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呪われた記憶  作者: 眠兎あみ
本編
38/92

ジャジュ村

 立て看板から村までの距離は短く、雑談をしながら歩いているとあっという間であった。

 シントライデル城下町という、世界でも最も栄えているきらびやかな場所に数日滞在していたということもあってか、ジャジュ村の第一印象は、地味…だった。


 全体的に村の色調は暗くどんよりとしていて、心なしか天気も先ほどより悪くなっている気さえする。

 通りを歩く人々も皆揃って猫背でうつむいており、村を訪れた旅人に興味のある者はいないらしい……


「…これはまた…噂には聞いていましたが…ここまでとは……」

 フィミリーは具体的な言葉こそ吐かなかったものの、抱いているであろう感情がマイナスなものであることだけは伝わってくる。


「!みんなあれ見て!」

 一行がつられてどんよりとしている中、サクリーシャだけはいつものように困っている人間に敏感である。

 彼女の視線の先には……まるでわざとやっているかのような“いじめ”が行われていた……


「…お、推しもいないとは、生きている価値など無いに等しいですね!」

「まったくでござります!アミアちゃんの良さが分からない殿方がおるとは!」

「…や、や、やめろよぅ…別に良いだろぉ…」

 小太りの男性数人に、少年が囲まれ罵倒されているようだ…

 いや、ひょっとしたらこれはある種のじゃれ合いなのかもしれない…と、関わりたくないがために強引な理由付けをしてその場を去ろうとするセシリオ達であったが、サクリーシャは既に走り出していた。


「君たち!何でこんなことをするんだ!」

「…ほへっ!はにゃ!?…外の人!?」

「……じょ、じょ…女子ィ!?」

 勢い良く割り込んだサクリーシャの勢いに気圧された…ようではなさそうだが、いじめっこ達はひどく取り乱したかと思えば、ぶつぶつと言い訳しながら一目散に逃げて行った。


「…えっ。そんな驚くなんて……あ、君!大丈夫かい?」

 サクリーシャはカッコ良く腰に手を当てて振り向いたが、そこには既にいじめられていた少年の姿はなかった。

「…うわ、助けてあげたのに…薄情な奴ですね…」

 フィミリーはあからさまにうんざりした表情をして言った。

 一行はいじめていた方もいじめられていた方もなかなかの人間だったと、村にたどり着いて早々に嫌な気持ちになった。



「…さて、気を取り直して。呪いのことについての聞き込みを始めましょうか!」

 フィミリーはパンと手を叩き真面目な顔に戻ると、別行動でそれぞれ村人から情報収集をすることを提案した。

 一行はそれに賛成し、日没まで各々単独行動を取り、日が暮れる頃に宿屋前に集合するということで一旦解散した。


 ―――


「…いやいやいや、ここのヤツら何なんだよ!」

 珍しく怒りにも似た感情を爆発させるキサを始めとして、宿屋前に集合した一行は皆、落ち込み疲れきっていた。

「…あ……私だけではなかったのですね……」

 ひどく落ち込んだ様子で誰よりも遅く到着したチユキは、ほっと安心したような仕草を見せた。


 セシリオはセルディアの王子だということである程度の知名度があるため、これまではたとえ筆談だったとしても快く情報を提供してくれる者がほとんどであった。

 …しかし…どうやらセシリオ以外もそう感じたようだが……

 この村の人間は冷たかった。


 冷たいというよりは、排他的というべきだろうか…聞き込みに応じてくれたり、積極的に旅人と関わろう、交流しようという人間が一人もいなかったのだ。


 幸いなことにこれまでの旅ではそういった経験の無かった一行は、誰一人有益な情報を掴むことが出来ず、心をぽきりと折られて仲間のもとへと集まった…という次第である…


「歩いてるヤツは嫌がるからさ、おれもう家もいくつかまわったんだよ。ドア叩いてさ!」

 一行の中でも飛び抜けてコミュニケーション能力に長けたキサはさすがの行動力であるが…

「したら無視だよ!どこも!ぜんぶ!」

 この村の人間数人に声をかけるも無視され、挫折しておきながらよくそんなことが出来るものだ、と全員がキサを尊敬の眼差しで見たが、その結果は良くなかったようだ。


 確かに見知らぬ旅人からの突然の質問など、答えたくもないという人間はもちろんいる。北端のいわゆる田舎である村にわざわざやってくる旅人はさぞ怪しいだろう。

 しかし…ジャジュの人間は、声をかけるとビクッと身体を震わせ、その後は目も合わさず一目散に逃げ出し、挨拶にすら応じないのだ……


「んー…宿屋の人とか、お店の人なら少しはマシじゃないかな…どうだろ…」

 もう日も暮れている。いつまでもこんな所で唸っていても解決にはならないので、サクリーシャの案に乗ることにした一行は宿屋へ入った。



「あっ!これ!」

 質素な宿屋の内部で真っ先に目に入ったのは…というより壁という壁にいくつも貼られている、目の痛くなるような原色を使ったポップでファンシーなポスターは嫌でも全員の視線を奪った。

