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呪われた記憶  作者: 眠兎あみ
本編
30/92

新たなる出発

 昨夜はやはりかなり疲れていたようで、考え込む暇もなく眠りに落ちてしまった。

 朝、目が覚めてから再び試験のことについて考え始めるセシリオであったが、もう結果は変わらないことと、シントライデル大陸ならば今のままでも全員で旅を続けられるという点を踏まえ、思考を断ち切ることに決めた。


 (ゲート)を使うこと以外にも、大陸を渡る手段はあるかもしれない。仲間たちが旅の続行に賛同してくれるのであれば、またそれを皆で考えれば良い。


 ガーディアンへ向かう仲間たちの表情は(キサを除いて)明るいものではなかった。まるで葬式にでも向かうかのような重い足取りだ。

「…大丈夫だ。ジャジュ村までなら、全員で行けるだろう」

 セシリオはサクリーシャに向かってぽつりと告げた。

 彼女は発言の意図を汲み取ったようで、表情が少し明るくなった。

「…そう…だよね!みんな、ジャジュ村まで行こうよってセシリオが!」

 サクリーシャが通訳をすると、チユキは嬉しそうに頷いたが、フィミリーは笑顔になったあとすぐに悲しい表情に戻ってしまった。


 フィミリーのことだ、たとえセシリオがそう言ったとしても、役立たずの自分は離脱するべきだとでも考えているのだろう……

 セシリオは彼の小さな肩にぽんと手を置き、気にするなという意味を込めて優しく微笑んだ。

 するとフィミリーは目を真っ赤にしてハンカチで顔全体を覆い号泣する。


「じゃじゅ村ってなんだ?」

 今は説明するのが面倒なので、そう問いかけてくるキサのことは無視した。


 ―――


「ああ、どうも皆様。お待ちしておりましたよ」

 ガーディアンに立ち入ると、受付に着くより先にファースが待ち構えていた。

 その姿は昨日までのきっちりと規則正しく着込んだ制服とは違い、シンプルな黒を基調とした衣服であった。


「今日は私、休暇をいただいておりまして…ただ、最後に皆様にお会いしたかったので、来ちゃいました」

 ファースは自身の姿をまじまじと見つめる一行に対し、事情を説明する。

 昨日のメフィに続き、ファースの休暇までも潰してしまったようだ…


「せっかくのお休みなのに……すみません…」

 すかさずフィミリーがファースを気遣うと、彼は昨日までは見せなかった柔和な笑顔を浮かべた。

「皆様との時間の方が、家で引きこもるより楽しいですから」

 ファースは、ふふふと少し怪しげに笑いながら背中の蜘蛛足をざわざわと揺らすと、一行をガーディアン内の客間へと案内した。


 ―――


「おお。皆さんお揃いで」

 セシリオ達が入室して間もなく、メフィも部屋へと入ってきた。

「いやはや、今日は暇だったので出て来れて良かったよ。今日はまだ20人ほどしか相手してないがね」

 ファースとメフィは、それは暇だ、と盛り上がっているが、現在まだ昼を少し過ぎたところだ。しかも今日はファースが休暇だというのに…?



「さて、皆様のお時間をあまり取らせる訳にいきません。早速結果をお伝えしていきますね」

 ファースの表情が昨日までの仕事モードに切り替わった。

「では試験を受けた順に……チユキさん、こちらへ…」

 名前を呼ばれたチユキはビクッと身体を強張らせ、緊張の面持ちでファースの前へ出た。


「チユキさん、貴女はCランクと判断させていただきました。では、これがランクカードです。どうぞ」

「…!」

 チユキは驚きと喜びで声も出せずに震えながら、おずおずとカードを受け取った。

 試験には落ちたと思っていたのだろう、良い意味での予想外の結果に、目を潤ませている。


「一番下のランクですが、貴女の詠唱の速さはトップクラスです。このまま旅を続けて、より力を付けて下さいね」

 ファースはにっこりと笑顔を見せると、次にフィミリーの名を呼んだ。


「フィミリーさん、貴方はBランクへランクアップとさせていただきます。お持ちのカードを貸して下さい」

 フィミリーもチユキと同様、驚いた表情を浮かべ戸惑いながら自身のカードをファースへ渡した。

 ファースは何やら専用の機器でフィミリーのカードをスキャンし、すぐにフィミリーへ返却した。


「フィミリーさんの魔力は、ご年齢を考慮すると相当なものですが、扱う属性に少し偏りがみられますので、他の属性の取得もぜひ検討して下さい」

「…あと、無茶は良くないぞ…」

 メフィがぽつりと付け加えると、フィミリーは少しばつが悪そうな顔をした。


「続いては、キサ…さん…」

 ファースは少し戸惑いつつ、本物のキサに目を向けた。

「おれ覚えてないんだよなー」

 キサは珍しく申し訳なさそうな顔をしてファースのもとへ向かった。


「貴方は…最終的にAランクと判断いたしました」

「えー!ほんとかよー!!ラッキー!」

 キサは歓喜しながらカードをファースに渡す。ファースは手早くカードに処理を施した。


「…実力は…Sランクほどあるかとは存じますが……なにぶん不安定過ぎますので……」

 まさに今も戦いの記憶を持たないキサを前に、ファースは言いにくそうに呟いた。


「…では次に、セシリオ王子。どうぞ」

 自分たちが思っていたよりも、試験の結果が良かったことで安堵していたセシリオだが、自らの番になるとやはりいくらか緊張してしまう。


「セシリオ王子は…Aランクとさせていただきました」

(―よし!)

