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呪われた記憶  作者: 眠兎あみ
本編
28/92

ランクアップ試験~セシリオ~

 自分の相手がメフィだということはあらかじめ決まっていたようで、メフィとファースは話し合う様子もなかった。

 これまでの流れから推察するに、初めからメフィが出てくるということは、セシリオが(想定外に参加したサドを除いて)最も強いと思われている…ということだろう。


(……俺がなんとかAランクの取得をせねば…)

 これから旅を続けるにはシントライデル領以外の大陸へ渡ることも必須になってくるだろう。

 このメンバー全員で大陸を渡るには、少なくとも二人がAランクの取得をしなければならない。

 見事な実力を見せつけたサドではあるが、途中でああなってしまった以上、棄権という扱いとなってしまってもおかしくない…


(メフィの実力は確かなものだが、ファースほど器用ではないように思える…)

 初めにメフィと会った時と、今回のサドとの試験を見るに、彼女は典型的な剣士型であり、ファースのように戦術を練るタイプには見えない。セシリオはそこにかけることにした。

(しかし油断は禁物だ)

 セシリオはついいつもの癖でまた考え込んでしまっていたことに気付くと、メフィのもとへと足を速めた。



「では、セシリオ王子!試験を開始させていただきます!」

 セシリオがメフィの前に立つやいなや、メフィはそう叫びレイピアを携え突進してくる。セシリオの準備を待つことはなかった。

 それをある程度予測はしていたセシリオは、素早く杖を取り出すとそのままメフィと打ち合いを始めた。


「ほう!セシリオ様は杖を打撃に!」

 しかしそう言うメフィは、杖を剣のように使用するセシリオに対し、それほど驚いている様子ではなかった。

 特に意表を突かれたという訳でもなさそうなメフィは、サドの時と同様に非常に楽しそうに剣を振るう。


 遠目から見ているだけでも非常に見事な手捌きだとは思っていたが、やはり実際に受けるのとでは訳が違う。

 使用しているのが細身剣だとは思えないほどの重い一撃が、細身剣の長所である速さを以て襲いかかってくる…といった印象だ。


 杖での打撃にはかなり自信を持っていたが、メフィにはまったく通らない。まるでセシリオの攻撃が読まれているかのようにきれいに全て弾かれてしまう。


(このままでは消耗するだけか…)

 相手のスタミナ切れはまず望めないと判断すると、セシリオは魔力を使う決心をする。

 杖を持たない方の手に力を込め、メフィの足下めがけて軽い衝撃弾を放った。

「うお!」

 ちょうどメフィが立つ部分だけを低威力の魔法で崩し、彼女の隙を誘うと、セシリオはすかさず杖で相手の胴を軽く薙いだ。

「ぐっ!」

 メフィは少し呻いたが素早く立ち上がり、再びセシリオに向かって来た。ダメージはまったく無さそうにも見える。


「まだまだ!どうぞ持てる力すべてで!!」

 メフィは不敵な笑みを浮かべながらそう言い放つと、先ほどよりもいっそう力を込めつつセシリオに猛攻撃を仕掛ける。

(…本当に、歳に似合わぬ実力だ)

 セシリオはこの年齢でガーディアンマスターを務めるメフィの実力を改めて感じていた。


 このままでは彼女を打ち負かすことは出来ないだろう……しかし年端もいかぬ少女に、いくら試験といえども呪われた魔力を惜しげもなく使うということはどうしても憚られる…

(だが仕方がない…)

