↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
探索者試験に十回落ちた無資格の俺、人助けで捕まったら年下の人気配信者の補助にされ、なぜか毎回バズってる  作者: 余田ナツ
1期 十回落ちた無資格、補助になる

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/15

第4話 監督官

 こむぎを抱いて広間に戻ると、受付の前で白髪の小柄なおばあさんが待っていた。


「こむぎ!」


 こむぎはおばあさんの腕に飛び移って、ごろごろとのどを鳴らした。ポケットのおもちゃも返すとおばあさんは目を細めた。


「ありがとうねえ。本当に、ありがとうねえ」


 何度も頭を下げられてどこを見ていいか分からなくなる。俺はリタの腕の画面に目を逃がした。


>よかった


>おばあちゃん……


>無資格ニキ照れてて草


 おばあさんを見送ってから受付のほうを向く。


 あの跡のことは黙っておけない。ドローンがついてくるが、かまっていられなかった。


 窓口へ向かう途中で呼び止められた。


「黒瀬さん!」


 松葉杖をついた三浦がひょこひょこと近づいてくる。


「協会に、けがの届けを出しに来てて。待ってる間にリタさんの配信を見てたら、黒瀬さんたちが戻ってくるのが映ってたんで……。審判のあと、ちゃんとお礼を言えなかったから」


「礼ならいい。それより、ちょっと待ってろ」


 窓口の職員に俺は言った。


「一階の奥の割れ目で、岩食(いわく)いのかじり跡を見つけました。二階の崩落の時と同じ、えぐったような溝です。それも、新しい」


 若い職員は困った顔で奥を振り返った。


「岩食いでしたら、崩落の件の担当の者を呼びますね」


 奥の机から立ってきたのは、権藤だった。


 割れ目の場所と跡の形。俺の話を権藤は最後まで聞かなかった。


「二階の崩落なら、片づいている。迷い込んだ一匹の仕業だ。その一匹は、もう死んでいる。報告書は、私が書いた」


「その一匹だけじゃないんです。削りかすが、まだ白かった。削った岩は、二日もすれば、ほこりをかぶって灰色になる。崩落の日のやつが死んだあとに、別のやつがかじった跡です。一階には、初心者が――」


「測定ゼロの元作業員が、魔物の跡だと?」


 権藤の口の端がわずかに上がった。


「私が十回測って、十回ともゼロだった男だ。そんな男の見立てを、協会が取り上げると思うか」


「ちょっと! ちゃんと調べなさいよ! 映像だってあるんだから!」


 リタが俺の横から窓口に身を乗り出した。その腕の画面にコメントが次々と打ち込まれていく。


>感じ悪っ


>十回?


>十回落とした試験官ってこいつ?


>測定ゼロってマジ?


>ゼロであれやったの?


「赤城(あかぎ)。配信の小道具に、協会を使うな」


 権藤は奥の机に戻ると書類に目を落とした。もうこちらを見もしない。


 報告書は、私が書いた――あの一言で分かった。迷い込んだ一匹で片づいたと自分で書いた件を、今さらひっくり返したくないのだろう。


 一階には試験に受かったばかりの初心者が大勢いる。その足もとを岩食いがかじっているかもしれないのに。


 振り返ると三浦が唇をかんで権藤のほうを見ていた。


「……ひどくないですか、あの人」


「いつものことだ」


 三浦はしばらく黙っていたが、やがて俺に向き直った。


「黒瀬さん。あの時は、本当に、ありがとうございました」


 松葉杖のまま深く頭を下げる。


「瓦礫の下で、もうだめだと思ったんです。息が、どんどんできなくなって。そしたら、黒瀬さんの声がして……」


「……脚、お大事にな」


 それしか言えなかった。こういうのは苦手だ。リタの腕の画面がやけににぎやかになる。


>瓦礫の下にいた人か


>ええ話や


>無資格ニキ、また照れてる


「あらあら」


 広間の入り口のほうから高い声が響いた。


 大きく巻いた金色の髪を揺らして女が歩いてくる。白い上着に金の縁取り。頭の上に浮かんだ白いドローンには赤いランプがついている。向こうも配信中らしい。後ろに続くのは、大きな丸い盾を背負った背の高い若い男だ。


「配信、拝見しましたわ。元特待生のリタさん。補助なんか連れて、ずいぶんにぎやかですこと」


 盾の男はその後ろで困ったように笑っている。


 横を見るとリタの顔からさっきまでの勢いが消えていた。


「……エリザ」


 低い声だった。腕の画面のコメントもざわつきはじめる。


>エリザ様きた


>因縁の二人


>元特待生って言い方よ


 リタの言っていた登録者百八十万の配信者。この金髪の女がエリザか。


「わたくしは明日、三階の岩場で、大きな配信をいたしますの。珍しい魔石が出たそうですわ。リタさんも、猫探しばかりしていないで、ご覧になって?」


 エリザは口もとに手の甲を当てた。


「オーホッホッホ!」


 三階の岩場。


 三階は中ほどの階のすぐ上だ。岩食いが上がってくるならまず通る階になる。


 俺は思わず口を開いていた。


「三階に行くなら、気をつけろ。岩食いが、浅い階まで上がってきてる」


 エリザが初めて俺を見た。頭のてっぺんからサンダルまで。


「補助のあなたに、ご心配いただかなくて結構ですわ。岩食いごとき、わたくしの敵ではありませんもの」


「ご忠告、ありがとうございます」


 盾の男がやわらかく頭を下げた。


「月末のランキング、見てなさい!」


 リタがエリザに指を突きつける。


「ええ、楽しみにしておりますわ。行きますわよ、ニール」


「はい、エリザ」


 二人は売店のほうへ歩いていった。


 リタはその背中をじっと見ている。両手が拳に握られていた。


 元特待生。何があったのかは、知らない。


 リタの腕の画面はまだ騒がしい。


>バチバチで草


>リタちゃんがんばれ


>明日エリザ様の配信も見るわ


「赤城。黒瀬」


 窓口の奥で権藤が立ち上がっていた。顔がこわばっている。岩食いの話をエリザの配信の前でまでされたのが、よほど気に入らなかったらしい。


「明日、試験室で、測定をやり直す」


 権藤はまっすぐドローンを見た。見ている連中に聞かせるように。


「あの映像が作り物なら、お前たちは審判をだましたことになる。裁判所に申し立てる。黒瀬は、元の刑どころでは済まん」


 ダンジョンへの立ち入りを五年禁じる刑。それよりも重くなるということだ。


「それから、赤城。やらせなら、お前の資格も終わりだ」


 隣で、リタが息をのんだ。


お読みいただき、ありがとうございます!


「続きが気になる!」と思っていただけたら、

ブックマークと、この下の☆☆☆☆☆から評価をいただけると励みになります。


毎日7時、12時、19時に更新します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。