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呪われた記憶  作者: 眠兎あみ
本編
39/92

私をお祭りに連れてって

 早朝――昨日よりはいくらか賑わっているジャジュ村で、一行はひとまず試練の祭への参加受付ブースへと向かった。

 …しかし結果は予想通り、既に参加者はチームを組んで待機しているとのことで、一行の入れる隙間は無いと冷たく突き放されてしまった…


「んー…やっぱり無理ですかね、さすがに今日の今日では…」

 フィミリーが腕を組み難しい顔をしているのをなんとなく見ながら、セシリオはサクリーシャの姿が見えないことに気が付く。

(?…先ほどまでいた筈だが……)

 ざっと辺りを見渡すとすぐに、仲間たちから少し離れた位置に彼女の後ろ姿を捉えることが出来た。


「おい、サクリーシャ。何を―」

 セシリオが声を掛けたその瞬間、サクリーシャの右手に握られた拳が、彼女の目の前にいる人間に向かって勢い良く振り下ろされた。

「!?」

 それを見て慌てて駆け寄ったセシリオは、今しがたサクリーシャに思い切りげんこつを喰らわされた相手が、昨日いじめられていた気弱そうな少年だということに気が付く。


「サクリーシャ!どうした、揉め事か!?」

 セシリオに勢い良く肩を掴まれたサクリーシャは、そこで正気を取り戻したらしく、驚いた表情でこちらを見た。

 まさかサクリーシャが、昨日の一件でお礼もなく立ち去ったからといって手を上げるような乱暴者だとは思っていないが、そうでなければ二人の間に何の因縁があるというのだろうか。


「い、いや~ごめんごめん…この子があんまりうじうじしてるから、つい……」

 サクリーシャは冷や汗をかきながらひくついた笑顔でそう話した。

 一般人には特に、勇者らしくあることを常に意識している彼女が、そんな理由で人を殴るなど驚きである。


「…な、なんなんですか…ぼ、ぼ、ぼくのことなんてほっておいて下さいよ……」

 震えながらやっとのことでそう話す少年は、昨日は気付かなかったがかなり目立つ真っ白な髪をしていた。

 そしてそれをおかっぱ頭に切り揃え、前髪は目を覆うほどに伸びている。上部のボリュームが大きく、まるでキノコのような髪型だ。

 目元には僅かに、おそらく眼鏡が覗いているが瞳まではほとんど見えない。

 そんな目立つ彼の容姿よりも更に目を引くのが…大事そうに抱えている、人間サイズほどもある藁人形である…


「ここの村の人だったら、もし良ければチームに入れてって言っただけなのに…」

「だ、だって本当のことじゃないか!ぼ、ぼくみたいな弱虫、産まれてこなければ良かったんだ!お、親だってみんなだって、そ、そう思ってる!」

 なるほど…これは拗らせている…確かに面倒くさい……

「またそんなこと言って!孝行したい時に親はいないのよ!この親不孝もんが!」

 そう言ってサクリーシャはまたもや少年をぶん殴った。


「この子、どこのチームにも入れてもらえないし一人で参加するのも怖いからって逃げてるのよ!私たちで引っ張りましょ!」

 どうやらサクリーシャの勇者モードに、変な形でスイッチが入ってしまっているらしい…

 セシリオはそれよりまず彼の抱える藁人形が何なのかを聞きたかったが、いつになく気の立ったサクリーシャに逆らうことは出来ず、とりあえず二人を仲間達のもとへ連れて行った。



