閑話 その61.5 「小川結衣子」
初の結衣ちゃん視点です。
「ふぁ……ふぅ」
「結衣子、おはよう」
「あ、おはよう。
葉月早いね」
布団から起き上がったところに葉月から声を掛けられた。もう着替えて布団も畳んでるところを見ると、私よりずいぶん早かったみたい。
昨日は1日バイトだったけど、温泉効果とぐっすり眠れたのがよかったみたいで、疲れは残ってないみたい。
サクとひなちゃんはまだ寝てるのかな?2人は対照的だった。サクの掛布団は、ちょっと離れたところにあったりして、女の子らしからぬ寝相……がんばれ、サク。ひなちゃんの方はもっと面白くて、敷布団の中心に掛布団のお団子ができてた。
「合宿の時はこんなことなかったのにね」
「そういえば、ベッドで普通に寝てたもんね」
私の視線を見てか、葉月がくすくす笑いながら言ってる。その声に反応したのか、サクも目を覚ましたみたい。
「うー……もう朝?」
「そうだよ」
「そっか、じゃ起きる」
最初こそぼーっとした感じだったけど、すぐにシャキっとして布団を畳んだサク。下の兄弟がいるって言ってたけど、家ではちゃんとお姉ちゃんがんばってそうだよね。
私もサクも着替えを済ませたんだけど、相変わらずひなちゃんに動きはなかった。
「あれ、この塊、ひなか?」
「うん、そうだと思うよ」
「起こした方がいいよな。
ひなー、そろそろ起きろよー」
サクが布団の上から声を掛けるけど、丸まった布団に変化はないみたい。
「ひなー、起きてるか―?
ってか、何でこんなに見事な団子になってるんだ?」
ちょっと布団に近づいたサクがもう一度声を掛けると、丸まった布団がもぞもぞ動いて、端っこからひなちゃんが顔を出した。
「お、生まれた。
ってか、器用な寝方するなー。
見事な団子に……ってひなどうした!」
サクの声のトーンが急に変わったのを聞いてひなちゃんの顔を見ると、瞼が赤く腫れてた。
「うー?
サクちゃん、みんな、おはよ」
「いやおはようじゃなくて、どうしたんだよ、その目はっ!」
サクがひなちゃんの肩を掴んで、ちょっと強い口調で問い質したけど、ひなちゃんは寝起きなのかぽわっとしたままだ。
「えへへ、何か怖い夢見て泣いてしもたみたい……」
「怖い……夢?」
「もう大丈夫やから、心配してくれてありがと」
口調も何だかいつもよりぽわぽわしたままで、そのままひなちゃんはサクの胸にぽふっと抱き着いた。サクも心配になったのか、ひなちゃんのことぎゅっと抱きしめてる。よっぽど怖かったのかな?いつも以上に小さく見えるひなちゃんをよしよししてるサク、何だか姉妹みたいよね。似てないけど。
「しっかし、どんだけ怖い夢見たんだよ。
すっごいことになってんぞ?」
「えー、どうしよー?」
「何かテンションも変だな……」
「そうかな?えへへ」
んー……ちょっと何か変な感じがする。いつものひなちゃんじゃないみたい。サクの腕の中で少し体を捩って抜け出したひなちゃんの顔は、このまま外に出るのはちょっと……って感じだった。幸い朝ご飯まで時間に余裕があるし、泣いてたってことは無意識に擦ってる可能性、大よね。
「んー……ちょっと氷もらってくるね」
「どうしたの?」
葉月の質問はもっともよね。急に氷って言われても、何のことか分かるわけないよね。私だって最初にこれを教えてもらった時は、まさかこんな方法で何とかなるなんて思わなかったし。
「こういうときって、冷やして温めてってのを交互にすると、血行が良くなって腫れが引きやすいんだよ。
温める方はお風呂のお湯、ちょっと熱めで出せばいけるから、タオル絞って目に当てててあげて」
説明とお願いをすると、葉月が頷いてくれたから、私もさっさと氷をもらってこなくちゃね。
フロントに行くと、ちょうど瑞希さんがいてくれたから、お願いしやすくて助かるわ。
「あの……」
「あら、小川さん、おはよう。
何かあった?」
「ちょっと氷をいただきたいんです」
「氷を?」
「はい、ちょっとひなちゃん、あ、天宮さんが泣いちゃって、瞼が腫れてしまったんです。
それで、冷やすのにいただければと」
「なるほど、ちょっと待っててね」
奥に入った瑞希さんが程なくして戻ってくると、その手には保冷剤とタオルがあった。
「これをタオルで包んで使って。
それにしても、天宮さん何かあった?」
「ありがとうございます。
何か怖い夢を見ちゃったみたいで」
「まあ、そうなの?!
それじゃ早く持っていってあげてね。
もっと必要ならまた来てくれれば、私がいなくても話が通るようにしておくわ」
「ありがとうございます!」
瑞希さんにお辞儀して部屋に急ぐと、ひなちゃんは布団に上向きに寝かされて、目元にタオルが乗せられてた。葉月がちゃんとやってくれてたみたい。
「ただいまー。
保冷剤貸してもらえたよ」
「ごめんね、わざわざありがとう」
「ううん、気にしない気にしない。
私も結構お世話になる方法なんだよ」
「結衣子、そんなに泣いたりすることあるの?」
「む、葉月その言い方なんかとげがあるぞ、なんてね。
私こうみえて結構涙腺緩いの。
ちょっといいお話読んだり、テレビなんかでも簡単に泣けちゃうから。
ほんとは擦らなければあんまり腫れないんだけど、つい拭っちゃうでしょ?」
葉月は別に意図があって言ってるわけじゃないって分かってるから、ちょっとからかうような口調で返してしまう。そのままひなちゃんの目元のタオルを取り上げて、さっきもらってきた保冷剤を包んだタオルを代わりに置くと、ひなちゃんは「ひあっ!」っと可愛い声を上げた。もう、朝から癒されるわ。
「あ、ごめん、これが保冷剤包んでるやつ。
ご飯まで2、3分ごとに交換すればだいぶ違うと思うよ」
「まあ、この顔でご飯行ったら男子もびっくりするだろうしなー」
ひなちゃんの頭を撫でながら、サクがもっともなことを言う。でも朝ご飯までに、だいぶ落ち着くはずだし、きっと大丈夫かな。
それにしても、ひなちゃんどんな夢見たんだろ?ただの怖い夢じゃない気がするけど……無理に聞くわけにもいかないし、しょうがないかな……
何となくひなちゃんに違和感を感じる結衣ちゃん。
でもまだ確信があるわけじゃない、ってところでしょうか?




