとは。頑張ったかいがあったってもんだねえ」

「てっきり俺と同じ巨体の持ち主かと思ったが。まさかこんなヒョロヒョロとはな」

「それは失望させてすまなかった。だが、剣の腕前ではあんたを十分に満足させられると思うぜ」

「どうやらそのようだな。さて、俺の仲間を殺したツケ、払ってもらおうか」

「ツケを払うのはお前だ。今まで無惨に殺してきた人々の命、ここで精算してもらう」


 シュナーグとアンドルフ。ふたりの距離は2メートルをきったところで歩みを止める。

 そして、互いに剣の刃先を向け合う。


 周囲の雑音が不思議と消え去る。聞こえるのは互いの心臓の鼓動と呼吸の音だけ。

 そして、建物の瓦礫が落ちる音がふたりの鼓膜を震わせる。

 それを合図に、ふたりは互いの距離を一気に縮め、相手に向けて得物を振り下ろす。

 刃がぶつかった一点を中心に衝撃波が広がる。

 村全体が砂埃で覆われ、その場にいる者たちの視界が奪われる。

 

 その砂埃も次第に晴れる。

 すると剣をぶつけ合った当人たちを含めた大多数の人々が自らの目を疑った。

 刃が交差するはずの場所に、ふたりよりも遙かに小柄なひとりの少年が立っていたのだった。そして、その少年は二つの刃を片手でつまんでいた。

 今回は野郎どもしかいないむさ苦しい回でしたね。読む気が失せた方もいらっしゃったのでは?

 しかし、心配ご無用!

 次回はこの汗臭い空間に華を添えますので、楽しみにしてください!


 最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

 もし面白いと思われた方は「いいね」をお願いいたします。

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