「…セシリオ様…本当にあんな人と一緒に…?」

 フィミリーは不安そうな表情でセシリオに耳打ちした。

 セシリオは目を閉じて静かに頷いた。

 たとえ彼の性格に明らかに難があっても、ジャジュの若者が都合良く見つかったのだ。仕方がない。

 今は藁にもすがる思いなのだ。藁人形だけに…


「あの子以外にはあと3人ね。誰が行く?」

 開始までもう残り僅かである。さっさとメンバーを決めて準備をしなければならない。

「とりあえずセシリオには行ってもらう方が良いわよね」

 サクリーシャの言葉に全員が頷いた。

 これは皆がセシリオを信頼していると取って良いのか、それとも面倒事を押し付けられていると取るべきか。


「あとは―」

 すると突然、おかっぱ少年が巨大藁人形を使ってサクリーシャを指さした。

「えっ?私?」

 先ほどまで遠慮なしに頭をどつきまわしていた相手からのまさかの指名に、サクリーシャは驚きを隠せない。

 少年の顔は大きな藁人形で隠されており、一体それがどんな心境のもとの選出なのか誰にも分からなかった。


 せっかく協力してもらえることになった彼の機嫌を損ねる訳にもいかないので、彼女の呪いに関しては考えないようにしつつサクリーシャの参加が決まった。

 残る一人は戦力的にはキサかと考えたが、おかっぱ少年とサドとの相性が明らかに悪そうだということを考慮し、戦闘があるかどうかは分からないもののキサの選出は控えた。


 あとの二人では、総合的に判断してフィミリーの方が良いという結論に至り、参加メンバーはセシリオ・サクリーシャ・フィミリー、そしておかっぱ少年…もといワイトの4人となった。


 ―――


「では、これより毎年恒例のジャジュ試練を開始します」

 司会者らしき老齢の男性が、スイッチの入っていないままのマイクを使って号令をかけた。彼が村長なのだろうか。

 ジャジュ試練だの祭だの、名称がテキトー過ぎるとセシリオは思った。

 しかしわざわざ見物に来たり、ましてや村人を拉致してまで参加している他国の人間は自分たち以外まったくいないので、身内だけの小さな催し物などこんなものなのかもしれない。


「参加者あんまりいないね」

「ええ。全部で三組でしょうか…村の若者だけとなるとそうなりますよね…」

 サクリーシャとフィミリーが小声で好き勝手言っているのを聞き、セシリオも辺りを見渡した。

 確かに参加者はセシリオ達を入れてもたったの三組で、自分たち以外はどちらも3人組である。


「わ、わ、ワイトのヤツ!用心棒を雇ってますぞ!」

「し、しかも女子ィ!?」

 昨日のいじめっこ達がワイトを指さし大声で話していたが、セシリオがふとそちらに目線をやっただけですぐさま目をそらし静かになった。


「……やだぁ…あの人…イケメン……」

 ひそひそと話すもう一組は女性ばかりのようだが、やはり全員前髪が長くうつむきがちで顔はまったく見えない。


 セシリオはそんなライバル二組を見て思った。

(手にしているあれは…何を持っているんだ?)

 全員が小さな紙切れや、釘と金づちなど何か細々したものを持っているようだ…自分たちの持つ武器とはまるで異なる物のように思えるが、これは不利にはならないのだろうか…


「では。よういスタートです」

 かなり唐突に村長が口を開いた。

 全員が半ばずっこけるような形でスタートを切った――が。



「足、おそっ!!」

 サクリーシャは叫んだ。

 無理もない。ライバルたちが全員、若者だとは思えない驚異的な足の遅さを見せたのだ。

(これは余裕過ぎるな…)

 セシリオを始め、サクリーシャもフィミリーもこの時点で勝ちを確信した。


 しかし…

「…うっ!」

「ひゃっ!」

「あうっ!」

 突然セシリオ達を襲う、激しい倦怠感!!

「…ごめ、二人とも…私、いつもの呪いが…」

「…サクリーシャ、どうやらそれではなさそうだぞ…俺も…おそらくフィミリーも同じだ…」

「……うう…僕なんだか気持ち悪くなっちゃいました……」


 三人を襲うけだるさの理由とは!?その時ワイトは!?

 次回、ジャジュ村の過酷すぎる!?試練が幕を開ける…!!



「おーセシリオ達やっぱぶっちぎりだなぁ~」

「…す、すごいですね…サクさん女性なのに足が速いです…」

「これならどうせ優勝だろうし、見てなくてもいーだろ。屋台見に行かね?」

「…えっ!?き、キサさん、それは、でも―」

「ここ色々めずらしーもん売ってんだよ。トカゲ焼きとか!食ってみたいじゃん、行こーぜ!」

「き、き、きささん手…!ってえ!?トカ…げ?」

 繋がれた手にチユキの鼓動は速くなり、その甘い魔法は思考を麻痺させる――彼女はトカゲを食べる羽目になるのか…!?



 待て!次回!!

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