「シントライデルで護衛した、アミアじゃない!」

 そのポスターは、サクリーシャとフィミリーが護衛したアイドル…アミア・キャンディのイベントを宣伝するものであった。


「…旅のお方…貴殿方もアミアさん目当てで…?」

 カウンターに立つ老齢の宿屋の亭主が突然話しかけてきた。

「…明日ですからねぇ…もう部屋は残りわずかですよ。ラッキーでしたねぇ…」

 不揃いな歯を見せながら不気味に笑う亭主に引きぎみの一行であったが、ここでも恐れを知らないキサが前に出た。


「明日なんかすんのか?」

 キサは亭主の目の前のカウンターに肘を付いて話しかける。亭主はそんなキサからじわじわと距離を取りつつ答えた。

「…ジャジュ村名物の試練の祭…ですよ」


 亭主の話を要約すると……ジャジュ村で年に一度開かれる『試練の祭』では、この村の若者を対象としたちょっとしたレースが行われる。

 村の裏手に位置する神木がゴールとなっているが、その道のりにはいくつかの試練が用意されている。

 それらを自らの体力と知恵と呪力で突破していき、一番にゴール出来た者は女神の祝福を受け、一人前だと認められる…


「この村の人間は覇気がないですから…特に若者はね……ですから数年前から女神役としてアミアさんに来てもらってんです…」

「えっ?女神()?」

 唐突に戻ってきたアミアという名前に思わずサクリーシャは亭主の方を見る。


「ま、若者たちを参加させるための…ご褒美、いうのも変ですが…一番になったもんには女神様からのキッスがもらえるゆうわけですわ……」

 亭主は再び不気味に笑った。

 …キッス……アイドルの仕事というのは過酷なものだ…と一行は目を伏せる。


「効果はあるんですよ。この祭で優勝したもんは見違えるように逞しくなってねぇ…心を入れ換えて、外に出るようになったり、村のためにてきぱき働くようになったり……」

 …それは神木の加護なのか、試練を乗り越えて人間的な成長をしたのか…はたまた女神アミアの効果なのか…セシリオ達にはとりあえず分からなかった。



 ひとまず5人でなんとか雑魚寝出来る程度の狭い部屋を借り、明日からの作戦を練る一行。

「明日の朝から祭が開かれるそうですが…受付はギリギリまで出来るそうです。4人までならチームを組むのもアリらしいですね」

「…けど…ジャジュ村の人間を必ず一人は含むのが必須らしいです…」

 話題はやはり先ほど唯一得ることに成功した情報である、祭に関してだ。


「…この村の人間とまともに話すには…優勝するのが手っ取り早いと思うが……」

 セシリオは自身の呪いの手がかりとなりそうなこの村のことを、簡単には諦められないでいた。

 しかし今日数名と関わってみた結果、ただやみくもに聞き込みをするだけではここの人間が心を開いてくれないことも悟ったし、これ以上無駄な時間を過ごすのも鬱陶しかった。


「セシリオが、優勝が早いと思うって言ってるけど私もそれに賛成かな~優勝すればちょっとは打ち解けてくれるんじゃないかな?ここの人たちも…」

 サクリーシャはストレッチをしながら、慣れた様子で通訳と自分の意見を織り混ぜて話す。


「そうですね…神木の加護とやらも気になりますし……ただそうなると、誰か捕まえないといけなくなります。もうこの村の人はチーム組んで準備してる気がしますよね…」

 ジャジュ村の若者が一人でもいないと参加すら出来ない…ここが最大のネックとなっていた。

 祭を翌日に控えながら、参加の準備すらしていない若者がいるわけがない…


 一行はその後も知恵を絞ったが、とうとう良い案が浮かぶことはなく、朝になってからどこかのチームへ入れてもらう…という成功率の低そうな作戦を立てることしか出来なかった…

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