閑話 その61.6 「本多啓太郎3」
ちょっと長くなってしまいました。
1泊2日の海、2日目の朝は微妙な空気だった。
「カズ、本当に大丈夫かい?」
「ああ、問題ない」
そうは言うものの、カズの調子がどうも悪いみたいなんだ。
昨日の朝、みんなで集まったときは普通だったけど、海の家についてから、少し雰囲気がおかしくなってて、今朝はさらに何だか落ち込んでいるようだった。まあ、本人が何かを言ってくれるわけでもないし、これ以上の詮索は気分を害するだろうから、深くは踏み込まないようにするつもりだけど、少し気にしておいた方がいいかもしれない。とはいえ、この微妙な凹み方は横にいるユージのテンションを分けてやりたいくらいだよね。
身支度をさっと整えて、3人で朝食の部屋へ向かう。部屋の襖を開けると、僕たちの方が先だったようで、人は誰もいない。でもすでにお膳が7つ並べてあって、湯気が立ち上ってる。
「僕たちが先だったみたいだね。
すぐに来るだろうし、準備しておこうか」
僕の呼び掛けに、カズもユージもぱっと動いてくれる。2人とも、よく気が利くいいやつだ。3人で手分けしてご飯とお汁、お茶の準備を済ませたところに、女子が入ってきた。
「おはよー、ってもう準備してくれてるの?!
ごめんね、昨日の晩ご飯もやってもらったのに」
先頭で入ってきた小川さんが配膳が済んでるのを見て頭を下げたから慌てて返事を返す。
「僕たちの方がちょっと早かっただけだから、別に構わないよ」
小川さんがありがとうというのに続いて、後から入ってきた3人もお礼を言ってくれる。こういう言葉の掛け合いができるのが、うちの班が上手くいってる理由なんだろうって、いつも感じるな。
みんなでいただきますの挨拶をして食事を始める。体調はみんな悪くはなさそうだったけど、天宮さんの雰囲気は少し変な感じがした。そういえば、彼女も昨日の海の家についた辺りからいつもと違う感じだったっけ。北本さんたちが着いてたから心配ないと思ったけど、昨日よりも凹んでるような感じがするな。……昨日といい今日といい、カズと同じタイミングか。
準備を終えて浜に出て、まずは着替えることになった。
「なあ、着替え終わったら俺、別行動でいい?」
「荷物を預けるまでは一緒に行動しろよ、その後は自由でいいからさ。
お昼も一緒じゃない可能性の方が高そうだし、集合時間だけは守ってくれよ?」
「ああ、大丈夫だって!」
楽しそうなユージに対して、黙々と着替えるカズ。やっぱり何かあったっぽいな。
着替え終わって外に出ると、女子はまだみたいだった。まあこういうのは男子が早くて当たり前なんだろうけど。
「ごめんなさい、お待たせ」
「大丈夫だよ、僕たちもさっき来たところだし」
「じゃ、荷物預けに行こうぜっ!」
程なくして出てきた女子4人は、それぞれによく似合う水着だった。普段見ることがないだけに、少し目のやり場に困ってしまうけど、そんなことを考える間もなくユージが歩き出してた。よっぽど早く行きたいんだろうな。
荷物を預けるときに、おばあちゃんの厚意でパラソルを用意してくれていたので適当な場所に立てる。この陽射しだと、休めるところがあるっていうのは大きい。それに稲森さんがレジャーシートを準備してくれてたのも助かるね。パラソル設置早々、北本さんが天宮さんにサンオイルを塗ってもらうもらわないで盛り上がったりして、そのテンションのままみんなで海へ向かった。ユージも一声掛けて、別行動に。
女子は水の掛け合いをして楽しんでいるみたいだから、まずはカズに付き合ってみるかな。
「カズ、まずはひと泳ぎしてみる?」
「そうだな……」
僕もカズも、水泳は割と得意な方だけど、海とプールは全然別物だから、しっかりと準備運動をした上で、まずは軽く泳いでみる。
先に行くカズを追って少し沖へ出て、少し深いところで潜ってみた。底の方へ行くと水温も低くて、身が締まるような感じがするけど、上がってくると、夏の陽射しがすぐに体を温めてくれた。
「一度戻ってみんなと合流しないか?」
「ん?……ああ」
しばらく泳いでから尋ねると、少し微妙な間があったけど、カズは頷いた。特に嫌そうな感じも受けなかったので、そのままゆるゆると浜まで戻ってくる。
「せっかくだし、何かみんなでできることがないかな?」
「そうだな、ばあちゃんところで何か借りようか?」
カズの提案に乗って海の家でビーチボールを借ることにした。
女子に合流すると、みんなも賛成してくれたからそのままビーチボールバレーに。
テンションの上がった北本さんのスパイクも、カズが上手く飛び込んで拾ったりして、なかなかに盛り上がってた。カズも調子戻してきたかな?