 セシリオは再び妨害程度の威力の軽い魔法を放ち、メフィが怯んだ隙に素早く後方へ跳び、早口で詠唱を始めた。


「させませんぞ!」

 メフィはレイピアを構え突進してくるが、セシリオはそれをギリギリのタイミングで回避する。

 思わず詠唱を中断しそうになりつつも、その場に手をつき地面に向かって魔力を放ち、その反動を使ってふわりと横へ跳びメフィの追撃をかわした。


 メフィは再度打ち合いに持ち込むべく、必死でセシリオとの距離を詰めようとするが、追い付かれそうになると先ほどと同様の方法でセシリオはうまく距離を取った。

 その時間稼ぎの間、セシリオは魔法の詠唱を続けた。


「あれは…!」

 この様子を、魔法に関してある程度の知識を持つ者が見れば、セシリオの放つ魔法がいかに特殊かが分かる。

 その場ではフィミリーとファースがそれに該当し、特に初めてそれを目にするファースは衝撃を受けているようだ。

「ファースさん、僕も初めはとても驚きました…」

 フィミリーはファースに向かってゆっくりと何度も頷く。その顔は先ほどまで落ち込んでいたとは思えないほどに誇らしげだ。


「…フィミリー、なぜ驚くの…?」

 サクリーシャとチユキはファースたちの様子が解せないようだ。

「そうですね。簡単に説明しますと…セシリオ様の扱う魔法の属性に関してですね。攻撃魔法の中に、いくつか属性があることはもちろんご存知だと思いますが…」

 フィミリーはセシリオを讃えることに関しては非常に饒舌で、少し早口になる。


「魔法属性の中には、相反する属性…というものがいくつかあります。…分かりやすいものだと炎と水ですとか、光と闇などですね」

「…相反する属性を、一人の人間がどちらも使いこなすということは…基本的にはないはず、なのですが…」

 フィミリーの言葉を補うようにファースが呟いた。

「セシリオ王子の使用している魔法からは、光と闇の両方の性質を感じます…」

「そうなのです!!セシリオ様はそれを可能とするのです!!元々光属性を得意としていたそうで……!…闇属性を宿したのは…呪いの影響が強いようなのですが……」

 嬉しそうだったフィミリーの表情は、そこまで言うとだんだんと曇り、言葉も弱々しくなっていく。

「……呪いの影響なので、ご本人はあまり喜ばしく感じていないようです……」

 フィミリーはしゅんとうつむく。


「…なるほど……ところでその相反する属性って…例えば炎属性の魔物には、水属性が良く効くとかいうあれ?」

 落ち込むフィミリーにサクリーシャが問う。

「いえ、それとはまた別です。水属性の魔物には森属性の攻撃が効果的ですが、水と森の両属性は相反してはいないので、どちらも使う術者は普通にいます。僕もそうですしね」

 サクリーシャとチユキはそろそろ頭が混乱してきそうになっている。


「属性間の効果的な相性とは別に、共存し得ない特定の組み合わせがあり……しかしセシリオ王子はそれを操っている。というわけです」

 ファースの要約を加え、サクリーシャとチユキがなんとなく理解したその時、試験場に人を数人は包めそうな、大きな光の球体が現れた。

「なっ!?あれは!?」

 バチバチと火花を散らしながら光を放つそれに、全員が驚愕する中、その球体の脇からセシリオが姿を現した。


 そして彼が杖をひと振りすると、球体は大きな音をたてて弾け飛ぶ。

 するとなんと中からメフィが放り出された。彼女の身体はくるくると勢いよく転がりながら、試験場の端まで弾き飛ばされてしまった。


「メフィさん!」

 その様子に驚いたファースが声をかけると、メフィはすくっと立ち上がった。

「…大丈夫だ……」

 メフィは全身砂ぼこりだらけになっていたが、毅然とした様子でセシリオのもとへ歩み寄った。

「…セシリオ王子、他にアピール出来ることはありますかな?」

 メフィは大がかりな攻撃を受けておきながらも非常に落ち着いている。

 彼女の言葉に、セシリオはゆっくりと首を振った。


 先ほどの光の球による攻撃の実態はというと…まずはメフィに勘付かれないように回避するふりをしながら、ぐるりと円を描くように地に魔力を溜めていき、彼女を自身の魔力で囲む。

 そして呪いによる力と地に溜めた魔力をうまく融合し、それでメフィを取り囲み爆発を起こした…というわけだ。

 メフィからすれば、足下から突如現れた大きな布で全身をくるまれ、その布を風船のように破裂されたというような感覚だろうか。


 呪われた魔力も使用した大きな技だ。セシリオにこれ以上のことは出来ない。

「…やはりそう言われると思いました。これ以上続けても同じでしょうな」

 メフィの口から出た言葉はセシリオにとって意外なものだった。

「…私が相手でご不満でしたかな?こんな小娘に…と……」

 メフィの伏し目がちの瞳は、明らかに不服そうな光を宿している。セシリオはその理由に気づけないが、とりあえず首を横に振った。


「…まあ…確かにそれとは少し違うかもしれませんが……セシリオ王子、貴方は今回、一瞬も全力を出していないでしょう」

 彼女の瞳は、セシリオの中の甘さをすべて見透かしているようだ。

 何も言い返すことは出来なかった。正直、あれだけ派手な技を使えば、彼女を()()()()()()()()合格ラインに乗れるだろうと思っていた。


「おそらく相手が私でもファースくんでも同じでしょう。先ほどの魔法も、見た目こそ凄まじいものでしたが、私はこのとおり、ほぼノーダメージです……私の印象ではありますが、この威力が貴方の全力だったとは言えないのでは」

 セシリオはメフィをみくびったつもりはもちろん無かったが、いかに彼女を傷付けずに試験をクリアするかを考慮した戦い方をしたのは紛れもない事実だ。

 そして相手がファースでも同じことだっただろうという点や、あの魔法が完全な見かけ倒しだったという点も、すべてメフィの言うとおりだ……


「これからさらに厳しくなっていくと思われる旅において、その優しさが害となりませぬよう、充分にお気を付け下さい……」

 余計なお世話ですが、とメフィは付け加えつつセシリオに背を向けファースの方へ歩き出した。


 メフィは、セシリオの予想を遥かに超える洞察力の持ち主であった。

 あの激しい打ち合いの中で、そのようなことまで見抜いていたというのか……

(…これは……やってしまったな……)

 セシリオは、自身にかかっていたともいえる試験の結果に、暗雲がたちこめるのをひしひしと感じながら仲間たちのもとへと戻るのであった……

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