第十八話「零れゆく命」④
揺れの原因は、城の外装にグラディアートルが放つ熱線が直撃したためだった。
「く……」
九垓は、爆炎上がる白亜の壁に背を向けて、歯噛みする。躱せば躱すほど周囲への被害は広がるばかりだ。敵にとっては、この街がいくら荒廃しようが知ったことではない。
(場所が悪ぃな)
そう苦々しく睨みつけていると、
「群れる群れる……。これだからニンゲンは」
と嘲笑を含んだ水銀色の異形は、カブトムシが羽を広げるようにして、背中の装甲をゆっくりと左右に分け開く。同時に、その巨躯を赤い稲妻が包みだした。
稲妻は異形の背後へ地を這うように伸びていき、やがて、まばゆい閃光が全身を包み込んだ。するとそのなかから、百足の胴を分厚くしたような尾が現れた。
尾を支えるおびただしい数の足は「百足」というに相応しい。鎌のごとき形状をしたそれらは、切っ先を地面に突き立てると、増した質量をものともせず、その巨躯をぐんと持ち上げる。
これで、それまで支えていた重厚な両足は地から離れたわけだが、この異形の変貌はそれだけに留まらなかった。
両足はあぐらをかくように前へ持ち上がり、つま先と踵にあたる部位を内側へと折り畳む。そのさまをたとえるならば、ロブスターのはさみか、あるいはペンチというのも近いだろう。
続けて両腕の牛刀を肘から切り離し、それぞれ肩の真横で滞空させる。あばらのように収納されている六本の腕も展開し、しまいにシンボリックなそのツノを左右に分け開けば、正真正銘、怪物の顕現だ。
「バケモンが」
九垓はたまらずそう吐き捨てた。
尾は百足、腕はロブスター、胴から頭にかけてはまた別の昆虫と、その姿は異形を通り越して、そう形容するのが相応しいおぞましさである。
しかし、赤き稲妻をまとうグラディアートルは、
「いつまでヒトの形にこだわっている?」
と上体を前傾させ、その六つ目に不気味な光を宿すのみだ。
そうして仕切り直された戦闘の轟音は、崩落寸前の病院で待つ剛三郎のもとにも届いた。
「あんちゃん……」
少年は、業火が染める夜空を不安げに見上げる。そしてその首をついと横へ向ければ、瓦礫と死体が転がるなか、病院職員によって、生き残った者の救助が行われていた。
といっても、その数は多くない。さきほど病院に直撃した流れ弾と、二機のグスタフが墜落してきた混乱で、自力で走れる者はすでに逃げ出したあとだ。残っているのは、瓦礫に脚を潰されて動けない者、母親によってガラス片の雨から庇われた子供、そういった他者の介助がいる者ばかりである。
その光景を目の当たりにした剛三郎は、胸の内に広がるいたたまれない想いに、きつく拳を握り締めた。
自分にもっとできることがあれば。そう悔やんだところで詮無い話なのはわかっている。それに、仮にあと十年早く生を受けていたとしても、おそらく、自分はいまと同じことを思うだろう。少年はそんな予感にますます嫌気が差し、厳しくしかめた顔を、向かってくる救護隊に向けた。
そこに宿るのは、未熟な己への敵意である。
その視線に気づき、隊伍を組む白衣のうちひとりがこちらへ駆け寄ってきた。
看護師らしき男はすかさず少年に怪我の有無を確認するが、少年には兄貴分から託された重大な任務がある。
「あのひとをお願いします」
地面に横たえたパイロット・スーツの兵に首をねじ向けて、返事とした。
その視線をなぞり、同じく顔を振り向けた白衣の男は、安否を確かめるべく駆け寄っていく。
と、それと入れ替わるようにして、剛三郎はいずこかへ駆け出した。
「ちょっと、君!」
気づいた男が咄嗟に呼び止めるが、少年の背中はすでに闇の向こうである。