 キサと自分でAランクが二人…ということは今のメンバーでAランクの大陸までなら行けるということだ。素直に笑みが溢れる。


「…セシリオ王子もSランクとしても良い位ですが……理由は…うちのメフィから話があった通りです」

 喜びも束の間、耳が痛い話題だ。セシリオは苦い顔をして頷いた。

 …ともあれなんとかランクアップ成功だ…それにしても、よくあの結果でAランクをもらえたものだとセシリオはホッとする。


「最後に…サクリーシャさん」

「はっ!はいぃ!!」

 サクリーシャは試験の時と同様、ガチガチに緊張している。

 彼女にとっては受けること自体が夢のまた夢であった試験であり、その結果となれば緊張するのも無理もない。


「……非常に…言いづらいのですが…」

 ファースは悲しそうな表情で視線を落とした。

 さすがにサクリーシャの『悪霊の恋人』持ちでは、甘めだったシントライデルガーディアンも、合格とすることは出来ないのか―


(あれだけ頑張って…)

 セシリオはまるで自分のことのように、胸が張り裂けそうな思いだった。


「…やはり、貴女一人にランクカードを与えるのは…少し難しいと判断しました…」

 低く、静かな声でそう告げるファースの前に立つサクリーシャは、一瞬見ただけでは分からないほどだがちいさく震えている。

 しかし驚くことに、その表情はいつも通りの照れ笑いを浮かべているではないか。

「…あ~やっぱりぃ~そうですよね、大丈夫ですよ」

 サクリーシャは見ているこちらが辛くなってしまうほどにおどけた表情を作っていた。

「ごめんねぇ、みんな…」

 へらへらと笑いながらも、なおも肩は震えている。


「ただ」

 ファースが再び口を開いた。

「ランクカードはお渡し出来ませんが…セシリオ様方とご一緒であることを条件に、『(ゲート)使用許可証』を特別に作成させていただきました」

 そう言ってファースが取り出したのは、ランクカードと見た目はほぼ変わらないカードだった。


「貴女の特殊スキルはとてつもなく危険なためセシリオ様方と一緒だとしても、入国拒否や(ゲート)使用の拒否を命ずる輩がいるかもしれません」

「…しかし私たちシントライデルガーディアンマスターの二名は、試験の際の皆様の絆を見て、皆様が一緒であれば問題なし、という判断を行いました」

 ファースはサクリーシャにカードを手渡しつつ続ける。

「万が一そのような輩に遭遇した場合は、このカードにおいて、我々二名が責任を持って“説得”させていただきますので」

 そう言うとファースは蜘蛛足をわきわきと動かしながらにっこりと微笑んだ。


「……良いんですか…私……」

 サクリーシャの身体の震えは、喜びによるものに変わっていた。カードをまじまじと見つめ、瞳はキラキラと輝いている。

 ファースとメフィはそれに答えるようにゆっくりと頷く。

「…ありがとうございます!!」

 サクリーシャは今度は心からの笑顔で、弾けんばかりに明るく笑った。


 ―――


「―では、これにてすべて終了ですが…何か質問などはございませんか?」

 今回の判定は良い意味で期待を裏切られる形となった。その為、異議を唱える者はもちろんいなかった。


「…そうだ、忘れるところでした…皆様に、先日の依頼の報酬をお渡しします」

 次にファースから出た言葉は意外なものだった。

 先日の依頼に関しては、特別に時間を設けてもらって受験させてもらうための交換条件であり、報酬をもらうつもりはまったくなかったからだ。


「えっ…報酬だなんて、そんな…試験していただいたのですから」

 フィミリーも同じように考えているようで、遠慮がちにそう言った。

「いえいえ……もう必要無くなってしまったので…皆様の旅に役立てて下さい」

 そう言ってファースが差し出したものは、賞金となんと『聖なる結晶』そのものであった。


「これは!これをもらってしまったら…!」

「皆様の言わんとすることは分かります。しかし、これを皆様にお渡しするのは、依頼人の意思でもありますので」

 動揺する一行に対し、ファースは制止するように言った。


「依頼人の…当ガーディアン大神官、ラルメルがぜひにと」

 メフィもすかさず付け加える。

「どんな傷でも治せるそうですが…重病には効かぬようです……」

 そう言うメフィと、ファースの表情はとても悲しいものだった。


 ―――


「では皆様、もしまた近くに立ち寄ることがあれば、元気なお姿を見せて下さいね」

「何か困ったことがあればいつでも連絡して下さい」

 メフィ達はシントライデル城下町の入り口まで見送りに来てくれていた。

 ほんの数日間のことだったが、この二人には計り知れない恩が出来た。

 セシリオも声が届かないなりに精一杯の感謝の気持ちを表現した。


「何から何まで、本当にありがとうございました」

「名残惜しいですが…お二人も忙しいでしょうしこれで失礼します」

 仲間たち全員が二人に感謝の気持ちを述べ、必ずまた再会することを固く誓いながら、一行はシントライデルを後にした。


 次に目指す先は新たな大陸…の前に、シントライデル大陸最北端のジャジュ村だ。

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