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探索者試験に十回落ちた無資格の俺、人助けで捕まったら年下の人気配信者の補助にされ、なぜか毎回バズってる  作者: 余田ナツ
1期 十回落ちた無資格、補助になる

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第21話 申し立て

『【本部公式】特別班の切り札、中ほどの階へ 一番ダンジョン六階』


 昇降機を降りたところに札が下がっていた。「特別班 作業中 立ち入り禁止」。


 公開の討伐まであと二日。今日は、当日に客を通す道を先に掃除しておく仕事だという。


 六階まで下りると白い壁は通路の両側だけになり、天井は岩のままだった。明かりも浅い階よりまばらだ。


 九条の三歩後ろを歩き、言われるままに止める。止めた魔物を九条の風が斬る。止めるたびに体の芯の冷えが一枚ずつ重なっていく。


 曲がり角の先で九条が立ち止まった。


 探索者が四人、魔物の死骸の前にしゃがみ込んでいた。若い男ばかりで手には解体の小刀。魔石を抜いているらしい。


「この階は閉めてある。出ろ」


 九条の声に四人が顔を上げた。一人が九条の腕章を見て顔をしかめる。


「ここは、Bランクなら入れる階だろ」


「今日は、特別班が閉めている」


「公開の討伐が済んだら、どうせ特別班が根こそぎ持ってくんだろ。その前に、ちょっとくらい」


 四人は腰を上げようとしない。


 九条はそれ以上言わなかった。振り返りもせずに俺を呼ぶ。


「補助。あの連中に、帰れ、と命じろ。口で言って聞く連中ではない。お前なら、一言で済む」


 帰れ。短い言葉だ。命じるつもりで言えば四人は自分から帰りたくなって帰るだろう。


 それは、四人の心を動かすということだ。


 人の心だけは言葉で動かさない。ずっとそう決めてきた。式典の日も、逃げまどう二、三百人に、落ち着けとは言わなかった。


 補助は、監督の指示に従うこと――審判の部屋で裁判官は確かにそう言った。ここで断れば五日後の審判で何を言われるか分からない。


「……できません」


「何?」


「人の心を動かす命令は、しません」


 九条が初めてこちらを振り返った。


 背中で白石さんが小さく声をのんだ。紺色のドローンが俺と九条のほうへ寄ってくる音がした。


「できない、ではなく、しない、か」


 九条の目には怒りも驚きもなかった。


「補助は監督の指示に従う。審判の条件だ。報告する」


 分かっている。それでも口は勝手に動いていた。


「報告してください。それでも、しません」


 九条は何も言わずに剣を抜いた。


 黒い刃に風が巻きつく。九条は四人のほうへ剣を振り抜いた。


 四人のつま先の前の岩に深い溝が一本、走った。


「出ろ、と言った」


 四人は魔石も小刀も放り出して昇降機のほうへ駆けていった。


 九条の目が俺に戻る。それきり何も言わない。剣を腰に戻すとまた先に立って歩きだした。


 九条が前を向いているのを確かめてから、白石さんがタブレットをそっと俺のほうへ傾けた。


 タブレットの映像の下のほうをコメントが埋めていく。


>ニキ断った


>帰れって命令させる気だったのかよ


>ニキの線引き、そこなんだ


>報告するってなんだよ


>九条こわ


 白石さんはすぐにタブレットを胸に戻した。


~~


 道の掃除の終わりは六階の奥だった。通路の脇に大きな下り坂が口を開けている。


 深い階へ下りる道だ。その先は特別班だけの区域になる。公開の討伐の日には客もここを下りていく。リタもエリザたちもだ。


 引き返そうとして足が止まる。


 坂は大人が十人、並んで歩けるほどの幅に広げてあった。削り跡の岩が白いままだ。客を通すために最近広げたのだろう。


 それなのに天井を支える柱がほとんど立っていない。坂の口に二本、ずっと奥に一本。柱と柱の間が広すぎる。


 広げたらまず柱。作業員なら誰でも初めに教わる。


 ドローンの明かりが天井をかすめた。白い岩肌に黒く細い筋が何本か走っている。その真下の床にだけ細かい岩の粉が落ちていた。上から、こぼれてきたばかりの粉だ。ひびは、まだ動いている。


 七番の広間の奥のあの脇道を思い出した。柱を一本も立てずに広げた本部の道。


「九条さん」


 気づくと口に出していた。紺色のドローンがこちらを向く。


「この坂、柱が足りません。天井に、新しいひびも入ってます。せめて、坂の中ほどに二本。それまでは、客を下ろさないほうが――」


「補助は、考えるな」


 九条は坂を見ようともしなかった。


「道の具合は、本部の業者が見ている。作業員あがりの見立ては、要らん」


 測定ゼロの元作業員が、魔物の跡だと――七番の受付で権藤はそう言った。あの時もリタのドローンが回っていた。


 白石さんのタブレットが、またほんの少しだけ俺のほうへ傾いた。


>ニキの言うこと聞いとけって


>元作業員の目だぞ


>天井映して


>フラグにしか聞こえん


 九条はもう歩きだしていた。


 昇降機の前まで戻り、白石さんの組が配信を切った。九条は隊員と何か話しながら先に乗り込んでいく。それを待って白石さんが俺の横に並んだ。


 白石さんは前を向いたまま俺にだけ聞こえる声で言った。


「公開の討伐のドローン、一機は、九条班長にずっと付けるように言われてます」


 九条を当日の主役として映すために。上はそのつもりなのだろう。


 だが、ずっと付いているなら――九条の言うことも、することも、一つ残らず映る。


お読みいただき、ありがとうございます!


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