第五十五話
そして、気づいたように背中の翼を消す。
その後。彼は辺りを見回し、顔をしかめた。
(やはり、子供しかいない……か…………)
突然現れた彼に、中にいた子供たちは怯えの色を示している。
この子供たちは肌の色も、髪色、瞳の色すべてばらばら。
そのほとんどが、異形と呼ばれる子供。
人間の子供は数名。
シルヴィオはそんな中から、銀髪で藍色の少年を見つけた。
しかし、自身がなかったため、問いを投げる。
「ルッティーフ公爵家の人間だな?」
シルヴィオがそういうと、銀髪の少年だけでなく、その隣に居た赤髪の少年の肩も揺れた。
これに、確信を持った彼は、二人に近づく。
赤髪の少年は、銀髪の少年を庇うよう、少しだけ前に出て、金の瞳をまっすぐシルヴィオに向けた。
「……名前ぐらい、名乗ったらどう?」
シルヴィオは赤髪の少年にそういわれ、苦笑した。
「シルヴィオ・レファニア・ファバル。前皇帝陛下から、第三皇子という地位を与えられていた」
「第三皇子殿下はすでにお亡くなってる。死者を語るなんて、どういう了見です」
赤髪の少年は怪訝そう眉を寄せる。
シルヴィオは、そんな少年に苦笑を浮かべた。
「でっち上げで、自作自演だ」
「誰がそんな戯言を信じると……?」
「さぁ? むしろ、良くこんなに欺くことができたものだと、驚いているくらいだ。そう思わないか? ウェル」
シルヴィオは振り返ることなく、背後に出来ていた、光の柱から出てきたウェルコットに問う。
「まぁ、アレを自作自演と言うあなたが私にはわかりませんが、あなたがそうおっしゃられるのなら、そうなのでしょう」
ウェルコットはそう言いながら、シルヴィオの隣に立った。
「それで、どちらですか?」
「あぁ、銀髪の方だ。赤髪の方は知らん」
「おそらく、遊び相手ですね」
ウェルコットはそう言って、少年二人に近づいて、二人の前に屈んだ。
「ルッティーフ公爵家の方ですね。私と共に、皇国にお戻り願えますか?」
ふわりとほほ笑むウェルコットに、赤髪の少年がひるんだ。
「…………父様と、母様は……?」
「「?!」」
銀髪の少年の言葉に、赤髪の少年は慌てて何か言いたげに振り返り、ウェルコットはほんの少しだけ動揺した。
しかし、ウェルコットのささいな反応に気づいた銀髪の少年は、立ち上がり、シルヴィオを見上げる。
「ねぇ、父様と母様は無事……?」
「…………………………」
少年の言葉に、シルヴィオは沈黙。
そんな彼の方を向いたウェルコットは、悲しげに眼を閉じた。
しかし、それに気づかない少年は、シルヴィオだけをまっすぐに見据えている。
「答えて。ねぇ、無事なの?」
「…………それについては国に帰ってからだ」
「今ここで話して」
「ダメだ。おい、ウェル」
「……はい」
ウェルコットは暴れようとする二人の腕を握り、光の柱に巻き込んで消えた。
しばらくして、ウェルコットを探した後。
彼のもとに移動したシルヴィオ。
それまでの間。
残していく子供が心配だったが、何より他国の事。
彼がどうにかしたとしても、この国の決定ではない。
何より、この子供中にはファバル皇国民はいなかった。
(所詮他国の事)
シルヴィオはそう、言い訳じみたことを考えていた。




