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最終話「そして光は地に墜ちて」⑥

 暗黒を見つめる視界に、まだ、ノイズが走る。

 白衣を身につけたらしき、おぼろげな人影。その者がこちらに向け、手を差し出してくる。

 次いで蒼穹が頭上いっぱいに広がり、穢れのない真っ白な大地が彼方まで続く。そこに、自分を囲んで見下ろす、五つの人影が見える。

 視界のなかに一瞬だけ差し込まれる、覚えのないそれらの映像。

(だ、れだ……)

 (なが)い孤独。永久(とわ)の観測。それは――。

(わた、しは……)

 気づけば、砂嵐のなかには地球が映し出されている。それがどこからなのか、果たして誰のものなのか、判断はつかない。

 いまこうしている自分さえ、本当に神楽夜(じぶん)といえるのか。

 それすらも曖昧になっていった時。

 頭を割らんばかりの人の声が、無数の叫びが、彼女のなかを満たした。

 彼女は濁流のようにせめぎ合う憎悪の中でひとり耐えた。出来損ないのパズルに無理やりピースを当て嵌めるような強引さに怒りを覚えた。

 だが、


 ヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセ——。


 老若男女、数多の叫びの渦は、次第に確かな意思を持って襲ってくる。

「――ァァァァアアアアアアアアッ!!」

 呼応するかのように神楽夜は叫びだしていた。

 獣のように吼え、のた打ち回る。

 彼女の意識はなおも暗黒に落ちていた。ひたすらに黒い水のなか、自分の姿を確認するすべはなく、ただそこにあるという感覚だけしかない。

 しかし、その微かな存在証明さえ飲み込まれそうになる。意識が冒されていく嫌悪感に頭が小刻みに揺れ、ここがどこで自分が誰で、生きたいか死にたいかもわからなくなっていく。

 無数の黒い手が伸びてくるのが神楽夜には見えていた。地の底から湧き上がるように、それらは彼女にしがみつき、絡んできた。

 彼女は自身を取り巻く怨嗟の声に耳を塞ぐこともできず、やがて呑まれて、そして――。

「カグヤ!」

 闇のなかで誰かに呼ばれ、はたと一歩を踏み止めた。

(――知ってる)

 そう、知っている。

 その呼び声を。

 その名が誰か、知っている。

 ――生きろ、カグヤ。

 父の背中がうしろに消える。

 それを追いかけ振り向けば、

(ああ――)

 自分のたどってきた道が、確かにある。

 短い時をともに生きた仲間たちが、そこにいる。

 なにも、迷うことなどなかったのだ。

「行かなきゃ」

 そう微笑んで踵を返す娘を、彼らは懐かしそうに見送る。

 一歩ずつ、確かに見えてきた光のほうへと娘は進む。

 その刹那、

 ――問い続けろ。

 と、あの黒騎士の背中が、彼方に消えた。

(そうだ)

 問い続けろ。求め続けろ。いまそこに、

(生きて、居るのならば――)

 娘は頭上の光に右手を伸ばす。

 神々しき青と金の光が、祝福するかのごとく降り注いだ。

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