しばらく遊んだあと、休憩しようってことになってみんなでパラソルまで戻ってきた。少し喉が渇いてきたから、何か買いに行こうかと思ったんだけど、みんなの注文も受けることになってしまった。
「もう……ごめんね、サクのせいで」
「別に構わないよ。
それより稲森さんまで付き合わせちゃってごめんね」
「それこそ気にしないで」
全員分は流石にって思ったのか、稲森さんが一緒に買出しに付き合ってくれる。注文の種類が多岐に渡るから、自販機の方が良さそうっていう稲森さんの提案に乗って、少し遠いけれど昨日旅館へ行く途中に見つけておいた自販機へと足を向けた。
「稲森さん、変なこと聞くようだけど」
「え、何かしら?」
「うん、昨日から天宮さんの様子が少しおかしいような気がするんだよね。
稲森さんは何か感じてない?」
予想外の質問に驚いたのか、稲森さんが少しきょとんとした表情になった後、苦笑いに変わった。
「流石本多くん、よく見てるわね。
わたしも昨日の朝、あの虫騒ぎの後から何となく変な感じがしてたんだけど……」
少し言いよどんだ稲森さんへ視線を送ると、再び話し始めてくれる。
「今朝もちょっと何か変だった……」
「そっか、天宮さんもか……」
「も、って?」
「あ、うん、どうもカズも変なんだよね……
もしかして何かあったかな?」
うーん、と頭を捻ってしまう稲森さん。結局自販機に着くまでも、ジュースを買って戻る間も、結論らしいものはでてこなかった。
「葉月!本多くん!」
「どうしたの……?」
「ひなちゃんが……戻ってこないの!」
パラソルに戻ると、小川さんが1人で焦ってた。
「どういうこと?」
「2人が買い物に行った後すぐに、枚岡くんもちょっと行ってくるって出て行って、その後ひなちゃんがお手洗いに行くって……でもちっとも戻ってこないの。
サクが探しに行くって……」
「わかった、僕は監視員のところに行って、放送とか入れてもらえないか聞いてみるよ。
稲森さんと小川さんはここで待ってて」
「私も探しに行くっ!」
「……結衣子、探しに行くのは構わないから、落ち着いてね。
それから、しばらくしたら必ず一度戻ってくること、いいわね。
本多くん、そっちはお願いね。
わたしはみんなが行き違わないようにここで待ってるから」
きっと稲森さんも心配だろうけど、しっかりと言い切ってくれたから任せやすい。僕と小川さんが稲森さんに頷いて、それぞれに走り出す。
単に時間が掛かっているだけならそれに越したことはないんだけど……何となく嫌な予感がするな。いや、そんな事考えても仕方がない。とにかく放送をお願いしに走った。
放送の方はすぐに入れてもらえて、何も問題がなければこれで戻ってくるはずだけど、一応念のために、僕もその辺りを確認しながらパラソルへ戻ることにした。
海の家の並んでる方と、波打ち際の方へ、視線を往復させながら戻っては見たものの、天宮さんっぽい子は見当たらない。というか、彼女ならその容姿ですぐに分かるはずだから、ぽいも何もないわけだけど。
そんな風にゆっくりと見回りながら戻っていると、前から稲森さんが走ってくるのが見えて、手を振った。
「本多くん!
戻ってきたわ!」
「よかった、何もなかったんだね」
走ってきた稲森さんが、僕の目の前で少し屈んで息を整える。
「でも、ひなちゃん、枚岡くんに背負われてきて……
2人の感じだと特に問題はなさそうだったんだけど……」
「わかった、まずはとにかく戻ろう」
何があったかは分からないけれど、稲森さんも少し焦りが見えたから、僕が落ち着いていないと。
パラソルが見えたところで、小川さんにも合流することができた。
そして、パラソルで僕たちを待っていたのは北本さんに抱きしめられてる天宮さんと、その横に立っているカズの姿だった。とりあえずは問題なさそうかな。
あれ、カズの雰囲気がいつもの感じに戻ってる。……天宮さんも?
後で機会があれば聞いてみようかな。
さてさて、あと1つ入れる予定です。
次はだれかなっと。




